普通の法務の現場録

企業法務人の管理人が、「普通の法務の現場目線」という切り口で、現場の暗黙知を言語化しようと試みているブログです。

【法務】BUSINESS LAW JOURNAL 2020年1月号 感想

今月はいろいろと多忙により、1月号の備忘録を忘れていたので、今更ながら書き連ねておきます。

Business Law Journal 2020年 01 月号 [雑誌]

Business Law Journal 2020年 01 月号 [雑誌]

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  • 発売日: 2019/11/21
  • メディア: 雑誌
 

 

1.[特集]子会社不祥事の調査・対応ポイント 企業担当者の視点(前掲49頁)

・本号の大きな特集が「子会社不祥事」に対する対応というものでした。

・子会社を含めたグループ全体に対するガバナンスシステムの設計に関する一つの指針としては、経産省による「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」*1があげられます。当該ガイドラインの位置づけとしては、

ガイドラインは、一般的なベストプラクティスを示すものであり、これに沿った対応を行わなかったことが取締役等の善管注意義務違反を構成するものではないが、反対に、本ガイドラインに沿った対応を行った場合には、他に特段の事情がない限り、通常は善管注意義務を十分に果たしていると評価されるであろうと考えられる。(前掲ガイドライン11頁)

との見解があるように、現時点において、当該ガイドラインは子会社管理を考える際に避けては通れないものになっているように思います。

・理論面としては上記のガイドラインをベースに考えていけば良いとしても、では、実際にどのようなガバナンスシステムを設計すればよいのかという点に関し、非常に示唆的な視点を与えてくれるのが本記事になります。

・まず、大事な切り口として「教育」というものがあげられます。

 その際の重要な視点として、本記事では、

地域・事業ごとの商慣習やマネジメント層の意識によって、何をもって「不正」とするかという感覚にも違いがあり、親会社から見れば不正であっても、当人はそう思ってなかったケースも時としてあります。(前掲49頁)

というものがあげられています。

 不正のパターンとして、自社では当たり前の慣行であり問題ある行動だと思っていなかったというものがあります。また、時代の変化に伴う社会の意識の変化に気づいていなかったというものもありえます。 

 本記事の指摘は、このようなズレてしまった「当たり前」を是正する必要性を説いてくれてるように思います。

・また、「場所」という切り口もあげられます。

 市場として成立する地域が国内各地にある場合、いわゆる「地方」に多数の拠点が存在することもあるかと思います。そんな「地方」の拠点と不正に関する指摘として、

不正・不祥事は、当社でもご多分に漏れず、地方の拠点、特に小規模の営業所で発生しがちです。(前掲49頁)

とあげられています。

 事業慣行としても、地域ごとの慣行というものは現実として存在しておりますし、また、地方の営業所によっては人事リソースの問題等からコンプライアンス業務の優先順位が低くなってしまうこともありえるかと思います。

 そんな中で、本社サイドとしては、距離が離れた拠点に対しどのような管理を行っていくのが良いのか。本社サイドとしても限られたリソースしかなく、また、国外にも目を向けなければいけない現状においては、悩ましい課題となってきそうです。

 

2.改正民法の施行に対応するための取捨選択(下)(藤野忠・前掲61頁)

・先月号に引き続き、民法改正というテーマに関して、「企業内実務」に沿った切り口で論じられている記事になっています。

・改正民法というテーマに関しては、他の書籍やセミナーでも数多く語られているところですが、いずれの書籍やセミナーにおいてもその中心は、契約書にどう反映させるかという切り口のものが多いかと思います。

 そのような中で、本記事は、契約書という視点以外からの対応について論じられている点が希少価値が高く、また、示唆に富むものとなっています。

 例えば、

・何がどう変わる(可能性がある)のかということを現場レベルにまで周知(具体例を示したQ&A等を作成して配布する等)し、それに基づく対応指示を行う

・必要に応じて改正民法施行後の対応のバックアップ体制(法務部門に関係部署からの問い合わせへの対応窓口を設置する等)を整える

(前掲61頁)

等の具体的な対応案を紹介しており、これらは非常に参考になるものかと思います。

 民法改正に伴う自社ひな形の見直しのみで終わってはいけない、実際に事業が遂行していく中ではどのようなことが起きるかをあらかじめ考えて、先手を打って仕組みを整備するといった予防法務的な発想の大事さを思い知らされます。

・また、もう1点、これは!と思ったのは、取引先からの民法改正を理由とした修正提案にどう応じるかという点でした。

 本記事では、修正提案がある主なパターンとして、

A 民法の条文変更に合わせた文言の形式的な修正(+技巧的な修正)

B 契約の趣旨の明確化を理由とした修正

C ビジネススキームの変更につながる修正

(前掲68頁)

というものを想定しております。

 この点も、民法改正に伴い自社におけるひな形の見直しはどのような視点から行ったか、という発想があれば、より注意深く思考することができるのではないでしょうか。例えば、民法改正のついでに今まで問題となっていた条項を見直す時代や事業の変化に伴い変化したリスクを手当てするための条項を挿入する、といった契約書の改訂は行いませんでしたでしょうか。 もし行っていたのであれば、それらの点は、自社だけではなく他社も行っていたと考えるのが自然であろうかと思います。

 本記事の指摘は、他社がどう考えるかといったところまで視野を広げてくれる点で非常に示唆的なものになっているかと思われます。

 

遅れましたが、本号も非常に参考になりました!