普通の法務の現場録

企業法務人の管理人が、「普通の法務の現場目線」という切り口で、現場の暗黙知を言語化しようと試みているブログです。

【法務】BUSINESS LAW JOURNAL 2020年4月号 感想

 BUSINESS LAW JOURNAL 2020年4月号を読みました。備忘録。

Business Law Journal 2020年 04 月号 [雑誌]

Business Law Journal 2020年 04 月号 [雑誌]

  • 発売日: 2020/02/21
  • メディア: 雑誌
 

 

● これからの企業内法務を考える(北島敬之、本書24頁)

 本号の特集は、いわゆる令和報告書*1の公表を受けての「法務機能の強化に向けて」というものでした。その特集の1つとして、これまでも多くの論考を発表されている北島敬之氏の「これからの企業内法務を考える」がありました。

 内容に関しては、企業内法務を取り巻く環境の変化や企業内法務のこれからについて、北島氏の視点から整理していくという記事になっています。

 今回、本記事を読んでいて特に気になったのは、「事業価値の創造という機能」に関して論じられている箇所です。本用語は、昨今、企業内法務を考える際に、さまざまな場所で聞かれる言葉ですが、いずれの文献を読んでも、その多くは、経営のレベルで法務機能をどのように役立てていくかという切り口から論じていることが多いように感じています。正直なところ、このレベルで論じることも極めて大事だとは感じますが、如何せん、担当レベルの目線からすると議論のレベルが遠すぎて、日々のアウトプットに繋げるまでに相当の自分なりのブレイクダウンが必要と感じていたところでした。

 これに対し、本記事においては、

しかし、私は、「事業価値の創造という機能」の発揮が、法改正やビジネスモデルの変更・創出に限らず、日常の法務オペレーションの中で、都度発揮され得るものでもあると考えています。

例えば、取引のストラクチャーや契約条件の設定において、リスクを低減することのみならず、その取引や契約から生み出される事業をできるだけ高い価値で売却するには、どのようなストラクチャーあるいは契約条件であったらよいかを考え、提案し、相手側と交渉して、納得させられるだけのロジックを説明し、できるだけ早く合意するためのアクションをとる、ということは、「事業価値の創造」につながるのではないでしょうか?また、ビジネス部門に安心してビジネスを遂行できるように、実践的なトレーニングの実施やITツールを利用したハンディなマニュアルの作成といったことや、社内の承認プロセスを見直し、電子化を進め、書類作業にかかる手数・時間あるいは保管に要しているスペースを大幅に削減するといったことも、「事業価値の創造」につながるのではないでしょうか?(本書28頁)

といった形で、担当レベルですぐにでも実施できるレベルにまで掘り下げた記述がなされているのが非常に印象に残りました。

 もちろん、どのようなアクションをとるかに関しては、企業の抱える課題、自身の置かれている状況等で異なっては来るとは思いますが、担当レベルにおいては、昨今の法務に関する議論に関し、大きな視点のまま語るだけではなく、自身のコントロールできる範囲にまでブレイクダウンさせて、自身のアウトプットに繋げることがより大事なのではないかと考える次第です。

 本記事は、それを再度考える良いきっかけになりました。

 

● 経営者が知っておくべき企業のコンプライアンスと不祥事対応(中尾巧、本書50頁)

 本記事は、企業不祥事が発生した場合のオーソドックスな対応を概観したものになっています。

 企業不祥事に関する文献は多々ありますが、こぞって記載されているものが「変化」というものだと思います。本記事でも、社会の変化とコンプライアンスという項目にて、この「変化」というものの重要性を説いています。

 それでは、コンプライアンスに関して、この「変化」というものに向き合った場合に、担当者として直面する「変化」とはどのようなものがあるでしょうか。

 ざっと考えるに、

 ① 社会の変化

 ② 事業の変化

 ③ 法令の変化

 ④ コンプライアンス体制の変化

 ⑤ 企業風土の変化

辺りが思いつくところではあります。

 大抵の企業不祥事関連の書籍ですと、これらが並列的に扱われているわけですが、この中で、担当レベルで、「知る」ということを超えて、現実的に「変える」というレベルになると、注力すべきは④辺りが主たるものになってくると思われます。ただ、組織である以上中々動かせるものと動かせないものがあるとは思いますので、できる範囲で地道に一歩一歩変えられる部分を変えていくということになるのかとは思います。また、すぐには変えられないということになれば、それを前提に何ができるのかも考えていくことになろうかとは思います*2

 

 上記の2つの記事に共通して感じた点ですが、法務に関わる事項について語る場合の目線をどのようなレベルに設定するかは非常に重要な話だと考えます。法務機能やコンプライアンスのような大きな視点で語ることも重要ですが、担当レベルであれば、それをどのように自身のアウトプットに繋げていくかを考える方が重要なのではないかとも思う次第です*3

 

 以上。

*1:https://www.meti.go.jp/press/2019/11/20191119002/20191119002.html

*2:変えられないのであれば、なぜ変えられないのか。リソースが足りないのであればまずは効率化を行う等、できることはあると思います。

*3:立場や時代が違えば見える景色も違うので、今見えている景色でのアウトプットを行うことは非常に大事と考えます。それこそが大事な経験になるのではないかと考えるところです。