普通の法務の現場録

企業法務人の管理人が、「普通の法務の現場目線」という切り口で、現場の暗黙知を言語化しようと試みているブログです。

【書籍】企業法務のための初動対応の実務

 企業法務のための初動対応の実務(長瀬佑志・長瀬威志・母壁明日香、日本能率協会マネジメントセンターを読みました。対応類型×時系列という切り口で初動対応の在り方を整理している点は参考になると思います。

 

企業法務のための初動対応の実務

企業法務のための初動対応の実務

 

 

●本書の内容

 企業の法務を担当者していると、日々、多種多様な案件の相談がやってきます。その中には、今まで見たことのないような類型の案件に接することも多く、いざ、主体的に対応しようと考えてみても、一体何から手を付ければ良いかわからないことがあります。特に、慣れない間であれば、「聞かれたことに答える」以外の対応ができないことが多いと感じます*1

 そのような中で、本書は、

本書の目的は、これから企業法務を担っていく法務部員や若手の弁護士の方々が、企業法務を担当する際にまず押さえるべき考え方や全体像、そして初動対応の留意点をお伝えすることに主眼があります。(前掲、はしがきⅱ頁)

との意図で作成されたようです。

 事業部門からの相談が持ち込まれた際、対応方針を策定する上で大事となる視点としては、①どのような類型の案件になりそうか②時系列としてはどの位置にあるかという2点があると考えられますが、これらについて考えないことには、対応方針に関して広い視野を持って策定することが困難となると思います。

 このような視点から本書を見てみると、コンプライアンス総論、契約管理、債権管理、情報管理、労務管理、会社整理、M&Aといった7つの類型に関して、時系列の切り口も加味した上での記述がなされているのが特徴的な点かと思います。 

 例えば、法務として最も取り扱うことが多い類型と言えば、契約管理に関する場面かと思いますが、本場面に関しても、契約締結準備段階、契約交渉段階、契約書作成段階、契約履行段階、契約締結段階という時系列に沿った対応方法の整理がなされています。その上で、契約交渉段階であれば、契約締結上の過失論秘密漏洩最終契約の締結といったリスクを提示し、気を付けるべき点を明示してくれています。

 ただ、注意すべき点は本書でも述べられてますが、あくまで本書は初動のための本であり、実際の対応を行うにあたっては、目の前の状況確認やビジネスへの理解、また、法的リスクがあるのであればその内容に関するリサーチや法律事務所への照会といった「案件に応じた思考」が必要となることは留意する必要があります*2

 

●本書の使い方

 まず、本書の想定読者である企業法務経験の浅い法務担当者が使う方法が考えられます。その方法として、もう一歩具体的に考えてみると、①自学自習の本として企業法務で日々接しそうな案件のざっくりとした考え方を学ぶ②実際に案件相談が持ち込まれた場合に、当該相談がどのような位置づけのものであり、どういった点を考えていかねばならないのかを調べるといった使い方ができると考えます。本書を参考にしながら案件対応の経験を積んでいくことで、事業部門の聞かれたことにだけ答えるという対応以外の対応方法が身についていくかもしれません。

 次に、ある程度の経験を積んだ法務担当者が使う方法も考えられます。それなりの法務経験を積んだ法務担当者であれば、本書に記載されている事項に関して、実地での経験を積んでいることが想定されます*3。そのような経験に関し、経験を経験のままにしておくのではなく、一定の切り口から整理することは様々な面で有用かと思います。例えば、経験の抽象化による自身のスキルアップ経験の部門内共有による組織力の向上事業部門向け研修の実施といった形です。そういった整理の切り口の1つとして、本書で用いているような切り口を参考にするといった使い方は可能かと思います。

 

 以上のような本書ではあるのですが、1点だけ、このような記載があれば良かったと感じた点としては、より深い知識が必要となった場合の推奨参考文献などがあればとは感じました。 いずれにせよ、本書のその先に進むためには、他の書籍等で知識を拡充する必要があると感じますので。

 

 以上、感想にて。

*1:私はそうでした。

*2:なので、目の前の案件を単に本書にあてはめて答えを出すという使い方をするだけでは、付加価値あるアウトプットにはならないと思います。 

*3:もちろん、事業内容や法務部門の職務範囲等によって、経験できる範囲には限界性がある。