普通の法務の現場録

企業法務人の管理人が、「普通の法務の現場目線」という切り口で、現場の暗黙知を言語化しようと試みているブログです。

【法務】一法務担当者の私の役割の変化に伴う「変わること」の怖さとその先へ

 こんちにちは。ちくわと申します。

 本記事は、#裏LegalAC 2023の記事として書きました*1

 私は法務担当歴9年目の中堅法務担当者ですが、年次の上昇や組織の変化に伴い、最近、私に求められる「役割」の変化を感じています。そういった中で、「変わること」の怖さを感じることもありました。

 そこで、改めて今年の自分にあった変化をまとめてみたいと思います。

 

1.求められる「役割」の変化と怖さ

 法務担当者としてのキャリアを歩み始めた当初から2、3年前まで、自部門における自身の年次は、一番下付近にいることが多かったです。そのため、自身の案件をこなすことに注力することも多く、どうすれば目の前の案件に対してより深くかかわり、より良いアウトプットを出せるかということに注力してきたように思います。

 ですが、ここ2年ほどで、自身の状況の変化や組織体制の変化など、いろいろな諸事情が重なり、一気に、私の組織における年次が上の方から数えた方が早い状態になりました。

 当然ですが、このような変化に伴い、私に求められるものも変わってきます。特に、法務内のメンバー複数でチームを組んで案件対応に当たる際には、自身が上の年次になってくることから、下の年次のメンバーが主体性を持って関与できるようにいろいろと考える必要もでてきました。例えば、事業部門や弁護士との窓口は自分ではなく、下の年次のメンバーに任せるなどです。

 そうすると、急に感じたことですが、下の年次のメンバーに任せることで、これまでの自分自身の価値観、すなわち「目の前の案件に対してより深くかかわり、より良いアウトプットを出せるか」といったものとの関係で、急に、積み上げてみたものを失う怖さというものを感じました。

 これまでであれば自分が窓口になって作ってきた事業部門とのネットワークについても、下の年次のメンバーに任せることで、急激に失われていくような感覚にも襲われました。また、この案件であれば私みたいなものも失われていくような感覚にも襲われました。

 こういったふと現れてきた「怖さ」を感じたのが、今年の私です。

  

2.マインドチェンジのきっかけ

 こういった怖さを受け入れるか、逃げるか、悩んだところもありましたが、私にとっての解決になったのは、たまたまあった自分自身のライフストーリーを振り返る機会です。

 私自身、社会に出る際には「法律専門家としての自分」をありたい姿として描いておりました。一方で、現在は「組織にいる自分」ということで、その2つの姿をどう考えていけば良いのかに悩んでいたところはあります。

 ですが、今年、たまたま、数人のチームで新規事業を提案する研修に1年弱従事することができました。マーケットの変化の分析、有識者へのヒアリング、スタートアップ企業への訪問など、これまでと異なる視点からがっつりといろいろと経験できました。

 これが自分にとっては、大きなマインドチェンジのきっかけでした。これまでは口では事業を理解すると言っていたものの、ほんとに口だけだったのだなぁと気づかされる機会でした。自分自身、法務の枠に悪い意味で閉じ込めていたなぁと。

 そうこうして、私自身の認識にも変化があったことに気づきました。具体的には、年次を経るにつれて、自分自身の認識が、社内にいる弁護士⇒ビジネスを理解しようとする法務パーソン⇒法務を強みとするビジネスパーソン、というものへと変化してきたことです。

 今となっては、最初に見た「怖さ」や自分自身の姿への「悩み」も、「変わること」への怖さがあったのだなぁと思います。

 

3.乗り越えたその先へ

 改めてですが、私自身が仕事でワクワク感を感じる瞬間は、事実を観察・分析する瞬間です。

 今思うと、私自身がほんとになりたかった職業は「マーケター」でした。法律家ではなかった苦笑おそらく、昔の私は、「街弁」にこの要素を見て憧れたのだと思います。

 今は、せっかくいろいろと気づきを得たので、殻に閉じこもることなくチャレンジしていきたいと考えてます。ビジネスのことをもっと知りたい。そのため、中小企業診断士の取得や国内MBAへのチャレンジしてみようかと思っています*2

 せっかくなので、これまで身に着けてきた法務という専門性×自分のほんとにやりたかったことの組み合わせで、自分なりの法務像を創り上げられればと感じています*3

 今年の私が得た気づきでした。

 

 それでは、明日はにんさんです。

 

 では!

*1:本当は「法務に役立つアニメシリーズ」を書く予定でしたが、忙しすぎて書く暇がありませんでした。なので、年末に改めて書く予定です。

【ご参考】

chikuwa-houmu.hatenablog.com

*2:その他、副あれもあれされたのでいろいろとあれしたいところです。

*3:このようなメンタルになれたのは、ラブライブ!サンシャイン!!の寄与するところが多いです。ラブライブ!は法務に役立つことを再認識しました。

【法務】中堅法務担当の私が足腰を鍛えなおすために読んだ本5選

 法務担当歴も9年目となり、いわゆる中堅法務担当と言われる年次になっています。この年次になると、これまでは与えられた仕事をこなすことが多かったのと比較して、自分で課題を見つけて、部門内外の人にあるべき形を提示し、巻き込み、PJを進めていくような仕事も増えてきます。

 そこで、改めて足腰を鍛えなおそうと思い読んだ本5選を紹介します。なお、いわゆる法務・法律の本はありません。

 

1.コンサル一年目が学ぶこと(大石哲之、ディスカバー・トゥエンティワン)

 やはり初心忘るべからずということで、私個人が社会人1年目の人に紹介する書籍を読み返しました。本書自体は、いわゆるロジカルシンキングの基礎を平易な言葉で説明しており、社会人1年目の人がビジネスパーソンとしてよく出会う言葉・概念などを学ぶために非常に良いと思っております。

 今の私の立場からすると、本書での深み自体はないものの、最低限知っておくべき足腰のベースとなる言葉・概念に抜け漏れがないか、また、自分の言葉で説明し、仕事のアウトプットで使える形になっているかどうかをチェックするために読みました。

 一方で、社会人1年目などであれば、まず、ここに書いてある言葉・概念をビジネスパーソンの基礎力として身に着けていくというのは、一つの指針になると思います。

 

2.新版 考える技術・書く技術(バーバラ・ミント、ダイヤモンド社

 巷でも名著と呼ばれる書籍ですが、この本はすごく難しい本だと思います。

 本書の特徴としては、「どう伝えるか」という部分が記載の前提にあり、その到達点から逆算したビジネスで必要な問題解決力を養うノウハウがふんだんに記載されている点にあります。

 前半部分のピラミッドストラクチャーの構成部分については、たまたま、これをよく理解したコンサルの方に、実際に自分でピラミッドストラクチャーを作っていろいろと指導を受ける機会があったため、あーなるほどと読めるようになりましたが、後半部分は正直理解が追い付いていません。繰り返しですが、ほんとうに難しい本です。

 ただ、やはり、他の問題解決やロジカルシンキングの書籍を読んでも、本書で述べられている事項がベースになっているのは明らかで、本書とじっくりと格闘していくのは足腰の強さになると強く感じます。

 

3.イシューからはじめよ(安宅和人英治出版

 こちらも巷で名著と呼ばれる本ですが、これもなかなか難しい。

 タイトル通り、イシューの質を高めることが知的生産性向上の鍵となると言っている本で、前半のイシュードリブンのところはなるほどと一読してわかりやすいのですが、中盤の仮説ドリブンの話になると、実務で思考する際にどの場面のことを言っているのかがわからなくなって、一気に難しくなりました。

 が、なぜわからないのかを深堀ったところ、問題解決の全体像を改めて見直し、自身の業務でどう役立つかベースで読み直すと、イシュードリブン・仮説ドリブンの双方でなるほどと思える記述が多いというのは気づかされました。

 企画業務などが増えてくると、仮説思考・論点思考は必要なスキルになるのでしょう。

 

4.ロジカル・プレゼンテーション(高田貴久、英治出版

 これは非常に良い本。

 提案は頑張って通さないと通らないものという当たり前のところからスタートし、「論理的に伝える」という観点を非常に丁寧に説明した本になっています。

 法務担当者の立場だと、専門的な知識をベースにやってくる課題を解決するスキルは身に着けやすいところですが、ポジションが上がっていき、部内外の自分とは異なる考えを持つ人を説得する必要が出てくると、「提案」というスキルを意識して磨かないといけないと強く感じているところです。

 前述の「考える技術・書く技術」が非常に難しい本であるのに比べると、本書は、実際の企業のケースを前提に説明を展開していることもあり、スッと頭に入ってきます。「論理的に伝える」という意味を本書から理解していくのは良いと思います。

 

5.問題解決(高田貴久・岩澤智之、英治出版

 これまた非常に良い本。

 前述の「ロジカル・プレゼンテーション」と著者も被っていますが、問題解決の部分についての思考プロセスを網羅的にかつこれでもかと丁寧に書いており、非常にわかりやすい。コンサル書籍ではありますが、トヨタの問題解決をかなり意識している感じがして、事業会社の思考にもなじみやすい。

 本書で良かったのは、発生型の問題解決と設定型の問題解決について、区分し、思考プロセスが書かれている点です。法務担当者の立場だと、前者のような紛争解決などの仕事と、後者のような制度設計などの仕事があるところですが、中堅になって、後者の仕事が増えてきた人には非常に良いと思います。

 こちらも、前述の「考える技術・書く技術」が非常に難しい本であるのに比べると、本書は、実際の企業のケースを前提に説明を展開していることもあり、スッと頭に入ってきます。問題解決の足腰がためには非常に良いと思います。

 

以上。

 

【書籍】スタートアップ買収の実務‐成功するオープンイノベーションのための戦略投資

 スタートアップ買収の実務‐成功するオープンイノベーションのための戦略投資(増島雅和ほか編著、日本経済新聞出版)という書籍を読みました。

 

 

1.私が本書を読んだ際の軸

 私が本書を手に取った理由としては、スタートアップを買収する際の実務的な知見を得たいと考えたことによります。

 本書のテーマに類する書籍としては、スタートアップのファイナンスの視点から語る書籍、スタートアップへの出資という視点から語る書籍、M&A一般の実務的な知見から語る書籍については、良書も多く存在しており、書籍による実務的な知見へのアクセスが比較的容易な状況にあるように思います。

 一方で、スタートアップの買収をストレートにテーマにした書籍というのは中々なく、企業内の実務者からすると、上記のような書籍からの類推、当該テーマを扱ったセミナーでの知見獲得、実務上の知見の蓄積といった方法による実務的な知見へのアクセスが主たるものになっているように思います。

 また、企業内で上層等への説明の際、上層等がスタートアップ買収特有の実務的知見に乏しかった場合、スタートアップ買収特有の事項についてもしっかりと言語化して説明する必要があります。さもないと、一般的なM&Aとの差分が意識されない指示を受けることにもなりかねません。

 こういった観点を踏まえ、「買収者の観点からスタートアップ買収の実務的知見を知る」という切り口で本書を読みました。

 

2.本書の特徴

 本書の大きな特徴としては、一般的なM&Aとの差分としてあげることができるであろう「関係者のインセンティブ構造」を強く意識した点にあると思います。

 まず、本書は、前半部分においてビジネスモデルが未成熟であるというスタートアップの企業のビジネス上の特徴をうまく整理・言語化し、後半部分においてはそれを踏まえたM&Aのテクニック的なことが書かれています。

 法務の立場でM&Aに関与していく場合、企業によって関与の仕方はさまざまなものがあるとは思いますが、DDや契約を通したリスクマネジメントという観点が大きくなってくることは想定されるところです。

 そのこと自体は重要なポイントだと思いますが、スタートアップ企業の買収という文脈になると、多種多様な株主の存在、経営陣の存在、従業員の存在といった多種多様な利害関係者が出現する傾向にあります。また、大企業とスタートアップ企業とでは、企業文化という切り口でも大きな違いがあります。そのような中で、ガバナンスや契約を通して、自社の戦略目的を達成する上で必要なインセンティブ構造はどのようなものかといった点を分析する必要があるのは、スタートアップ企業の買収の特徴になってくるかと思います。そういった点を真正面から論じているのは本書の特徴だと思います。

 本書を読む中では、大企業であろうとスタートアップであろうと、自分の見えている範囲には限界があり、そこに謙虚にならなければならないということを思い出させてくれます。

 

3.本書に書かれていないこと

 一方で、本書を読む上では、本書に書かれていないことも意識すべき必要はあると思います。

 本書でも触れているところではあるのですが、本書を読む上では、大前提としてのM&Aのプラクティスは知っておくべきだと思います。バリュエーションがどのようになされるのか、DDの目的や方法、契約書の典型的な条項など、法務の観点からも必要な知識は別の書籍で仕入れておく必要があります。そうでないと、どの部分がスタートアップ買収の差分になってくるのかを意識できず、本書の持ち味が半減します。

 また、スタートアップ買収の実務という観点で見ても、背景の考え方やビジネス上の特徴という観点に重きを置いており、個々のドラフティングなどを期待して読む書籍ではないと思います。ですので、この部分については別途補っていく必要があるように思います。

 

 とはいえ、本書自体は、類書にないテーマを扱った書籍であり、スタートアップ企業を買収する案件に関わる実務担当者にとって得るものがある書籍だと思います。

 

以上。

【法務】法務担当の私の契約審査の際の「頭の使い方」を言語化してみる

 契約審査と言えば、法務担当なら誰もがやっているところだと思います。

 ですが、その際の「頭の使い方」を他人に教えるとなると意外と難しいと気づきました。

 おそらくこの表現では、中々伝わらないのだなと気づきました。

 ですので、この「ワッとイメージすればモワッとリスクぽいものが見えるから、それをグッと掴んで言語化して分析する感じ」言語化してみたいと思います。

 

 契約審査というと、前提事実と知識をベースに、書かれている文言をロジカルに分析するという頭の使い方が想定されるように思います。ひな形との差分をとるといった工程についてもこのような頭の使い方に含まれる気がします。

 こちらについては、いろいろな書籍などでも書かれていることですし、冒頭の部分とは直接関係がないので、詳細な言語化は割愛します。

 

 それでは、冒頭の擬音交じりの頭の使い方はどういう感じかについて、自分の仕事の際の頭の中を言語化してみたいと思います。

 私のイメージとしては、考える際の視点の主語をカッコ書きとし、そのカッコ書きの中にいろいろなものを入れていくという感じで、思考を発散させるというものです。

 例えば、調達先にある仕様をしていしてモノを作ってもらい、その上でそのモノを買うという契約を想定すると、次のように視点の主語を入れ替えています。

 大前提として、言葉ではなく、案件が想定される場所、具体例でいうと、調達先の工場にてそのモノが作られていく場面はどんな風景かを「画像」的にイメージでしてます。

 その上で、まずは、主語を「私は」として、「私が」その風景を眺めることで「リスクらしきものがないかを観察する」ことを行います。例えば、あそこに置いてあるモノがちゃんと届かなかったら、今回の調達予定のモノが納期通りに届かないんじゃないか…とかです。

 次に、主語を「その風景の中にいる人は」にして、「その風景の中にいる人は」どう考えるかをイメージします。例えば、このモノを客先の現場に持っていく予定だけど、納期厳しいから性能がきっちり出せるかどうかわからんのだよな…とかです。

 最後に、主語を「この案件を遂行するビジネスサイドの人は」にして、「この案件を遂行するビジネスサイドの人は」この風景を見てどのように考えるかをイメージします。あそこの現場へモノを持ってくる業者については心配かもしれんけど、そこまで全体に影響を与える部分には絡んでないよな…とかです。

 これらを通して、ん?と感じた個所については、頭の中で観察したものをそのまま言語化してみます。その時点でリスクらしきものが見えれば、それへの対応策を考えます。言語化があっているかわからないなどということがあれば、それをそのまま仮説としてビジネスサイドの担当者にぶつけてみて意見を聞いてみます。そんな感じで、頭の中のイメージと言葉を繋いでいきます。

 これは「ある一時点のある場所」をイメージしたものですが、案件によっては「別の時点」や「別の場所」に風景を飛ばすことで別の状況をイメージして観察します。

 こんな感じでいろいろと思考を振ったりします。

 

 もちろん全案件ここまでやりませんが、必要に応じて、頭の使い方を意識して切り替えることはしてます。自分のロジックだけでは見えないものがあるというのはその通りだと思うので、頭の中で主語をいろいろと振ってみるというのが、自分の中ではしっくりきています。

 

 もっといろいろとイメージして!と昔は言われ続けて、いったいどういうことやねん…と思ってましたが、試行錯誤しながら上記のような形にはなってきています。

 

以上

【法務】法務担当の私が他社の法務関係者と交流を持つようになって変化したこと

 最近、職場の研修で、自分自身のライフチャートを深堀し、これまでの人生で自分自身にとって変化があったと感じることを言語化する機会がありました。

 そのような中で、自分自身もこれまで明確には言語化できていませんでしたが、私にとって他社の同職種の人と交流を持つようになったことは、仕事人生において重要なターニングポイントだったように思います。具体的には、いろいろな仕事人生があるというのを知れたことは非常に大きな転換点だったと思います。

 

 まず、私自身の属性としては、いわゆる有資格者であるのですが、社会に出る前の時点では企業法務に関わろうという気持ちは一切ありませんでした。この時点では自分自身のやりたいことや向いていることに十分に向き合っていたとは言えませんし、もっと言ってしまうと展望については何も考えられてなかったというのが正直なところです。ただ、漠然と、「法律家という職業」で生きていくのだろうと自分自身を決めつけていたように思います。

 

 そういった漠然とした意識のまま、いわゆる法律事務所に就職しましたが、いろいろとあって短期離職をしました。加えて、当時は業界の氷河期であったこともあり、どこも行く宛てもなかったことから、それまで一切考えてなかった企業への就職という道をとることにしました。この時点でも企業内での法務の仕事が何をやるのか正直よくわかってませんでしたし、いわゆるインハウスとして戦略的に進路を決した人々とは雲泥の差があったように思います。正直言ってしまうと、極めて消極的な理由で働く場所を選んだという形になります。

 

 こういった経緯で企業内で働き始めたわけですが、企業内で働き始めて2,3年の間は、かなりモヤモヤした気持ちがありました。具体的に言うと、社会に出る前の時点での「法律家という職業で生きていくと考えた自分」と現時点での「組織人としての自分」の間で葛藤が生じており、自分自身でそこを解決することができなかったというのがその理由となります。

 そんな形でモヤモヤした気持ちを抱えていたわけですが、というかモヤモヤした気持ちがあったからこそ、その捌け口として、SNSにおいて法務関連のつぶやきを始めたというのが、ネットの世界を通した法務関連の関わりの始まりだったように思います。

 ただ、今思うと、このことは、自分にとっての仕事人生のターニングポイントだったように思います。それまでは自社の人としか法務関連の多少深めた話をすることはありませんでしたが、SNSの海には法務関連の深めた話をしている人々がウヨウヨいることに結構な衝撃を受けました。というか、こんな考え方もあるのかと、今までの自分の視野の狭さを突き付けられたのを覚えています。

 そうこうしていると、リアルの方でもいろいろと出向いていくことが増え、世の中には、同職種の人といってもいろいろなバックグラウンドの人がいるんだなぁと思い知らされたのは良い経験だったと思います。

 この辺りになってくると、先に見た自分自身の「法律家という職業で生きていくと考えた自分」と「組織人としての自分」の間における葛藤も、それほど自分の中では大きな問題ではなくなり、目の前の仕事をコツコツやることで経験から自分なりのアイデンティティを創っていけば良いと思えるようになったように思います。

 

 いろいろ書いてきましたが、当時は何も思っていませんでしたが、歩いてきたあとに振り返ると、あのとき勇気を出して外に繋がりを求めに行って良かったなぁと感じる次第です。それをしなければ、今頃、呪いの言葉を吐き続けていただけのように思います。

 

 おそらく、他社の法務関係者と交流を持つことの意義は人によっていろいろと思います。私のようにアイデンティティの面で何らかの変化が起きることもありますし、もっと実務的な情報交換ということで仕事の成果に変化が起きることもありますし、はたまたそこでの縁で働く場所が変わることもあるでしょう。いずれにせよ、後から振り返ると、少しの勇気で何か変わることもあると感じた経験になっている次第です。

 

以上

【法務】事業部経験のない法務担当の私が事業部経験のある人を見て学ぶこと

 法務界隈を見ていると、事業部経験があることの意義といったことが語られることがあるように思います。そこで、事業部経験のない法務担当の私が事業部経験のある人を見て学んだことを言語化してみたいと思います。

 

1.事業を見る際の切り口

 まず、事業を見る際の切り口については、法務プロパーの人と違う切り口になりやすいなぁとは感じます。

 私も含めて法務プロパーの人の切り口を見ていると、事業に潜むリスクは何かという事業に対して裏側の切り口からアプローチしている傾向があるように感じます。一方で、事業部経験がある人の切り口を見ていると、事業で利益はどのように生まれるかという事業に対して表側からの切り口からアプローチしている傾向はあるように感じます。

 こういった事業を見る際の切り口の違いは、自分と事業部経験ある他人を相対化して、自分自身の見方を改めて考える参考になるなぁと思っているところです。

 これと関連して、最近は、「事業を理解する」という言葉の中身が人によって思考のレベルが違うのではないかという問題意識も持っています。裏側からのアプローチだけですと、どうしてもリスクを把握するために要素還元的な切り口での理解になりやすいように感じます。一方、表側からのアプローチもあると、俯瞰統合的な切り口での理解も加わりやすいようには感じます。

 自分自身としては、やはり、どうしても意識しないと、事業に対してリスクは何かという裏側からのアプローチに終始してしまう傾向があります。ただ、事業サイドの立場に立って考えてみると、裏側からのアプローチしかないと、すべてができあがったタイミングで、できあがったものにリスクはありませんか?という聞き方をするのもそれなりに合理的だと思いますし、自分もそうするだろうと思います。早い段階で法務に相談を!という課題意識はよく言われるところですが、単なるコミュニケーションの問題に終始していることが多く、こういった事業に対するアプローチを裏側だけでなく、表側からもアプローチすることが早めの介入に繋がるのではないか、という仮説を検証していきたいと考えているところです。

 こういった切り口で、法務の機能論としてよくあるパートナー・ガーディアンというのも自分なりの腹落ちをさせていきたいと最近は思います。

 

2.事業部との距離感

 一方で、事業部経験者に対して事業部との距離感が近すぎて一体化しているのではないかと感じることはあります。

 事業に対する思い入れのような感情的なものなのか、はたまた自分の方が事業をうまくできるという自負心なのかはわかりませんが、コーポレート部門であるという組織論としての職責を超えた形での距離感を形成してしまいがちというのは気になることがあります。

 おそらく、1.で見たような事業を見る際の切り口の問題と距離感の問題を分けて考えることで、こういった部分は適正化していくのだと感じるところです。

 組織のコーポレート部門としてどのような職責を担うべきかという観点は常に意識しなければならないと思わされます。

 

 自分自身、事業部経験のある人を見ながら、事業に対して表側からも裏側からもアプローチしつつも、距離感は適正なものを保つという観点について気づかされることが多く、やはり、多様なバックグラウンドの人と接しながら仕事をしていくことの重要性を再認識させられる毎日です。

 

以上

【書籍】実践 ゼロから法務!:立ち上げから組織づくりまで

 実践 ゼロから法務!:立ち上げから組織づくりまで(柴山吉報ほか編著、中央経済社という書籍を読みました。

 

 

1.本書の対象と私が読んだ軸

 本書は、ベンチャー企業や中小企業において、法務体制の構築について悩む担当者に向けた書籍となっています。内容としては、第1部「法務体制構築の考え方と視点」、第2部「実体験から見る一人法務」というものになっており、前者はテクニカルな話が中心、後者は実際の体験談中心になってます。

 これまでも、企業内で法務経験のある方が実務的なノウハウを書いた書籍はいくつか出ておりますが、「ベンチャー企業や中小企業の一人法務」という軸で書かれた書籍は中々なかったため、類書にはない特徴かと思います。特に、一人法務を担う法務パーソンは、大企業のような社内における法務ノウハウがある企業で働く法務パーソンと比較して、顧問事務所や法務コミュニティと接点を持つことで自身のスキルを上げていく必要性がより高いと思われるので、本書の存在は非常に力強いものになると思います。

 

 こういった本書の対象の属性からすると、私はそこからズレているのですが、以下の2点を意図して本書を手に取りました。

 ①職種軸で見た場合の普遍的なノウハウを取得するため

 ②企業軸で見た場合の他領域から自社領域へ適用可能なノウハウを見つけるため

 読んでみたところ、上記2軸で見た場合も非常に参考となる書籍であったため、以下にて具体的な感想を記します。

 

2.なるほどと思った点

 個人的に一番なるほどと思わされたのは、第1部第2章「一人法務としての業務対応」というところです。よく言語化したなぁというのが正直な感想です。特に、一人法務の業務の特徴というものについて、対応が求められる法務の領域が広い、純粋な法務業務以外への対応も求められる、法務組織の基礎作りという3軸で整理されている点は非常にわかりやすいと感じました。

 なるほどと感じた点は上記ですが、私が読んだ軸の観点からすると、業務に関する「Why」の部分がかなり掘り下げられている、「効率性」の部分がかなり意識されているという2点は非常に特徴的だと感じました。組織やノウハウがそれなりに溜まっている法務組織においても、事業の変革に合わせて法務組織・業務というのは変化させていく必要があるところです。そのようなとき、小規模の法務組織では、その組織のフェーズからか、「Why」の部分と「効率性」の部分はかなり重点を置いて意識していると思われるため、自社組織を相対化する上でも非常に示唆的な記述が多いと感じました。

 逆に、「How」の部分はそれほど変わりはないと感じました。この部分は、小規模、中大規模変わらずに、取り入れることが可能な施策が多いという印象です。

 また、純粋な法務業務以外への対応も求められるという点も、中大規模組織であっても、個別の状況やPJごとには柔軟性をもって対応する場面は出てくるのですが、程度の差は大きい部分だなと感じました。本書でいくと、READYFORにおける法務組織の立上げ(草原敦夫、本書163頁‐178頁)では、この点が具体的に触れられていますが、CSから仕事を巻き取った話が書かれており、これはベンチャー企業ならではと感じたところです。

 

3.もう少しと思った点

 2.と比較した場合、第1部第4章「契約書審査の基本とレビューの視点」はもう少しと感じました。具体的には、前半の契約書の意義等を説明する部分は参考になるところも多かったのですが、後半の契約書の形式面・実質面のレビューの部分は一般的な話に終始しているのはもう少しと感じました。

 この部分であれば、がっつりベンチャー企業における契約書レビューに振り切った内容の方が良いと感じました。例えば、2.で見たように、「効率性」といった切り口での実務的なレビューの際のノウハウに振り切るとか、逆に、がっつりとしたチェックリストに振り切るとかを期待するところです*1

 

4.その他

 個人的に感じるところですが、法務界隈においては、法務という職種軸で、企業規模やフェーズに関わらずにノウハウ等を交換し合うことができるのは非常に良い点だと思います。実際、上でも述べましたが、考えにおいて共通するところはありますし、大規模は型を知っている、ベンチャーは効率性やWhyの部分を意識的に考えやすいといったそれぞれの特徴から双方で学べることはあると思います。逆に、自分たちだけの特徴と思っているところも、実は程度の差に過ぎず、それほど違いはないという点も多々あるように思います。ですので、本書のような書籍をきっかけに、多様なバックグラウンドを持つ法務パーソンが交流を図ることで、より良い仕事ができるようになるのだろうと感じるところです。

 

以上

*1:第1部第3章「法務対応チェックリスト」は小規模企業で対応すべき事項がうまくまとまっており、切り口も類書にはないと感じるところです。