普通の法務の現場録

企業法務人の管理人が、「普通の法務の現場目線」という切り口で、現場の暗黙知を言語化しようと試みているブログです。

【法務】ビジネス法務2020年2月号 感想

ビジネス法務2020年2月号に関する備忘録を記載します。

ビジネス法務 2020年 02 月号 [雑誌]

ビジネス法務 2020年 02 月号 [雑誌]

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: 中央経済社グループパブリッシング
  • 発売日: 2019/12/21
  • メディア: 雑誌
 

 1.先輩・後輩で描く 企業法務のグランドデザイン 最終回「企業法務のグランドデザイン」(名取勝也、須﨑將人、中山剛志、宮下和昌・前掲54頁)

・本記事は、「企業法務のグランドデザイン」を描くという切り口にて続けてきた連載の最終回であり、前掲の方々による座談会形式での記事になります。

・本座談会の主たる「テーマ」は、ビジネスジャッジメントとリーガルジャッジメント、法務部員の意思決定力を向上させるには、法務部員の評価、不正の発見と対応という4つの切り口から論じられており、また、その際の「視点」としては、CLO、法務部長、法務担当者といういずれの切り口からの記載もありました。

・そんな中で、自分自身の属性である法務担当者という切り口から気になった発言は次のようなものでした。

・まず、CEOの意思決定に関する文脈にて、

この際に、「外部顧問弁護士がそう助言しています」と答えるのはまったくダメで、外部専門家の情報や助言を踏まえてCLOみずからが決定したレコメンデーションをCEOに提供すべきです。(名取発言・前掲56頁)

というものがありました。

 法務担当者としても、外部弁護士から意見をとる場面に多数遭遇すると思いますが、その際、意思決定の根拠として、外部弁護士が●●と言っているからとするのか外部弁護士の●●という意見を踏まえて私は●●と考えますとするのかでは、法務担当者が介在する意味=付加価値が違ってくる気がします。これは、事業部門からの声を踏まえる際にも、同種のことがいえると思います。

 このようなことをいざ書いてみると、そんなの当たり前だろと思うのですが、一法務担当者としては、こういった当たり前を当たり前に地道に積み重ねる中で、自分の軸が形成されていくのではないかと感じた次第です。

・また、法務における意思決定という文脈では、

私がIBMやファーストリテイリングで仕事をしていた時に部下によく言っていたのは、「上長の意思決定を自分なりに分析してみろ」ということでした。(名取発言・前掲57頁)

というものがありました。

 法務担当者が日々の業務をこなす中で遭遇するものとして、上長への報告というものがあろうかと思います。そんなとき、現在、上長がどのような状況にあるかを把握できているでしょうか。もちろん、詳細に把握することは不可能だとしても、ほんの少しだけでも状況に想いを馳せることができれば、例えば、上長の意思決定を補助することを目的とした報告書の作成にしてみても*1どのような情報を記載すべきかその記載方法はどうすべきか根拠資料はどこまでつけるべきか等、考える事項はたくさんあるかと思います。

 やはり、一法務担当者であっても、視座を一つ上げて、上長が健全な意思決定を行うためにはどのような情報・資料が必要かという視点を意識することが大事だと再認識しました。

・その他、法務担当者の行動評価は法務組織の方針に合致した行動をとれているかで判断する文書やメールによるコミュニケーションではなくニュアンスの中にこそ組織的なリスク課題が潜んでいる等、日々の業務の中で突っ込んで考えてみたいことが、多数言語化されておりました。

 

2.企業法務におけるAI・リーガルテックの導入プロセス(明司雅宏・前掲68頁)

・昨今、企業法務界隈の話題の一つとなっているリーガルテックの実際の企業における導入プロセスが記載されていた記事でした。

・まず、同社の導入の経緯としては、

リーガルテックがどのような仕事の変化をもたらすのか、早く知っておきたいという意図からである。何ができて、何ができないか?そして業務にどのような変化をもたらすのか?そして、変化があるとすると我々が変わらなければならないところは何か?変えてはいけないところはどこか?それを早く知っておくことが、今後の変化に対応するには必須であると考えたからである。(前掲69頁)

とうものだそうです。とりあえずやってみる、そこから考えていくという意識が伺えるところです。

・ただそうだとしても、実際には「障壁」というものが存在するのも事実だったようで、その点に関しては、部内の障壁全社的な障壁そもそも法務業務が見える化ができていないといった導入にあたっての壁についても書かれていたのは興味深いです。

・その上で、法務部門におけるリーガルテックの位置づけとしては、

法務部門の価値の本質を知るためにも是非一度リーガルテックに触れてもらいたい。(前掲72頁)

というように、法務部門の本質を知るためのツールという位置づけを与えている点は印象的でした。

・一法務担当者としての向き合い方としては、すぐにリーガルテックを導入しなかったとしても、日々の目の前の業務をしっかり分析して本質を見極めていくことテクノロジーの動向を知ることの2点は、意識して行っていこうと感じました。特に、前者のようなボトムアップ的な意識の醸成というのは、日々、法務業務に直接向き合っている一法務担当者だからこそできることなのではないかと感じます。なので、大きな主語に囚われることなく、変わるべき部分は変え、変えるべきではない部分は変えることなく、日々の業務をこなすことの大切さを再認識した次第です。

 

以上のように、本号では、企業法務とはという大きな視点、リーガルテックというテクノロジー的な視点からの記事が気になりましたが、切り口は違えど、両者ともに、契約書の文言を見ることのみが付加価値ではないという点では同趣旨のことが記載されていたのが印象的です。

 

本号も勉強になりました!

*1:報告書の作成といっても、上長の意思決定を補助するもの、網羅的に記載し後々見返すことが必要とされるもの等、その作成目的は多様なものが想定されるのであり、一つ一つその目的を考える必要があると思われます。