普通の法務の現場録

企業法務人の管理人が、「普通の法務の現場目線」という切り口で、現場の暗黙知を言語化しようと試みているブログです。

【法務】ビジネス法務4月号の新入法務部員向けマニュアル特集を読んで

 ビジネス法務2023年4月号の特集は「そのまま使える!新入法務部員向けマニュアル」というものでした。中々、面白く参考になったので感想を書いてみます。

 

 

 新入法務部員といっても、新社会人から社会人経験豊富な中途採用者まで、他部署からの異動者もこれに含めれば、多種多様な属性の人がいるように思います。ですが、どのような属性の人が来たとしても、最低限の均質化したアウトプットが出せるように働きかけることは部門の役割になってくるように思います。今風な言葉で言えばオンボーディングというやつかもしれません。

 

 こういった切り口で見たとき、本号の特集で面白く読めたのは、「新入法務部員向けスタートアップマニュアル」(佐野太彦、本書16頁‐21頁)、「ゼロから創り上げるサントリーナレッジマネジメント」(間宮千紘・馬場恵理、本書31頁‐35頁)の2つでした。

 前者の「新入法務部員向けスタートアップマニュアル」は、双日で用いているオンボーディング資料を紹介する記事で、具体的には、勤務初日のTo Do、部内一般知識、部内業務知識、全社知識の3つの切り口からなる40ページほどの資料の概略を説明する形になっておりました。詳細は省きますが、このボリューム感でのマニュアルがあるのは、新入部員からするとかなり便利だと感じます。一方で、自社ビジネスに関する章がないのは、もしかすると総合商社のビジネスの特質上、投資ビジネスが主であり、製品や商流といった観点を把握することの位置づけがメーカーなどとは違うのかもしれません。そういった切り口で本記事を読むのも面白いです。

 後者の「ゼロから創り上げるサントリーナレッジマネジメントは、タイトル通りサントリーでのナレッジマネジメントを通したオンボーディングの記事になっており、印象的なのは部内イントラ「LegalPort」を作成しているという点だと思います。アプローチとしては、双日のように「初日」という切り口ではなく、「実際の業務をこなす際」という切り口で構築されているもののように感じました。この辺りの違いは、所属人員の属性や流動性などの違いが暗黙の前提にあるのかもしれず、いろいろな企業の比較をするのは、こういった方針面の違いもわかって良いと感じます。

 

 両記事から得た個人的な学びとしては、オンボーディングというか、その先の最低限の業務の均質化したアウトプットを保証するために、①初日に何を知らせるのか②実際の業務を遂行する中で何を知らせるのか、という2つの切り口がありうるということでした。

 また、①②に共通する事項ではありますが、ここで「何を」教えるのかについては、業種や所属メンバーの属性等を加味して、自社にとって最適な構成を追求していく必要があるとも感じます。例えば、製造業であれば、初日から製品や商流といったビジネス軸の知識を知らせる必要が高い様にも感じます。

 一方、初期のタイミングで積極的に教える必要まではない事項は何かという観点での検討も必要と感じました。法務人員の傾向として、知っておく「べき」であることは早めにすべて教える必要があると考える人が多いように見えるのですが、おそらく、人のキャパシティはそこまで高くないので、あえて教えないことも考える必要があると感じます。ただ、その場合は、知りたいときに知れる構造を作るのは重要と感じます。

 

 学びの多い記事でした。

 

以上

【法務】一法務担当者の私が事業理解と法務相談について考えること

 最近、Twitterにおける法務界隈を見ていると、「事業理解」と「法務」について様々な人がその自身の経験知を言語化しています。

 おそらく、法務の文脈で「事業理解」という言葉が出ると、業種にもよるが現場に行くとかプロダクトに実際に触れてみる、ヒトモノカネの流れを知るなどの「よく言われる言葉」があるように思います。また、少しレイヤーを上げれば、全社戦略における投資ポートフォリオに沿った形で法務リソースを投入すべきといったことや事業戦略における競争ストーリーを阻害する法的要因を取り除くといった形で語られることがあるようにも思います。

 そういった様々な視点での「事業理解」と「法務」の関係が述べられますが、自分自身のコントロールが可能な一法務担当者の私が日々実践していることについて言語化してみます。

 

1.日々の法務相談で意識している点

 端的に言うと、私が意識している点は、事業を理解しようとしていると思ってもらえるようにすることになります。

 事業を理解するとなると、事業の方針や稟議資料、生の業界情報など様々な情報が必要になってくるように思います。これらの情報については自分自身でも日々の業務を通して意識して収集しているところですが、自分一人ではどうしても限界があると感じています。

 なので、自分一人で理解し尽くすことはある意味で諦めて、事業に詳しい人に教えてもらえる状況を作ることは意識しています。具体的に言うと、相談を受けた際には、今やろうとしていることって、〇〇ってことなんですねー、と言葉にすることを強く意識していますこの一言がいえるかどうかでコミュニケーションの質はかなり変わってくると思います

 もちろん、実際に事業を理解した上で事業に則したアウトプットを出すことは最終的には重要だと思います。ですが、事業への解像度が低い状況であれば、ビジネスサイドの方に、こいつは事業を理解しようとしていると思ってもらえるようにすることの方が重要と思います。すぐに事業に則した成果は出せないかもしれませんが、コミュニケーションの中で徐々に生の情報を仕入れていくのは、後々で効いてくると強く感じます。なんだかんだ言って、現場感覚をどのように仕入れていくかを徹底的に考えるのが重要と思います。

 

2.例外的な状況と認識している点

 ただ、案件の性質によっては、一担当者であっても、事業を理解した上でのアウトプットを出すことが強く求められる場面はあるように感じます。例えば、様々な部門が関わるPJにおいて、自分自身の役割が定められ、その部分についてはきっちり自分の責任でこなす必要がある、というような場面では、きっちりと事業を理解した上でのアウトプットが必要になってくるとは思います。この辺りは、自分自身の位置づけを考えた上で職務を遂行していく必要があると思います。

 また、立場が変わると、事業を理解した上でのアウトプットを出すことが強く求められる場面もあるように感じます。例えば、リーダーとしてのポジションで職務を行っていたり、それなりの期間にわたって当該企業に所属し、当該事業を担当していたりするようであれば、周囲からの見られ方として、事業を理解していることが前提となることも多々あるように思います。立場によってどのように見られるのかも意識していく必要があると感じます。

 

 自分が普段考えていることを書いてみましたが、自分の考えや姿勢は言葉にしないと他人には伝わらないというのが根底にあるところではあります。また、そうして伝えた先の相互作用で、自分と他人が成長するというのは意識しているところです。継続して試行錯誤していきたいところです。

 

以上

 

【法務】一法務担当者の私が「若いの」と仕事をする際に考えていること

 企業法務関連の仕事をしていると、どういうタイミングや文脈かはそれぞれだとしても、「若いの」と仕事をすることが出てきます。私も「若いの」*1と仕事をすることがあり、その関係性も、チームリーダーとして、単なるペアを組んでなど、いろいろな形で仕事をしてきたように思います。そこで、後から振り返ることもできるように、これらの経験を通して私なりに考えていることを言語化してみようと思います。

 

1.私自身が「若いの」であった頃

 私自身が企業法務の世界にてキャリアを積み始めた当初、それまでの社会人経験は短いながらもあったものの、いろいろとあったこともあり社会人としての基礎の基礎といったものがあったか否かといえばかなり疑わしいし、ましてやビジネスを見るスキルはゼロでした。

 そのような中、まさに私が「若いの」であった頃は、「センパイ」からの徒弟制のような形で仕事を身に着けていくことになりました。具体的に言うと、よくわからないまま「センパイ」の打ち合わせの現場に同席する、「センパイ」のメールすべてにccが入れられるから始まったように記憶しています。また、具体的な案件対応という観点で行くと、案件の取引先の情報、商流や支払条件などの細かい点について聞き取り等ができていないとかなり細かく詰められることも多かったし、ドラフトについてもかなり細かい点まで見られることが多かったように思います。そして、事業部への返事を行う際は、必ず、私自身が返すように言われましたし、また、実際はかなり手直しが入っていた書面についても私自身がドラフトしたかのように言って良いという環境ではありました。

 今から振り返ると、私自身は、このような「徒弟制」の中でスキルを身に着けてきたタイプだと思います*2

 

2.「若いの」と接する際に考えていること

 上記のように、私自身が「徒弟制」の中でスキルを身に着けていたこともあって、「若いの」には同じようにスキルを身に着けてほしいという想いはあるところです。かつ、教えることを通して自分の思考を言語化することにもなりますので、正直なところ単なる善意というよりは、「自分自身のため」という側面もあります。

 

(1)心がけていること

① 定番の書籍や官公庁のサイトを教えること

 まずは、定番の書籍や官公庁のサイトを教えることはやります。私自身、法務書籍のヲタクであることもあるので、自社ビジネスで関わってきそうな定番については教えるようにしています。もちろん、最終的には自分で書籍の情報を得るというのが重要なので、あくまで導入というイメージではあります。

② 書籍に載っていないノウハウを言語化して伝えること

 書籍に載っていないノウハウを言語化することは意識しています。例えば、売買契約であれば、売り契約であれば代金回収の観点を中心に見る、買い契約であればQCDを如何にして確保するかの観点を中心に見る、また、業務委託契約であれば、コンサル契約のような人的要素が前面に出てくる取引であれば問題が起きた後の契約規範による予防性より信頼ベースで問題がそもそも起きないようにはどうアプローチするか、など、「実務のノウハウ」を言語化して伝えることはかなり意識しています。

③ 「若いの」を観察すること

 観察は怠らないようにしています。例えば、ある契約に関連するセミナーを見ているようであれば、その契約で複雑そうなものがあれば誘ってみたりはします。また、私自身に何かを聴いてきた際には、問題意識も持っており吸収効率も高いでしょうから、その際には質問への回答に加えて、もう少し一般的なことを伝えることもあります。

 

(2)あまりやらないこと

① 細かい添削をすること

 これはやれるならやった方が良いとは思っていますし、私自身もこれによってスキルを身に着けてきた側面はあります。ですが、他の人もよくやっていることなので、あえて私がやる必要はないだろうと考えて、あえてやっていないという形になります。いろいろ教えても消化不良になると思いますので。

② 仕事以外の場面で積極的に関わること

 私自身がお酒を飲めないというのが多分に寄与している面はありますが、正直、雑談は置いておいて、職場で仕事関連で関わって仲良くなるという形での関係の築き方はしていません。私自身は、関わる中で、より成果を出せるようになってもらいたいこと、そのためにいろいろな人と信頼関係を築けるようになってほしいことを根底には考えていますが、その限りであれば仕事の場での関りで十分かなと考えています。

 

3.さいごに

 これからの時代は不確実性の高い時代になってくるでしょうし、各人でいろいろな人生を選び取っていく傾向が強くなっていくのだと思います。「若いの」がそのまま法務としてのキャリアを歩みたいのか、ビジネスサイドへ行きたいのか、他社での活躍を望むのかはわかりませんが、少なくとも仕事で関わった以上は、その一助になれるようにとの意識ではいるところです。

 

以上

*1:私の場合、「若いの」と表現する際は、職務遂行という切り口から、私自身が何らかの影響を与えた方が良いと考えられる対象を指しています。ですので、年齢も一回り上、同年代、一回り下と様々な人をハイブリッドした集合体を「若いの」と形容していることが多いです。

*2:ただし、これはコロナ禍前のフル出社の時期にキャリアの初期を過ごした私であるから経験できたのであって、フルリモートやリモートと出社のハイブリッドの中ではこのような「徒弟制」でのスキル醸成は難しいような気もします。そういう意味では、私の「若いの」であった頃のスキルの身に着け方というのは、部分的にはまだしも、全部が再現性のあるものとはいかないのだと思います。

【法務・アニメ】アニメナビゲーション!法務に役立つかもしれないアニメ10選

 こんにちは!ちくわと申します。

 本記事は、2022年の#LegalAC *1の1つとして書きました。

 

 数年前の#LegalAC において経営アニメ法友会なるものが設立されました。以来、経営アニメ法友会にとっては、#LegalAC の場が年に一度の活動報告*2の場になっております。

 そこで、今回もどのような活動報告としようかと考えるために、本家の経営法友会HPを見ていたところ、「ブックナビゲーション[第1回]本とのつきあい方と企業法務ガイド本」なる月例会を見つけました*3

 乗っかろう。

 その感情だけが沸き上がりました*4

 

 冗談はさておき、これまで3回ほど、法務に役立つかもしれないアニメ10選という記事を上げてきました*5。そろそろこいつもネタ切れだろう…と大多数の人々は考えているのでしょうが、まだまだネタは尽きません!アニメの無限の可能性を舐めてはいけない!

 

 そういうわけで、今年も懲りずに私の独断と偏見しかない法務に役立つかもしれないアニメ10選を選定しました。ただし、今年は一つの明確な切り口を持とうと考え、法務部門で働き始めた頃から今までの自分自身の経験を振り返り*6、配属時から順々に遭遇するであろう悩みについてアニメを参考に解決方法を考えるという実践的なコンセプトでアニメを紹介します。

 

それでは、以下10選です。

 

1.巨人の星(1968年‐1971年)

・いわずと知れた野球アニメの巨星!

・父である星一徹より幼いころから野球の英才教育を受けてきた星飛雄馬花形満や左門豊作らライバルと切磋琢磨する中、飛雄馬巨人の星となるべく一歩一歩その道を進んでいく。

・本アニメのもっとも有名なエピソードといえば、第2話「悪魔のギブス」に登場する大リーグ養成ギブスでしょう。本話では、大リーグ養成ギブスの存在が周囲にバレてしまったことを発端に、飛雄馬が父一徹に「父ちゃんは野球馬鹿だ!」「俺は父ちゃんの犠牲になるのはゴメンだ!」と感情を表すのが印象的です。

・新卒であろうと中途であろうと、法務部門に初めて所属することになった際には不安感があると思います。私もありました。その不安感を解消するためにはどうしたら良いのか…どこまで準備したら良いのか…と頭をよぎったこともありました。ですが、現実的には、ゆっくり焦らず一歩一歩で良いと思います。身の丈に合わないトレーニングは不要と思います。数年の経験だけですが、最初だけロケットスタートで勉強したものの、その後続かずという人も見てきました。まずは、いろいろなことを言う人がいますが、焦らずに目の前の仕事を一つ一つという軸を忘れてはいけないと思います*7

 

2.戦闘メカ ザブングル(1982年)

・主人公が作中で機体を乗り換えるロボットアニメの起源となる作品

・舞台は荒廃した惑星ゾラ。その地で、両親の仇であるティンプ・シャローンを追う主人公のジロン・アモス。目的を果たすため、ウォーカーマシン「ザブングル」を盗もうと考えたジロンであったが、その目論見は失敗し、その持ち主であるエルチ・カーゴやラグ・ウラロと行動を共にするようになる。そうするうちに、この星の真実を知っていく…。

・本作品の特徴としては、ロボットをハンドルで操縦することでしょう。ロボットとシンクロするわけではなく、ハンドル・アクセル・クラッチで動かす。動力もガソリン。渋い…。

・入社すると、何だこの仕組みは…しきたりは…という疑問を抱くこともあるかもしれません。一体何年前に作った規定なんだ…決裁の承認フローに一体何人の人が入ってんだよコレ…ITインフラがなんでないんだ…等々の疑問に感じることは出てきます。私は未だにたくさんあります。が、とりあえずは、なぜこのような古いものが残存しているのかについては一度立ち止まって観察してみるのが良いと思います。

 と、ここまではよく聞く話ですが、直感的に何だこれ…と感じることは、今となっては何の意味もなしていないことも相当数あるというのが個人的な経験です。残存している理由も、何らかの意味を後付けで見出して正当化しているものの、実際は社内調整や面倒ごとを拾いたくないだけで見て見ぬふりをしていることも多々あります。入社したてでそこを変えるのは極めて難しいことなので*8、まずは、そういった事象に対して組織と他の人がどういうスタンスをとっているかを観察してみましょう。本当に相談できる人は誰なのかもわかってきます。組織とそこで働く人を観察した後に、じゃあ自分はどうするか、を考えていけば十分と思います。

 

3.シティハンター(1987年‐1988年)

・現在も続編が作成される伝説的アニメ!

・新宿を拠点に活動する凄腕のスイーパー冴羽獠とそのパートナーである槇村香のコンビは、ボディーガードや探偵業など次々とやってくる難課題を解決していく…。

・本作品といえば、圧倒的なお約束感でしょう。依頼人の美女。槇村香の100tハンマー。ラストシーンに差し掛かった際に流れ出すGet Wild。実家のような安心感。

・焦らずに一歩一歩、組織と他の人をじっくり観察することを覚えたら、そろそろ法務のセオリーを身に着けていく段階になってくる気がします。個人的な経験で行くと、ここが結構ポイントで、単なる契約書の雛形差分とり屋になるか、もう少し抽象的な暗黙知をしっかりと身に着けることができるか、は大きく差がついてくるところかなと思います。OJTをしっかりと受けられる環境であれば良いですが*9、そうでないならばどうするかは一つのターニングポイントでしょう。私の場合は外に活路を求めました。今であれば、スキルアップのための企業法務のセオリー(瀧川英雄、第一法規などの暗黙知を身に着けるタイプの書籍を活用しながら、いろいろと身に着けるツールはあるように思います。試行錯誤ですね。

 

4.機動戦士Vガンダム(1993年‐1994年)

・私が幼少期に始めて観たガンダム

アムロやシャアがいた頃から60年以上も経過した宇宙世紀を舞台に、主人公ウッソを中心に、ザンスカール帝国と戦う民間組織であるリガミリティアの様子が描かれる。

・本作品といえば、シュラク隊やオデロ、ゴメス艦長や偽ジン・ジャハナムまで、主人公ウッソと共に戦っていく人々が皆その命を散らしていくストーリーが印象的ではあります。その中でもウッソは一人になっても戦っていくというのは、本来大人が担うべき責任を子供に担わせる姿が描き出されており、ストーリー全般を通して重い空気の漂う作品とはなっています。

・法務の暗黙知を教えてくれた優しい先輩がいつまでもずっといてくれれば良いのですが、この雇用の流動化している法務界隈では中々そうもいきません。きっちり法務のセオリー的なノウハウも身に着けたな!と思っていたところ、実は先輩に頼っていただけで、先輩がいなくなったら何もできない状況だったとなっては結構しんどいです*10。ですので、日頃から、少しずつでも、自分一人でやっていくイメージをもって先輩との距離感を考えるのが良いと思います。

 

5.夢のクレヨン王国(1997年‐1999年)

・ニチアサ8時30分枠アニメの傑作

クレヨン王国のシルバー王女は、石にされてしまった自分の両親を助けるために、そして、かつて封印されたにも関わらず蘇った死神を倒すために、オンドリのアラエッサ、ブタのストンストン達をお供に旅に出る。

・本作品のOP曲である「ン・パカマーチ」(作詞:森林檎、作曲:有澤孝紀は非常に頭に残ります。メロデイーが非常にキャッチーなものになっておりますし、「問題はどこか当ててみよう」という部分を中心としてたメロは、ふとした時に鼻歌で歌ってしまいたい中毒性のある部分です。

・一人でも自走していくためには、やはり、目の前の仕事における「問題」について言語化できるようになるというのが重要と思います。よく言われる言葉ですと、「質問には質問で返せ」というものがあります。実際にすべての案件でこれをやっていると回らなくなりますが、その意味をもう少し考えると、①質問者は問題を正確に捉えていない可能性があるから問題を正確に捉える助けを行う(プラスの面)②質問者が重要な前提事実を意図的に隠した上でYesの言質を取りに来た場合に身を守る(マイナスの面)*11、の2つに関して、質問者が設定する「問題」については対処していく必要があるように思います。

 

6.星のカービィ(2001年‐2003年)

・実はブラックジョークが多彩な社会派アニメ

・星の戦士として生まれたカービィは、不時着したプププランドにて、フームやブン、メタナイト、そしてホーリーナイトメア社に魔獣を発注するデデデ大王と関わり合いながら、星の戦士としての力を身に着けていく。そんな物語。

・本作品の最も印象深い回としては、第72話「ワドルディ売ります」でしょう。ナイトメア社への借金で首が回らなくなったデデデ大王は、自身の城で雇っていたワドルディたちをすべて解雇し、プププビレッジの住人に売る政策をとります。売る方法としても、ワドルディ自動販売機に入れて売るというもの…。ですが、さすがのワドルディ達は有能でプププビレッジの各々の場所で活躍し、一方でデデデ大王は…というのがストーリーの根幹になります。

・この辺りまでくると、そろそろ仕事の視点を切り替える時期かもしれません。どうしても最初の頃は、法務特有のスキル、具体的には、法的な知識や契約審査のスキルといったものにばかり目が活きがちです。私もそうでした。

 ですが、どこかで、事業を見る目を養った方が良いと思います。例えば、自社のバリューチェーンはどうなっているのか、調達・製造・販売・保守の各プロセスはどの部署がどのような機能を担っており今何を行おうとしているのか、自分は各プロセスにバランスよく関われているのか、など、法的な目線ではなく、事業の目線で自分を位置づけていくことも意識していく時期になってくるように思います*12。ただし、ここは難しいところで、異なるビジネスモデルであれば、事業を見る方法というのも変わってくるので、試行錯誤しながらやっていくフェーズかもしれません。

 

7.ばらかもん(2014年)

・ハートフルアニメのおすすめ作品

・主人公の書道家である半田清舟は、とある受賞パーティにて書道家の重鎮を殴った罰として、長崎県五島列島での生活を通して自分を見つめなおすことを求められる。その地で、半田は、琴石なるを始めとした地元の人々と触れ合うことになり、それまで見つめられなかった自分自身を発見し、そして新たな人生の目標を見つけていく。

・本作品が心を打つのは、ストーリー概要そのものですが、いろんな人との出会いで人は変わっていくというところです。書道の世界に籠っていた主人公も五島列島の人々と触れ合うことで本当に変わっていきます。活き活きとしてきます。ほんとに良いアニメ。

・そろそろ同じ会社の人とだけ話していると閉塞感を感じる頃かもしれません。そんな時は、社外の人と交流することをお勧めしたいです。でも、交流するにも自分に人に話せる実績なんて…と思われる方もいるかもしれませんが、そんなことはないと思います。おそらく、多くの人は、本で学べる知識を話したいというわけではなく、その人の経験したことそのものを聴きたいという方が多い印象で、経験値が少ないのであれば、背伸びせずに等身大の経験を話すことで十分と思います。むしろ、それこそが求められていることと思います。積極的に手を上げていくのはおすすめです。いろいろ変わります。*13

 

8.ハイキュー‼(第1期:2014年、第2期:2015年‐2016、第3期:2016年、第4期:2020年)

・スポーツアニメで熱狂したいならこれだ!

・幼き頃に地元の宮城県立烏野高校にて「小さな巨人」と呼ばれるエースに憧れを抱きバレーを始めた日向翔陽。小柄な身長のハンデにもめげず、同じ烏野高校に入学したセッターの影山飛雄たちチームメイトと一緒に全国制覇を目指す物語。

・本作品の熱いエピソードの一つは、ハイキュー‼ TO THE TOP 第20話「頭」での北伸介の名台詞でしょう。春高バレーの2回戦、烏野高校の対戦相手はIH準優勝である稲荷崎高校。稲荷崎高校の主将である北伸介は、飛びぬけた実力はなく、また、レギュラーでもないものの、「当たり前」を「当たり前に」こなすことに長けた選手。そんな彼の心に残る名言は、

結果より過程が大事と大人が言うて、子供はイマイチ納得せん。でも、俺は大人に大賛成や。俺を構築すんのは、毎日の行動であって、結果は副産物に過ぎん。

というものでしょう。

・ここまで来たら「結果」だけではなく「過程」にも着眼した仕事を意識していきましょう。法的な観点から見れば、デュープロセスや経営判断原則など、「過程」が重要な概念は多々見られます。企業法務の現場に落とし込むと、事業部門としては「数字という結果」に着眼することが多く、「過程」に目がいかないことはどうしても多いというのが肌感覚ではあります。そんなとき、一歩離れたところから*14、「過程」に着眼する冷静さも常に心のどこかにもっていくのもよいかもしれません。

 

9.ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない(2018年‐2019年)

杜王町へ行こう!

ジョジョの奇妙な冒険第4部は、主人公東方仗助空条承太郎を中心に、日常に潜む殺人鬼である吉良吉影を追うストーリー。岸部露伴等の脇を固めるキャラも魅力的。

・本作品の印象に残る回といえば、第10話「イタリア料理を食べに行こう」でしょう。先に挙げたラスボスとなる吉良吉影を追うストーリーとは離れて、杜王町のイタリアンレストラン「トラサルディー」内での健康的な食事が描かれる。トニオさんすごい。

・長く同じ会社にいると、そろそろ、当初に想定していたのとは異なるビジネスモデルの事業が出現してくるかもしれない。例えば、To Bの会社なのに、To Cの事業を営み始めるかもしれない。気を付けることが多いです。もちろん、法務担当者の立場から見ても取り扱う法令が異なってきますし、新たに専門家を探さなければならないかもしれません。また、少し視野を広げれば、ビジネスサイドの「リスク感覚」にズレが生じている可能性もあります*15。そんな時は、冷静になって何が変わるのかを見つめなおすことが必要になりそうです。

 

10.アイの歌声を聴かせて(2021年)

・2021年の劇場アニメでは屈指の名作

・大企業星間エレクトロニクスによる実験都市である景部市において、主人公のトウマたちの通う高校へ転校してきたポンコツAIのシオンによる青春群像劇。「アイ」には「愛」「AI」「I(=私)」の三つの意味がかかってます。

・本作品は何といっても、少し先の未来で実際にありそうなスマートシティを舞台にしているのが特徴だと思います。AIを搭載したロボットが現代の延長線上に溶け込んでいるし、企業の様子も日本の大企業の少し先の姿みたいなところをよく突いています。

・今や、どんな企業にいようとも、事業とテクノロジーとは切っても切り離せないものになってきていると思います。それは、事業理解が必須となる法務業務にも影響を与えてくるのは当然のことです。これまで法務業務の基礎やビジネスの理解も身に着け、外部の人的なつながりも作ってきたのであれば、そろそろ未来に何が起きるのかを想像してみても良いかもしれません。そういったときにはアニメ作品は非常に役立ちます。わかりにくいテクノロジーをうまく表現してくれます。もしかしたら、自社の事業理解にも役立つ時がくるかもしれません*16

 

 以上、皆さんも良きアニメライフをお過ごしください。

 

 私は100選到達までやめません!

 

 次は、アーリー(@neonfumi)さんです!*17よろしくお願いします。

*1:

adventar.org

*2:生存報告。

*3:経営法友会 | ブックナビゲーション〔第1回〕本とのつきあい方と企業法務ガイド本

*4:タイトルも完全に拝借した。

*5:

● 2019年 #裏LegalAC

chikuwa-houmu.hatenablog.com

● 2020年 #LegalAC

chikuwa-houmu.hatenablog.com

● 2021年 #LegalAC

chikuwa-houmu.hatenablog.com

*6:7年くらい。

*7:この観点で行くと、SNSとの付き合い方についても自分なりのスタンスを身に着けた方が良いと思います。書籍購入という観点で言えば、SNSの法務界隈を見ているとどう考えても家の床が抜けるであろう書籍を購入している人もままに見られますが、そことの比較で焦ることなく「自分に必要な書籍を買う」というスタンスが重要かと思います。特に、最初のうちは太い幹を作るイメージ(厚い本や難しい本という意味ではない。)で書籍を選んでいくのが良いと思います。要するに、「基礎を固めるという切り口」を持って書籍を購入することが大事と思います。

*8:私の属性はいわゆる有資格者というものでありますが、同じように組織で働いたことのない人にとっては、組織というものを目の当たりにしてスタンスを考えなければいけない時期が必ず来ると思います。おそらくですが想像以上にしがらみもありますし、人というのはいろいろな考えを持っているものです。そのタイミングで、法律家としての専門的な知識について学ぶだけで良いのか、それ以外の知識(会計や税務とかそういう意味だけではない)を学ぶ必要があるのか、どうするのかを個々人で考えていくのだと思います。

*9:このOJTというのもくせ者で、単なる赤ペン先生的な指導を超えて、そこから抽象的なセオリーを言語化して議論してくれるような環境に出会えるかどうかは完全なる運だと思います。しかも、最初に入って受けた指導というのを「絶対的なもの」と考えてしまいがちなので、そこで視野を狭めた結果、数年後にあのときにもっとこうしておけば…とならないように注意していく必要はあると思います。後悔しない、が大事かと思います。

*10:これって結構あるんですよね。自分に自信がついたな!と感じても、冷静に見ると、実際は先輩や上司におんぶにだっこで、人間関係の根回しや組織のしきたりなんかは先輩や上司に頼りっきりであった。そして、その先輩や上司がいなくなると、同じように仕事を回せなくなってしまう自分の存在に気づく。なので、日頃から、今の仕事で自分が担っている役割は何で、担っていない役割は何かを冷静に見つめるのが良いと思います。

*11:ここも怖いところで、グレーな領域に関してYesという言質を取りに来ているパターンもあれば、完全にクロだとわかっていながらYesと言わせに来ているパターンもあるところです。こういう場面では、慣れない間は即座に上司に相談するなど、質問者に良い様に使われない対応を行っていくことも必要ですし、また、自分の身を守っていくことも必要です。平時では優しい組織や人も、非常時には態度が変わるというのはよくあることです。自分の身は自分で守りましょう。

*12:例えば、若手指導の場面でもこういった視点は役に立つと思ってます。よく若手にバランスよく経験させるという観点で行くと、契約法務や機関法務といった法務業務の切り口からローテーションという発想や事業ごとのローテーションという発想は聞きますが、自社事業のすべてのプロセスを把握できる業務の関わり方をしているかという視座からも若手の業務状況を見るというのは、事業を見る目を養うという観点からは有益だと考えております。

*13:個人的な話をしますと、3年目くらいから、弁護士会、組織内弁護士協会、経営法友会、業界団体、研究会、BLJの懇親会、SNS等を通して、いろいろな方々に会ってきたように思います。当初は、自分のバックグラウンドがいわゆる有資格者であることからか、法律的な側面にばかり目がいき、それのみを「専門性」だと考えていたのは間違いありません。ですが、上記のような場所を通して、様々なバックグラウンドを持つ方々と会ってきたことにより、徐々に自分の考え方が変化していったように思います。具体的に言えば、仕事への向き合い方が確実に変わりました。その他、Twitterでいろいろと見ていると、最初は刺々しいつぶやきしかしていなかった方も、いろいろなバックグラウンドを持つ人と交流することで、仕事に対して幅のあるつぶやきをするようになったと他人の変化を感じることも多々あります。臆せずにアウトプットしていくことの重要性を感じます。

*14:「事業に寄り添う」という言葉を聞くこともままにありますが、この言葉の是非は置いておいたとしても、「事業のことを誠実に考えること」と「一歩離れた立場から事業を眺めること」は矛盾することなく両立する概念だと思います。固い組織論の話をしてしまえば、職務分掌でコーポレート部門に位置づけられるというのはどういうことか(これは「法務の役割」論と混同して議論されることもままにありますが、分けて考えるべき事項と思います)、について考える必要があるということと思います。また、「誰のために」仕事をするのか、というのも同時に問題となってきます。よく「組織内クライアント」という言葉を聞きますが、これは本当に適切な表現でしょうか。どこを見て仕事をすべきでしょうか。市場でしょうか。会社でしょうか。取締役でしょうか。株主でしょうか。事業部でしょうか。上司でしょうか。自分自身でしょうか。難しいですね。

*15:例えば、それまでTo Bのルート営業中心であった会社が、突如、To Cの消費者に関わる事業を始めることになれば、客観的にはリスクは変わってきますが、主観的に見てビジネスサイドにおいてその感覚の「ズレ」に気付かないことはままにあるように感じます。

*16:個人的には、「読む」「見る」ということは、「表現する」「言語化する」に繋がるモノだと思っております。この観点で周囲を見ていると、リアルでもSNSでも読書のジャンルが専門書に偏っている印象を受けることが多いです。専門書と比較して、小説やアニメの特徴といえば、リアルでは中々口にされない感情や考え方というものがきっちりと言語化されて他人にぶつける場面が描かれている、ということだと思っております。事実認定における経験則もそうですし、想像と創造の基礎力もそうですし、こういった小説やアニメから得られるものは、実は回りまわって仕事に役立っているというのが個人の実感です。自分自身の言語化基礎力は、小説やアニメによって養われていると思っております。ネタではなく。

*17:黄色い人。

【その他】一法務担当者が7年間で1000冊の本を読んでみた

 7年ほど前、ふと思い立って、読書メーターなるもので読んだ本を「すべて」記録していくことにした。先月、とうとう、7年間で読んだ本の数が1000冊に到達した。

 

読書メーターより

 

 一応、950冊くらいからは、「もうすぐ1000冊だな…」と自分の中で意識していたのだけども、いざ1000冊読んでみると謎の達成感と自信が生まれたことに気付いた。折角なので、この謎の心境を後からでも振り返れるように、1000冊読むに至った経緯と自分の中での変化をいろいろと書き残しておきたい。

 

1.読書メーターで記録するに至った経緯

 そもそも読書メーターとは、現在は株式会社ブックウォーカーによって運営されているサービスで、読んだ本、読んでる本、積読本などを管理でき、読んだ本については255文字という制約の中でレビューもできるようになっているサービスである*1。また、当然ではあるけども、他の人の読んだ本のレビューも見ることができるし、何なら、お気に入り・お気に入られという形でいろいろと交流もできるコミュニティサイトとなっている。

 記録によると、私は、2015年10月16日に開始したようで、ちょうどこの時期は仕事面でかなりいろいろとメンタルがやられており、今から振り返ると、いろいろと転機の一つともなった時期であったように思う。そんな時に、知人が読書メーターで読んだ本を記録していると言っていたので、私もやってみようかなと思い、記録を始めたように記憶している。

 一応、それまでも本自体は読むことはあったけども、読んでる本の幅が広いかと言われれば結構偏っていたように思うし*2、読んだ本の感想を言葉して他人に伝えるといったことは全く考えておらず、むしろ感想を他人に伝えるというのが非常に苦手であった*3

 こういった前提状況の中で、読んだ本を記録して感想を書くということを続けてみようとなった。

 

2.自分の中の変化の過程

 まず、初期の頃は、255文字での感想を書くのが非常につらかった。言葉が出てこない。というか、感想って何?みたいな感じだった。よくよく思い返してみると、小学校の頃とかも読書感想文を書くというのは非常に苦痛だったし、それ以降も感想を書くということをした記憶もない。なので、最初は義務感だけで書いていたし、何書けば良いかわからなかった。

*初期の感想

 

 で、2年くらい続けていると、結構書けるようにはなってきたことに気づいた。意外と自分で読んでみても「それっぽいことは書けるようになってきたなぁ…」と思っていたし、他人にどういう本を読んでいるかについては話をできるようにはなってきたように思う。加えて、他の人の読んでる本の感想も見ながら、自分の中での読書体験の幅が広がってきたのもこのくらいの時期だと思う。例えば、読んだことない小説とかにも手を出してみようかと思えるようになった感じ。

*2年くらい続けた感想

 

 このまま4年くらい続けてみると、折角なので、読書メーターの255文字という制約を取っ払って、ブログで読んだ本の感想とか諸々を書いてみようかと思い立つようになる。それでこのブログを立ち上げたわけだが、255文字という制約を取っ払った後の世界は厳しかった。要するに、何をどういう切り口で書いたら良いのかがわからない。255文字だと内容のまとめの延長みたいな感じで書けるのだけども、その制約がないと、内容のまとめの延長とは違った切り口で書かないと、まぁ書くことがない。

 今から振り返ると、この頃が自分の中での考え方の大きな変化が生じたように思う。それまでは、地に足ついてるのかついてないのかよくわからない客観的な視座からの評論的な感想が多かったのだけども、視点を「自分」に持ってこようと思い立った。要するに、自分の立場から見た〇〇について言語化するというのを強く意識するようになった。そんな感じで、読書とは少し離れるが、「一法務担当者」という視座でいろいろと言語化するようになった。

*自分の視点という視座を強く意識するようになった辺り

chikuwa-houmu.hatenablog.com

 

 こんな感じで、それから3年くらい、コツコツと、「自分の立場から見た〇〇」というのを強く意識しながら本の感想についても書き連ねてきた。こんな感じでやってくると、「本を読んだ際に自分の中で生じた感情や考えをどう言語化して表現するか」という点に強く意識がいくようになったし、それに伴い、文章を書くということは苦にならなくなった。それが今。

*最近の感想

 

3.1000冊読んで変わったこと

 じゃあ、実際に1000冊読んでみて何か変わったのかというところに焦点を当てると、いろいろと変わったと思う。

 具体的に言えば、自分の感情や考えを言語化することが苦にならなくなったし、むしろ得意になったように思う。それを超えて、他人の話を聴くということも以前よりはマシになったように思う。

 もともと、他人とコミュニケーションをとるのが苦手だったし、特に多くの人がいるところや初対面の人が相手だと何をしゃべって良いのかもわからず、言葉が出てこないということが多々あった。それによっていろいろと苦労したこともある。でも、今では、相変わらず他人とのコミュニケーションはそれほど得意ではないけども、少なくとも、自分の感情や考えを言葉にして伝えるということは苦ではなくなった。この点だけは自信を持って言える。

 まぁ、まだまだ知らないことも多々あるし、想像できないことも同じように多々あるのだけども、多少はマシになっただろうということで、1000冊読んだ効果はあったのかなと思う。なかったら逆にしんどい。

 そんなこんなで、今後も本を読み、そして、その感想を言葉にしていくことで、また違った世界が見えるのだろうと思い、これからもコツコツと続けていく。

 

以上

*1:無料です。

*2:批評系の新書に偏っていた。

*3:初期の感想を今から読み直すと言葉に全然できていないことに気付く。

【書籍】スキルアップのための企業法務のセオリー(第2版)

 スキルアップのための企業法務のセオリー(第2版)(瀧川英雄、第一法規を読みました。企業法務に携わり始めたばかりの人が暗黙知を学ぶための書籍としては、やはりこの本を薦めることになろうと思います

 なお、第1版との比較というよりは、第2版をゼロベースで読んだ感想です。

 

 

第1 本書の位置づけ

 法務の仕事に携わる際にまずどのような本を読むべきか。

 こういう質問を投げかけられたときに、どのように回答するかは結構悩むことがあります。

 もちろん、質問の投げ手の立場からすれば、日頃の業務で契約書の審査をメインにやっているから、そういった契約書の審査を行うために即効性のある本を求めていることも多々あると思います。実際、そういった本を薦めるべき場面もあります。

 ただ、実際の仕事を見ていると、そういった契約書の審査を行うための即効性のある書籍が必要というよりは、もう少し抽象的な法務スキルが成長のためには必要と感じる場面もあるところです。それは、いわゆる汎用的なビジネススキルに限りなく近いこともありますし、法務業務に特殊に見られるスキルであることもあります。また、こういった抽象的な法務スキルというのは、一般的には「暗黙知」と呼ばれる領域のものであり、中々、言語化して伝えられることがなく、他人の背中を見て身に着けるというものになりがちです。

 そういった中で、本書は、可能な限り「暗黙知としての法務スキル」を言語化しており、経験の浅い法務担当者にとっては疑似OJTともいうべき経験ができる書籍になっていると思います*1

 

第2 本書の良い点

 個人的に、本書の良い点としては以下の2点をあげます。

 

 まず、第2部の企業法務遂行スキルの章は、おそらく一般的な企業であれば上司や先輩から教わる部分だと思うのですが、これがうまく言語化されて非常に良くまとまっていると思います。

 例えば、契約審査業務フローというのがあげられているのですが、それについては、

第1フェーズ:案件の把握とビジュアライズ

第2フェーズ:問題点の抽出と解決

第3フェーズ:契約書の修正

第4フェーズ:依頼者への回答

と区分し(本書60頁から68頁)、そのそれぞれのフェーズごとに必要な作業を詳細に言語化しております。

 実際の業務遂行上、OJTを受けるといっても、どこまで詳細に言語化して説明してもらえるかは残念ながら人によって千差万別であり、当たりはずれもあるのが現実かと思います。そういった中でも、本書のこういった言語化された法務スキルを参照することで、OJTを補う効果というのは多大なものだと思います。

 

 次に、第3部の典型的な法務案件のセオリーという部分も、他書とは一味違った切り口での説明がなされていると思います。

 例えば、売買契約のセオリーが説明されているのですが、類書であれば、契約不適合責任とは…や検収とは…といった契約条項からのアプローチでの説明がなされることが多いです。ですが、本書はそういったアプローチは採用せず、ビジネス側からの説明アプローチを採用しているのが非常に特徴的なところです。

 具体例をあげますと、売買契約でも、売りの契約と買いの契約ではみるべきポイントが代わってくるところですが、買いの契約ではQCDの確保という視点を前面に押し出して説明しているのは非常に印象的なところです。また、リスクアロケーションの説明部分でも、マージンの大きさによってリスク許容度が変化して来うる説明がなされている点も非常に印象的です。こういった視点をもって業務に臨めるかで、事業部とのコミュニケーションも変わってきますし、机上の仕事にならない第一歩となるというのが個人の印象です。

 

 こういった実践的な暗黙知言語化がなされているのは非常に良い点と思います。

 

第3 本書の気になる点

 一方で、本書を読む際には、本書はあくまで著者の考える法務のセオリーにすぎないという「限界性」を意識する必要があると思います。

 例えば、先にあげた売買契約のセオリーの部分で言えば、買い契約の説明はその通りですが、売りの契約の説明がそれを反転しただけの説明になっている印象で、売り契約の大きなポイントとなってくる売掛債権の良質さという視点は完全に抜け落ちております。もちろん、自社ビジネスの位置づけや業界構造次第でリスクポイントは変わってくるので、自社ビジネスが売上の面にリスクがあるのか、費用の面にリスクがあるのか等、本書の示すセオリーを軸にはしつつも、その限界性も同時に意識しながら業務に臨むのが、次の一歩になってくるのだろうと個人的には感じました。

 

 また、第2版で改訂されたと思われる箇所が、とってつけたような記述になっているのは少し気になった点です。本書の初版が出たのが2013年で、第2版が出版された2022年まで9年の歳月が流れているところです。その期間の世の中の変化というのはいろいろとあったと思いますし、本書でもその変化については触れているのですが、あくまでもその「紹介」に留まっている印象で、本書でなくても知ることができるだろうというのが感じるところです。むしろ、本書であれば、上記のような言語化部分について、この9年の歳月でさらなる著者のノウハウがさらにブラッシュアップされたことだと思うので、それを惜しむことなく開示してほしかったと考えた次第です。

 

 

 以上、いろいろと書きましたが、良書であることには変わらないと思います。

*1:近い類の書籍としては、法務の技法(第2版)(芦原一郎、中央経済社)も見られるところですが、当該書籍は法的思考をどのように法務業務に活かしていくかという視点が結構出てきており、法的思考に馴染みのある方が読むとわかりやすいですが、そうでない方であれば、よりフラットな本書の方が馴染みやすいと思います。

【書籍】キャリアデザインのための企業法務入門

 キャリアデザインのための企業法務入門(松尾剛行、有斐閣を読みました。地に足付けているけども前向きなやる気を出させる書籍という印象です。

 

 

1.本書の位置づけ

 本書の狙いとしては、法学部生と(法曹資格を有しない)若手法務担当者対して「キャリアを考えてもらう」という点にあると思われますが、この「キャリアを考える」という切り口の書籍には、いろいろなニュアンスの書籍を目にします。

 一つは、バラ色のキラキラした業務を紹介するというものです*1。もう一つは、徹底的な現実主義ということで地味な部分を強く押し出すというものです*2

 そのような中で、本書のスタンスはどのようなものかというと、かなり地に足のついた業務内容を紹介しているけども、地味すぎない形で前向きな業務内容を示していると思われ、中々良いラインを突いていると感じます。例えば、本書において具体的な取引ケースが多々出てくるのですが、ポンプ事業をベースにしたケースが設定されており、いわゆる製造業の法務でありそうなケースとして多くの読者が遭遇しそうなケースを取り上げているなと感じる次第です。

 要するに、本書の位置づけとしては、ターゲットとされる法学部生と(法曹資格を有しない)若手法務担当者に対して、地に足付けているけども前向きなやる気を出させる書籍というあたりになると思います。

 ただし、実際のところ、製造業の若手法務担当者以外の視点で見ると、どのような印象を受けるかはわかりません。例えば、サービスやITといった業種から見ると、どのような印象になるかはわかりません。また、学生の立場からみたときにどのように感じるのかはその想像の範疇を超えるところです。

 

2.個人的に良かった点

 個人的には、以下の3点がよく言語化されていると感じます。

 

① 雛形との向き合い方

 1点目は、雛形との向き合い方に関するものです。

 入社すると、多くの企業で、自社の取引に用いるための契約書の雛形が準備されていると思います。おそらく、新人指導の場面でもこの雛形を用いて指導することも多いことかと思います。

 ただ、この雛形との向き合い方は意外と難しいところがあり、単なる差分比較ツールと捉えてしまうともったいないかと思います。

 そういった観点で、本書では、雛形の背後にある具体的な取引状況をイメージすることを奨励しています。実際の企業法務の現場においても、例えば、同じ売買契約であっても企業ごとに異なる内容となっていることが通常ですし、そのように異なる内容になった背景というのは必ずあるはずです。そうだとすれば、自社の雛形についても、何らかの必然性をもってこの内容になっているはずで、その変遷もあったと思われます。そこを丁寧に紐解いていくことが自社への理解度を上げる方法というのは納得のいくところです。

 

② 交渉コストへの意識

 2点目は、交渉コストの意義がきっちりと書かれている点です。

 自分が法務の職責を担っていると考えると、どうしても何でもかんでもハードに交渉したいという誘惑にかられることはあります。ですが、それは現実出来ではないです。

 本書では、B to C取引とB to B取引の双方の比較から、「画一化」という切り口をもって、交渉コストについて説明しています。抽象的な題目としては交渉コストのことはわかっていても、自社ビジネスでどこまで交渉すべきかという点について、効率性とリスクの双方からしっかりと位置づけを言語化して説明することは非常に難しいところです。ですが、その視点の大切さを思い出させてくれる記述になってます。

 

③ 臨床法務の交渉における考え方

 3点目は、交渉における考え方として、「ビジネス+法律」という2つの切り口から物事を考える必要があるとしっかりと明示している点です。

 実際に法務業務をしていると、お題目のごとく、ビジネスを知らないとダメとは言いますし、誰しも抽象的な言葉ではそれを語ることはできます。ですが、目の前の自身のアウトプットにこれを活かすのが非常に難しい。

 本書では、ビジネス上のメリットがあるのであれば、先方の主張の説得性が乏しくても譲歩すべき場面があるという例があげられています。これは一つの例としてありうるところですし、実際にも、ビジネスラインだけで交渉した方が良い場面か、リーガルも加える場面かなどの判断を迫られることは多々あります。

 法務業務に取り組んでいると、法的な視点でムキになってしまいがちではありますが、そこは大局的な視点を持つべきと認識させてくれる記述になってます。

 

3.その他

 ほとんどの箇所は、上記2のような企業法務の業務の考え方というものを説明し、前向きな気持ちでキャリアを歩めるような構成になっております。

 ですが、前半部分(第1章から第6章まで)と後半部分(第7章から第12章まで)では若干記述の毛色が違うように感じます。特に、後半部分は、前半部分の暗黙知言語化といった要素ではなく、「お勉強」要素が強い気がします。

 また、著者の強い問題意識があるのか、「第12章 公共政策法務」の部分は、実務的なノウハウというよりは、著者の強い想いが前面に出てきている記述になっていると感じました。この部分については、キャリアを歩み始めたばかりの人だけではなく、それなりにキャリアを積んだ人が読んでも得ることのできるものが多い箇所と感じます。伝統的な企業法務の業務範囲からは少しはみ出た部分で、新しい部分を作っていくという意味でも、まだまだやれることはあると感じさせてくれる記述になっています。

 

 個人的には、即効性のある書籍では全くなく、ある意味での企業法務実務の仕事をする上での考え方を知るカタログ的な書籍になってこようかと思います。

 

以上

*1:バラ色のキラキラした業務のみを取り上げていると、読んでいる間は意識が高くなり良いのですが、文章も地に足つかないポエミーなものになりがちですし、何より実際に就業したときのギャップが大きくなってしまうように思います。

*2:実際の業務としては地味な業務が大半を占めるのですが、それだけではなかなかねぇ…というところはあります…。