普通の法務の現場録

企業法務人の管理人が、「普通の法務の現場目線」という切り口で、現場の暗黙知を言語化しようと試みているブログです。

【書籍】Q&A 若手弁護士からの相談199問 特別編―企業法務・キャリアデザイン

 Q&A 若手弁護士からの相談199問 特別編―企業法務・キャリアデザイン(京野哲也編著、ronnnor・dtk著、日本加除出版株式会社)を読みました。企業内で働く法務担当者という軸で読んだ場合の感想を書いてみます。

 

 

1.本書の特徴

 本書を読んだ私の感想としては、企業で働く中堅の法務担当者に刺さる本という印象を受けました。自立して業務遂行ができる前の若手やマネジメントの立場である部課長よりは、実務を主で担当している法務担当者向けの印象です。

 まず、本書は司法研修所教官経験のある弁護士の方1名、匿名の企業法務関係者2名により書かれた書籍で、その構成としては、第1章顧問弁護士編、第2章法務パーソン編、第3章キャリア編という構成になっており、読み手としては、企業の外で働く弁護士や企業の中で働く法務担当者のいずれも読みうる内容とはなっております。特に、本書のはじめにの項目にもあるところですが、コミュニケーションやキャリアといった従来であればOJTや飲みニケーションといった場で先輩から後輩へ伝えられてきた事項が言語化されているのは印象的です。

 また、QA形式をとっていますが、一つ一つのQAが独立しているわけではなく、章立てごとに連続した内容となっており、通読がしやすい構成になっております。むしろ、通読した方がその前後関係も含めて理解しやすい構成になっているように思います。

 類書との比較で行くと、現役の法務関係者が自身の持つノウハウを言語化した書籍というのは複数あり、それらは「著者である私の」視点で書かれていることが多いのですが、本書は「読み手である私の」視点で書かれている印象を受けます。その観点では、中々、商業誌で言語化しづらい観点をうまく言語化している印象は受けるところです。

 

2.本書に書いてあること*1

 本書に書いてあることとしては、上記でも述べましたが、コミュニケーションやキャリアといったものになります。

 印象に残ったQAとしては、Q87「上司に報告すべきタイミングはいつがよいですか?」*2という問いにて、上司は「普通の上司」であることを想定して動きましょうという指摘がなされているもの、Q98「後輩を指導する際の注意点は何ですか?」*3という問いにて、後輩は「信じられない程できない」と想定して動きましょうという指摘がなされているもの、の2つがあります。組織で働く以上、どうしても人間関係に悩む法務担当者も多い印象で、これが原因で転職をする方も相当数いる印象です。そういった際に、上記のようなマインドの持ち方をバシッと指摘してくれる書籍は非常にありがたいところです。

 また、人間関係というと、随所に「ナイスでない人」への対応方法が書かれているのですが、これも同趣旨で良い問いである印象を受けました。

 こういった自部署の中や外の人とのコミュニケーションについては、類書では中々触れられていないので、これを学ぶには良いと思います。特に、中堅法務担当者はこういったコミュニケーションが増えてくる年次なので、参考になることが多いと思います。

 

3.本書に書いてないこと

 逆に、本書においては、具体的な契約審査の方法については一切触れられていません。ですので、契約審査に関して独り立ちできていない法務担当者が読むには、まだ早い気がするところです。

 また、Q47「法務パーソンがビジネスを熟知すべきと言いますが、熟知すべき自社ビジネスの内容は具体的には何ですか?」*4という問いにて、事業理解のための項目をあげていますが、製造業ベースの項目にすぎず他業種への応用可能性がどこまであるのかといった点は考慮する必要はあります。この点も、自社ビジネスの見方が全くわからない法務担当者が読むには、まだ早い気がするところです。

 ただ、上記のような点も、本書のターゲットがどのようなものかを加味すると、それほど変ではなく、本書に求めるものが何か次第な気はします*5

 

4.本書の活かし方

 本書の活かし方とすれば、個人的には、やってきた案件を一人で回すことができるようになった法務担当者が、自分から能動的に組織内外の人と協力してもう一段階実務能力を上げるために読む、という使い方がかなりフィットする印象です。

 周囲を見ていると、この層は次のキャリアをどうするかについて悩む傾向にもありますし、また、地に足つかずに小難しいカタカナの概念的な言葉を振り回してしまう傾向も見て取れるところです。そうではなく、地に足付けた方法で次のステージに行くという方向性を模索するのであれば、本書で書いてあることは地味ながらも地に足付けた実力を身に着けるために寄与することが書かれている印象を受けました。

 結論としては、本書に書いてあるようなことをベースにコツコツやっていくのが良いのだと感じるところです。

 

以上

*1:なお、Q185「転職とそのリスクについてはどう考えればよいですか?」(本書229頁‐231頁)の問いにおいては、「経営アニメ法友会」があたかも経営法友会、組織内弁護士協会および国際企業法務協会と同格の団体かのごとく記載されています。

*2:本書119頁・120頁

*3:本書130頁

*4:本書63頁‐65頁

*5:ただし、本書のタイトルが「若手弁護士からの」となっていることや、問いの中にはかなりのジュニア層に向けた問いもあるように思え、もう少しどこかの層に振り切った構成でも良かったようには感じたところです。