普通の法務の現場録

企業法務人の管理人が、「普通の法務の現場目線」という切り口で、現場の暗黙知を言語化しようと試みているブログです。

【書籍】IoT・AIの法律と戦略 第2版

先日、「IoT・AIの法律と戦略 第2版」(福岡真之介編、商事法務)を読みましたので、備忘録を記載します。

IoT・AIの法律と戦略〔第2版〕

IoT・AIの法律と戦略〔第2版〕

 

 

● 本書の位置づけ

 本書は、IoT・AI法務関連の書籍で、同じ編者によって書かれた「AIの法律と論点」「データの法律と契約」と連なる3部作の1つに位置づけられるようです。

AIの法律と論点

AIの法律と論点

  • 作者:福岡 真之介
  • 出版社/メーカー: 商事法務
  • 発売日: 2018/03/26
  • メディア: 単行本
 
データの法律と契約

データの法律と契約

 

 

 データやAIが関連の法務を取り扱う際、例えば、契約法務であれば、「AI・データの利用に関する契約ガイドライン*1が、まず参照することになる資料になろうかと思います。しかし、実際に、データやAIが関わってくるビジネスに向き合う場合、大前提として、ビジネス的・技術的な意義というものを最低限度理解しないことには、意味のある法務的な付加価値を提供することはできないように思います*2。そのような視点から本書を眺めてみると、本書は、このビジネス的・技術的な意義というものを非常に意識した書籍となっている点が大きな特徴となっているように思います。

 例えば、IoTの基本要素と銘打った章においては、

多くの企業がIoTビジネスに参入してきており、今後は、IoTを利用したさまざまな新しいビジネスモデルが生まれていくことになろう。それがどのようなものかは予想できないが、IoTが有する基本的な要素として以下の4つがある。

① センサー、カメラといったモノ(デバイス)が情報を収集する。

② その情報がインターネットを通じて、サーバに送られる。

③ サーバ側でデータ処理を行う。通常、サーバに送られるデータは膨大となり、ビッグデータとなる傾向がある。データ処理にはAIが活用される。

④ サーバにおいて処理をしたデータに基づいた結果に基づいて、モノにインターネットを通じて指示(フィードバック)を送り、モノを作動(アクチュエート)させる。ただし、消費者に広告を配信するといったモノの作動を伴わないアクションも考えられる。(前掲11頁)

といった形で、IoTの基本的な要素を簡潔に言語化し、加えて、これらを図表化したものまで記載してくれています。

 鋭い法務担当者であれば、この記載を読むだけで、このプロセスにおいては●●のような法的リスクが潜んでいるのでは?と勘づくかもしれませんし*3、そうではなかったとしても、この点が問題になるのではないか?と自分の中で仮説を立てて、その上で、後半の各論部分での具体的な法的リスクの解説を読むといった使い方もできるように思います。

 他の部分でも、このようなビジネス的・技術的な意義について、プロセスに分解したりしながら概観を説明してくれているおかげで、頭を整理しながら読み進めることができるように思います。繰り返しになりますが、このような点に本書の大きな特徴があるように思います

 

● 個人向けIoTと産業向けIoT

 もう1点、自分自身が本書を読みながら、こういう指摘をしてくれるのはありがたいと感じたものがありました。自分自身が、IoT・AIに関わる法務に向き合う際(又は向き合うことを想定した際)、取り扱うビジネスによってどのように焦点の当て方を変えれば良いのか?と一歩立ち止まって考えることがあります。

 そういった点に対して、本書では、

 IoTの活用場面を大きく分けるとすれば、個人向け(消費者向け)IoTと産業用IoTの2つに大きく分けることができる。両者は共通する部分もあるが異なる部分も多い。この2つを同じ土俵で話しても、議論がすれ違ったり、関心のポイントが異なることがある。

 個人向けIoTは、個人の行動を分析することが必須であり、そのためにパーソナルデータを収集することになる。そこで、法律的な観点からはパーソナルデータの取り扱いが大きな問題となる。これに対して、産業用IoTで取り扱うデータは、危機が収集する産業データなどが中心となり、法律的な観点からは、パーソナルデータの取扱いよりもデータの帰属や責任の所在などが問題の中心となる。(前掲10頁)

といった指摘をしているように、ビジネス的な意義と法的な焦点の当て方に対する一つの考え方を提示してくれています。 

 今後、モノを取り扱うビジネスにおいては、IoTの活用というのは避けては通れない状況かと思いますが、法務担当者としても、自身の取り扱うビジネスについての法的リスクの焦点はどこにあるのかというのは、常に考えていかなければならないように思います。また、一度焦点を当てたとしても、技術の進歩やビジネスモデルの変化に伴い、法的リスクの焦点といったものは変化することが想定される点にも注意が必要かと感じます。

 

 以上のような点にも触れながら、本書では、各論として、パーソナルデータの法律問題、ビッグデータの法律問題、自動運転の法律問題等、ホットなビジネスの法律問題に具体的に触れてくれています。そういった意味では、本書は、IoTやAIが絡んでくるビジネスを取り扱う際の法的問題の概観を把握するためには有益な本となるかと思います。

 

 以上にて。

*1:https://www.meti.go.jp/press/2019/12/20191209001/20191209001.html

*2:この点については、「技術を避けては通れないデータ法務」(伊藤雅浩、NBL1160号1頁)にも指摘があります。同コラムは、データ法務を扱うにあたっては刺さるものがあります。

*3:私は無理です。