普通の法務の現場録

企業法務人の管理人が、「普通の法務の現場目線」という切り口で、現場の暗黙知を言語化しようと試みているブログです。

【法務】BUSINESS LAW JOURNAL 2020年10月号 感想

 Business Law Journal 2020年10月号を読みました。

 

 本号の特集は、「変わりつつある競争環境と独禁法対応」というものでした。

 公正取引委員会事務総長へのインタビュー記事、研究者、弁護士、法務担当者を交えたインタビュー記事など、極めて実務的な視点から、現在の競争法環境についての記載がなされておりました。

 その中でも、「企業における競争法コンプライアンス体制見直しの視点」(長澤哲也、前掲28頁以下)においては、企業において競争法コンプライアンス体制のアップデートを行うにあたって参考となる知見が記載されておりました。

 同記事の中でも、特に気になった部分は、「攻めの競争戦略の実現に向けて」という部分でした。同部分においては、

そもそもカルテル以外の独禁法規制は、「こうした行為をしてはならない」と単純に言い切れるものではない。常に、ある行為を行うことの目的や、その行為を行うことによって狙う効果にかんがみ、案件に応じた独禁法上の評価を行っていかなければならない。そのような行為については、画一的に一定の行為を禁止するコンプライアンス体制は適切ではない。むしろ、企業が競争戦略を検討する段階において、とり得る選択肢として独禁法上許容される行為を詰めたうえで、合法かつ積極果敢な経営判断を行っていくことが求められる。極論すれば、将来、法的紛争に発展することが予期されたとしても、それに対する勝算を見極め、理論武装をしたうえで、あえて実行するという選択もあり得るということである。(前掲33頁)

というところまで踏み込んだ記載がなされているのが非常に印象的でした。 

 競争法コンプライアンスといえば、ここでも記載のあるように、カルテル規制を念頭に置いていることが多く、同規制に対するコンプライアンス活動を考える立場からすれば、●●のような行為はやらないようにといった禁止行動類型の設定と啓蒙をベースにすることが多いように思われます。もし、この発想の延長線上で、他の競争法規制類型も考えるとすれば、同様に禁止行動類型の設定と啓蒙をベースに活動していくことになるのでしょうが、本記事において、筆者は、上記のように別のアプローチをとるべきと述べているのが注目されます。

 昨今、攻めの法務や攻めのガバナンスといったように、「攻め」という言葉をバックオフィスの領域でも聴くことが多くなりましたが、その内実はあまり多く語られることはなく、具体的な内容に踏み込んだ議論はあまり聞かないところです。ですが、経営戦略に沿ったコンプライアンス体制の制定・運用という観点から「攻め」という言葉を考えた場合、上記のように本記事の筆者が述べる競争法コンプライアンス体制の策定というのは非常に説得力のある考え方のように感じます。

 競争法コンプライアンス体制をどのように考えていけばよいのか、そして、現状の体制をどのように変化させていけば良いのかという点で悩みがある場合、その悩みに対する一つの糸口を与えてくれるかもしれない記事と感じました。