普通の法務の現場録

企業法務人の管理人が、「普通の法務の現場目線」という切り口で、現場の暗黙知を言語化しようと試みているブログです。

【法務】「法務の目標設定」に関して一法務担当者なりに考えてみた

BUSINESS LAWYERSさんのサイトを見ていたところ、「法務パーソンの目標設定」という名の連載企画が掲載されておりました。

business.bengo4.com

試みに、「一法務担当者の立場から」法務の目標設定というものを考えてみたいと思います。

 

● 法務の目標設定がなぜ難しいと言われるのか

・当該連載において、法務の目標設定に見られる課題として、次の3点があげられています*1

  • 定量的な目標(実行した業務や契約書のレビュー数など)について適切な目標数値の設定ができるか
  • 定性的な目標(業務や契約書のレビュー品質や他部門からの評判など)についてどのように評価ができるか
  • 組織として行うべき目標ついてのどのように目標設定すべきか(訴訟対応、M&Aなどの突発案件への対応、法改正対応、株主総会対応、コンプライアンス対応など)
  • ・それぞれの要素に関し、もう少し詳しく見ていくと、定量的な目標に関しては、法務の仕事は定量的な評価に馴染まない*2、契約書の処理件数や相談対応件数で評価することは業務評価の正当性がない*3、といった指摘があります。おそらく、売上で数値を図ることが可能な営業部門との比較から出てくる指摘かと思います。
  • 定性的な目標に関しては、おそらく、評価の基軸の設定が難しい、評価に恣意的なものが混在しやすい、誰の視点から見て評価するものなのかがわかりにくい、といったものになるのでしょうか。
  • 組織としての目標に関しては、法務部門そのものの組織としてのミッションや目標が明確に定まっていない*4、といったものが大きいように思います。

● 記事内で指摘される解決の方向性

・以上のような法務部門の目標設定における課題に対し、片岡玄一氏は、目標設定の意義をしっかりと考える必要がある旨を指摘されています*5

・同氏は、目標設定を行う目的として、次の3つがあると指摘します。

 ① 被評価者の成長支援

 ② 被評価者の給与決定

 ③ 組織目標の達成

・その上で、

目標設定に難しさを感じたときは、その原因がこの3つの目的のうち、どれに関連するのかを考えることで、解決の糸口を見つけやすくなります。*6

と言います。詳しくは、上記のサイトを見ていただくとして、先に見た課題に関しても、このような目的との関係で考えていくことを強調しており、時には、ある種の割り切りも必要ではないかとしてきしているところです。

・この点に関して、一法務担当者としても、当該指摘には頷けるものがあります。やはり、目標設定を行うのは法務担当者自身であり、当該担当者が主体性を持つことが何よりも重要だと思いますが、その前提として、目標設定が何のために行われるのか、といった意義をしっかり理解する必要があるかと思います。実際、自分自身が目標設定をする際に、その意義に関し、ここまできっちり言語化できていたかというと、非常に怪しいものがあり、次回以降の改善に繋げる必要はあるかと感じました。

・そして、最も大事な視点として、

被評価者から信頼されていない限り、評価者の声は、どんなに工夫をしてもまったく響かない。*7

ということを挙げられており、極めて当たり前ではあるのですが、意外に忘れがちな視点であることには間違いないと思います。

 

● 一法務担当者としては何ができるか

・さて、以上のような状況を見た上で、一法務担当者としては「法務の目標設定」という課題に対しどのように関わっていけば良いか、自分なりに考えてみます。

・一法務担当者として、最も意識すべきことは、自分自身にコントロールできるものは何なのか、という視点を持つことだと思います。

・よくある一法務担当者の代表的な業務目標としては、●●件の契約審査を行う、●●件の相談対応を行うといったものかと思います。しかし、よく考えてみると、契約審査や相談というものは本質的には受動的な要素が多分にあり、これらを主たる目標として掲げてしまうと、中々、モチベーションが上がらなくなってしまう気がします。

 それならば、むしろ、自分自身がコントロールできるものは何なのか、という視点から、プロセスに対する目標を掲げることも検討しても良いと思います。例えば、契約審査といったものを考えてみるだけでも、契約審査の対応件数を増やす契約審査におけるレスポンスの速度を上げる⇒自身用の契約審査条項集を作成する、といったように、より主体的に取り組める業務レベルにまでブレイクダウンすることができるかと思います。さらに、ここから発展させるならば、⇒条項集を部門内で共有する体制を整備するといったこともできるでしょうし、また、⇒条項集を用いて事業部門内での自立的な契約条項判断マニュアルなどを作成するといったこともできるように思います。

・また、日々の受動的な職務に対する目標設定の角度を変えることの意義としては、空いたリソースで主体的な業務目標を達成するといった目標の掲げ方もできるようになってくると思います。例えば、事業部門に対する●●なリスク管理システムの改善活動を行う(ヒアリングの実施、規定の整備、教育活動の実施等)、法務部門内における課題の解決(新規ビジネスへの対応するための勉強会の開催、マニュアル類の整備等)といった、一法務担当者自身で課題を設定し、それに向けた解決策の企画・立案・遂行とった目標の掲げ方も出てくるのではないでしょうか。

・さらには、一般的には自己啓発的な目標とされるセミナーの受講についても、セミナーを●●件受講⇒その知見の情報共有体制の検討、といっただけでも一つの目標になるかと思います。

・あとは、定性的な面からの納得感という課題もあるかもしれませんが、ここの課題解決策としては、上記で片岡氏も述べるように、評価者との信頼関係といったものに尽きる気がします。自分自身でコントロールできる範囲としては、そのような定性的な側面に対する意識的な言語化効果的なコミュニケーション方法の試行錯誤しかないのかなぁというのが正直な感想です。

・と、ここまでつらつらと考えてきましたが、自分自身にコントロールできるものは何か、という視点から考えると、まだまだ一担当者レベルでも「目標設定」という場面では工夫の余地があると考える次第です。

 

日々試行錯誤中ですが、ざっと考えてみたところを言語化するとこのような感じです。あくまで、一法務担当者の考えとして。

*1:南和気,第1回 人事エキスパートが推奨 組織と個人の力を引き出す法務部門の目標設定,https://business.bengo4.com/articles/617

*2:第3回 法務の目標設定と減点主義のジレンマ ~メーカー勤務・Aさんの場合,https://business.bengo4.com/articles/640

*3:第4回 一人法務の目標設定にみる現実と理想 ~メーカー課長・Bさんの場合,https://business.bengo4.com/articles/641

*4:前掲・南

*5:片岡玄一,第5回 法務の目標設定が「うまく回らない」と感じたときに行うべきこと,https://business.bengo4.com/articles/642

*6:前掲・片岡

*7:前掲・片岡