普通の法務の現場録

企業法務人の管理人が、「普通の法務の現場目線」という切り口で、現場の暗黙知を言語化しようと試みているブログです。

【法務】BUSINESS LAW JOURNAL 2020年12月号 感想

 Business Law Journal 2020年12月号を読みました。

 

 本号の特集は、民法(債権法)改正後の実務フォローアップというものでした。

 法務業務における主たる業務の1つとして、法改正対応というものがありますが、対象となる法律が施行される前は気合を入れて学び、そして準備をするのですが、いざ実際に施行された後になると、企業の実務上どのような状況になっているのかというのは、意外と盲点になっていることかと思います。特に、自社の改正状況に関するフォローアップならまだしも、他社の改正状況に関するフォローアップ状況の情報収集となると、中々、できることではないと思います。

 こういう観点から見た場合、本特集は非常に珍しくかつ実務上有益なものだと感じました。

 

 その中でも、特に有益だと感じたのは、現役の企業法務担当者による座談会企画であるCrosstalk 改正民法への対応状況(前掲40頁以下)の記事でした。民法改正に関わる書籍においては、改正民法の説明自体や改正民法を踏まえての契約書の修正文言に関する説明がなされているものは多いのですが、おそらく企業法務の現場で直面する「悩み」というのは別の部分にあり、そういった生の「悩み」の声を拾い上げている点で非常に有益かと感じます。

 同記事の中には、いくつも、実務上直面する「悩み」の声というのが出てくるわけですが、自分自身で気になった2点を以下にて取り上げておこうかと思います。

 

 1点目は、改正民法に沿った契約書を用いた交渉の場面に関するもので、

 現時点では、契約交渉が難しくなったと感じることはありません。交渉をしてくる相手は今も変わらずしてきますし、以前から交渉してこない相手はやはりほとんどしてきません。(前掲42頁)

というものです。

  改正民法を契機に多くの企業で既存の契約書の見直し業務がなされたことかと思いますが、その際、改正民法によって変更される事項に関わる条項、改正民法とは関係なく見直すことになった条項、の2つの切り口で契約書の見直しがなされたことかと思います。あまり事前の議論では見ることはありませんでしたが、こういった修正がなされた場合、実際に取引先はこのような修正を受け入れてくれるのか、という点は非常に実務的には気になるところでした。

 本記事では、企業の法務担当者の生の声として、上記のような発言が見られるわけですが、これは私自身の感触とも一致するところです。やはり企業実務上においては、法改正があったかどうかという軸での行動よりは、そもそも論としてリーガルリスクに対する感度が高いかという軸で他者の行動も決まってくるのではないかというのを再認識した次第です。

 

 2点目は、契約書における「目的」規定に関するもので、

一部で出ていた「改正民法の下では目的規定が重視される」という見解を受けて、目的規定の記載を充実させることを想定したひな形を一度は用意したものの、実際に契約を扱う現場の担当者から「何を書けばよいか分からない」という悲鳴が上がってやめたという話も聞きました。(前掲45頁)

というものです。 

 この契約書における「目的」規定の充実という論点も、改正民法の施行前には様々な媒体やセミナーにおいて、様々な見解が唱えられていたと記憶しております。しかし、実際の企業実務を考えると、上記発言にもみられるように、一件一件の契約書すべてにその取引に応じた「目的」規定を正確に記載することができるかと言われると中々厳しいものがあるように思います。改正民法下における「目的」規定の効用自体は、実際に裁判例で扱われるのかという判断の集積を待つ必要があるかとは思いますが、現実論としては、上記のような発言に沿った運用にならざるを得ない気がします。この点も、法改正があったことを前提に当該法改正から考えうるあるべき形からのアプローチよりは、当該法改正を契機に現場に対してどのようにリーガルリスクに対する感度を上げるアプローチができるかといった方向での方策を考えた方が良いのではないかと感じた次第です。

 

 以上のように、改正民法のフォローアップというのは、ある意味での答え合わせといった意味合いも強く、非常に参考になる企画と感じました。

 

以上