普通の法務の現場録

企業法務人の管理人が、「普通の法務の現場目線」という切り口で、現場の暗黙知を言語化しようと試みているブログです。

【法務】ビジネス法務4月号の新入法務部員向けマニュアル特集を読んで

 ビジネス法務2023年4月号の特集は「そのまま使える!新入法務部員向けマニュアル」というものでした。中々、面白く参考になったので感想を書いてみます。

 

 

 新入法務部員といっても、新社会人から社会人経験豊富な中途採用者まで、他部署からの異動者もこれに含めれば、多種多様な属性の人がいるように思います。ですが、どのような属性の人が来たとしても、最低限の均質化したアウトプットが出せるように働きかけることは部門の役割になってくるように思います。今風な言葉で言えばオンボーディングというやつかもしれません。

 

 こういった切り口で見たとき、本号の特集で面白く読めたのは、「新入法務部員向けスタートアップマニュアル」(佐野太彦、本書16頁‐21頁)、「ゼロから創り上げるサントリーナレッジマネジメント」(間宮千紘・馬場恵理、本書31頁‐35頁)の2つでした。

 前者の「新入法務部員向けスタートアップマニュアル」は、双日で用いているオンボーディング資料を紹介する記事で、具体的には、勤務初日のTo Do、部内一般知識、部内業務知識、全社知識の3つの切り口からなる40ページほどの資料の概略を説明する形になっておりました。詳細は省きますが、このボリューム感でのマニュアルがあるのは、新入部員からするとかなり便利だと感じます。一方で、自社ビジネスに関する章がないのは、もしかすると総合商社のビジネスの特質上、投資ビジネスが主であり、製品や商流といった観点を把握することの位置づけがメーカーなどとは違うのかもしれません。そういった切り口で本記事を読むのも面白いです。

 後者の「ゼロから創り上げるサントリーナレッジマネジメントは、タイトル通りサントリーでのナレッジマネジメントを通したオンボーディングの記事になっており、印象的なのは部内イントラ「LegalPort」を作成しているという点だと思います。アプローチとしては、双日のように「初日」という切り口ではなく、「実際の業務をこなす際」という切り口で構築されているもののように感じました。この辺りの違いは、所属人員の属性や流動性などの違いが暗黙の前提にあるのかもしれず、いろいろな企業の比較をするのは、こういった方針面の違いもわかって良いと感じます。

 

 両記事から得た個人的な学びとしては、オンボーディングというか、その先の最低限の業務の均質化したアウトプットを保証するために、①初日に何を知らせるのか②実際の業務を遂行する中で何を知らせるのか、という2つの切り口がありうるということでした。

 また、①②に共通する事項ではありますが、ここで「何を」教えるのかについては、業種や所属メンバーの属性等を加味して、自社にとって最適な構成を追求していく必要があるとも感じます。例えば、製造業であれば、初日から製品や商流といったビジネス軸の知識を知らせる必要が高い様にも感じます。

 一方、初期のタイミングで積極的に教える必要まではない事項は何かという観点での検討も必要と感じました。法務人員の傾向として、知っておく「べき」であることは早めにすべて教える必要があると考える人が多いように見えるのですが、おそらく、人のキャパシティはそこまで高くないので、あえて教えないことも考える必要があると感じます。ただ、その場合は、知りたいときに知れる構造を作るのは重要と感じます。

 

 学びの多い記事でした。

 

以上