普通の法務の現場録

企業法務人の管理人が、「普通の法務の現場目線」という切り口で、現場の暗黙知を言語化しようと試みているブログです。

【書籍】実践 ゼロから法務!:立ち上げから組織づくりまで

 実践 ゼロから法務!:立ち上げから組織づくりまで(柴山吉報ほか編著、中央経済社という書籍を読みました。

 

 

1.本書の対象と私が読んだ軸

 本書は、ベンチャー企業や中小企業において、法務体制の構築について悩む担当者に向けた書籍となっています。内容としては、第1部「法務体制構築の考え方と視点」、第2部「実体験から見る一人法務」というものになっており、前者はテクニカルな話が中心、後者は実際の体験談中心になってます。

 これまでも、企業内で法務経験のある方が実務的なノウハウを書いた書籍はいくつか出ておりますが、「ベンチャー企業や中小企業の一人法務」という軸で書かれた書籍は中々なかったため、類書にはない特徴かと思います。特に、一人法務を担う法務パーソンは、大企業のような社内における法務ノウハウがある企業で働く法務パーソンと比較して、顧問事務所や法務コミュニティと接点を持つことで自身のスキルを上げていく必要性がより高いと思われるので、本書の存在は非常に力強いものになると思います。

 

 こういった本書の対象の属性からすると、私はそこからズレているのですが、以下の2点を意図して本書を手に取りました。

 ①職種軸で見た場合の普遍的なノウハウを取得するため

 ②企業軸で見た場合の他領域から自社領域へ適用可能なノウハウを見つけるため

 読んでみたところ、上記2軸で見た場合も非常に参考となる書籍であったため、以下にて具体的な感想を記します。

 

2.なるほどと思った点

 個人的に一番なるほどと思わされたのは、第1部第2章「一人法務としての業務対応」というところです。よく言語化したなぁというのが正直な感想です。特に、一人法務の業務の特徴というものについて、対応が求められる法務の領域が広い、純粋な法務業務以外への対応も求められる、法務組織の基礎作りという3軸で整理されている点は非常にわかりやすいと感じました。

 なるほどと感じた点は上記ですが、私が読んだ軸の観点からすると、業務に関する「Why」の部分がかなり掘り下げられている、「効率性」の部分がかなり意識されているという2点は非常に特徴的だと感じました。組織やノウハウがそれなりに溜まっている法務組織においても、事業の変革に合わせて法務組織・業務というのは変化させていく必要があるところです。そのようなとき、小規模の法務組織では、その組織のフェーズからか、「Why」の部分と「効率性」の部分はかなり重点を置いて意識していると思われるため、自社組織を相対化する上でも非常に示唆的な記述が多いと感じました。

 逆に、「How」の部分はそれほど変わりはないと感じました。この部分は、小規模、中大規模変わらずに、取り入れることが可能な施策が多いという印象です。

 また、純粋な法務業務以外への対応も求められるという点も、中大規模組織であっても、個別の状況やPJごとには柔軟性をもって対応する場面は出てくるのですが、程度の差は大きい部分だなと感じました。本書でいくと、READYFORにおける法務組織の立上げ(草原敦夫、本書163頁‐178頁)では、この点が具体的に触れられていますが、CSから仕事を巻き取った話が書かれており、これはベンチャー企業ならではと感じたところです。

 

3.もう少しと思った点

 2.と比較した場合、第1部第4章「契約書審査の基本とレビューの視点」はもう少しと感じました。具体的には、前半の契約書の意義等を説明する部分は参考になるところも多かったのですが、後半の契約書の形式面・実質面のレビューの部分は一般的な話に終始しているのはもう少しと感じました。

 この部分であれば、がっつりベンチャー企業における契約書レビューに振り切った内容の方が良いと感じました。例えば、2.で見たように、「効率性」といった切り口での実務的なレビューの際のノウハウに振り切るとか、逆に、がっつりとしたチェックリストに振り切るとかを期待するところです*1

 

4.その他

 個人的に感じるところですが、法務界隈においては、法務という職種軸で、企業規模やフェーズに関わらずにノウハウ等を交換し合うことができるのは非常に良い点だと思います。実際、上でも述べましたが、考えにおいて共通するところはありますし、大規模は型を知っている、ベンチャーは効率性やWhyの部分を意識的に考えやすいといったそれぞれの特徴から双方で学べることはあると思います。逆に、自分たちだけの特徴と思っているところも、実は程度の差に過ぎず、それほど違いはないという点も多々あるように思います。ですので、本書のような書籍をきっかけに、多様なバックグラウンドを持つ法務パーソンが交流を図ることで、より良い仕事ができるようになるのだろうと感じるところです。

 

以上

*1:第1部第3章「法務対応チェックリスト」は小規模企業で対応すべき事項がうまくまとまっており、切り口も類書にはないと感じるところです。