普通の法務の現場録

企業法務人の管理人が、「普通の法務の現場目線」という切り口で、現場の暗黙知を言語化しようと試みているブログです。

【書籍】図解不祥事の予防・発見・対応がわかる本

 図解不祥事の予防・発見・対応がわかる本(中央経済社、竹内朗編・プロアクト法律事務所著)を読みました。

 企業のコンプライアンスリスク対応に関するリスクマネジメントとは何かを学ぶにあたっては、非常に有意義な本でした。

図解 不祥事の予防・発見・対応がわかる本

図解 不祥事の予防・発見・対応がわかる本

 

 

● 軸の必要性

 企業コンプライアンスが騒がれている今日この頃ですが、コンプライアンスリスクに対応するために企業では、実際に、どのような仕組みを構築・運用しているのでしょうか。

 このような仕組みの構築・運用を学ぶにあたっては、逆説的ですが、一つの方法として、実際の企業不祥事事例を学ぶことが考えられるかと思います。具体的には、日々の企業不祥事事例に接することもあろうかと思いますが、企業が公開する第三者委員会等の調査報告書を分析することからも気づきを得ることもあるかもしれません。

 ただ、そのような分析をするにしても、どのような視点で分析していけば良いのかという軸がないと、中々、自身の業務に活かすことも難しいように思います。

 本書は、そのようなコンプライアンスリスク対応のための仕組みを分析するために役立つであろう一つの軸を与えてくれる点で、非常に有意義な本かと思います。

 

● 既存の資料との関係性

 現在の企業におけるコンプライアンスリスク対応のための仕組みを構築・運用するにあたってのベースとなる資料としては、日本取引所自主規制法人による「上場会社における不祥事予防のプリンシプル」*1「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」*2をあげることができようかと思います。これらの資料は目を通してみればわかると思いますが、具体的にどうすれば良いのかという点よりは、不祥事予防・対応のための原理原則は何なのかという点を論じた資料になっています。

 そのような中で、本書は、これらの資料をかみ砕き、そして、企業の実際の仕組みの中にどのように落とし込んでいけば良いのかという点に関し、示唆を与えてくれます

 例えば、トップダウンボトムアップの両輪を活かすための方策として、

このような、双方向のコミュニケーションを実現する上で、キーパーソンとなるのが、情報の「ハブ」となる中間管理層です。中間管理層は、経営陣と一体を成す者として、経営陣のメッセージを正確に理解して現場に伝え根付かせる役割を担うとともに、現場の責任者として、現場の声を束ねて経営陣に伝えるという極めて重要な役割を担っています。(前掲35頁)

といった指摘や、

 スリーラインディフェンスの文脈において、

ポイントは、2線は、1線による自律的な統制活動を「牽制」するのみならず、「支援」する必要があるという点です。単に、規程や通達を1線に投げるだけで終わっていては、その役割を果たしていることにはなりません。(前掲42頁)

といった指摘は、当たり前といえば当たり前なのですが、実際の現場を考えてみると、痛いところを突かれている・・・と感じることもあるかもしれません。

 その他、コンダクトリスク、ESGとリスク管理、リスクマップ等、コンプライアンスリスクに関わる業務を行うにあたっては考えておくべきトピックが広く触れられているのも本書の特徴の一つかと思います。

 

● 実際の業務での用い方

 それでは、一法務担当者として、本書をどのように業務に活かしていくか。

 企業のコンプライアンスリスク対応のための仕組みを構築・運用するために必要な視点としては、ざっくり考えてみると、

 ① 当該企業の実態(どのようなビジネスか、組織はどうなっているか)

 ② 問題となるコンプライアンスリスクに関わる法令上の知識

 ③ 仕組み作りに関わるリスクマネジメントの知識

といったものがあげられるかと思います。

 前記に見たように、本書は、このうち、③の仕組み作りに関わるリスクマネジメントの知識をわかりやすく学べる点に特徴があるかと思います。

 ただし、あくまで一般的な知識にすぎないので、それを無理やり押し付けるのではなく、当該企業の実態や問題となるコンプライアンスリスクごとに最適な仕組みは構築する必要がありますし、また、仕組みを運用する上では、リスク状況の変化等に伴い、適切なPDCAサイクルを回すことで、構築した仕組みを改善していく必要があることは忘れてはいけないように思います。そこをどうするかは、個々の担当者の力量にかかってくるように思います。

 そうだとしても、繰り返しになりますが、仕組み作りに関わるリスクマネジメントの知識をわかりやすく学べる本書には価値があると感じます。一つの軸があるのとないのとでは、業務への理解度が違いますよね。

 

以上、本書籍に関する感想まで。