普通の法務の現場録

企業法務人の管理人が、「普通の法務の現場目線」という切り口で、現場の暗黙知を言語化しようと試みているブログです。

【法務】BUSINESS LAW JOURNAL 2019年8月号 感想

8月号も備忘録として記載しておこうと思います。なお、特集は「ライセンス取引」であるのですが、日頃実務的にあまり扱っておらず、強い問題意識がないためスルーします笑

Business Law Journal 2019年 08 月号 [雑誌]

Business Law Journal 2019年 08 月号 [雑誌]

 

 

「法務部門CLOSE UP サイボウズ株式会社 法務統制本部」(BUSINESS LAW JOURNAL No.137 2019年 Lexis Nexis 16頁)

・いわゆるIT系企業の法務のあり方というのは、日頃、直接の馴染みがあるわけではないので中々興味深く読めました。

・自身の職務との関係では、情報共有のあり方との関係で、

各メンバーが、今どれだけのタスクを持っているのかをお互いに「見える化」しています。(前掲・18頁) 

 ということで明確な見える化を意識している点は参考になりました。

・ここからは個人的な感想になりますが、法務部門はこのような意識を持っていないと、どうしても個人商店化してしまうおそれが付きまとうと思います。それでええんや、という意見もあるかもしれませんが、やはり組織のリスク管理体制は組織内のリスク感度の成熟度に応じて更新していく必要がある以上、情報共有を徹底する必要があるというのは法務部門の持続可能な成長という観点からは必須のことでしょう(では、このリスク感度の成熟度をどうすれば定量面・定性面で測ることができるのか、は難しい問題だと思いますが)。

・あとは、情報共有の目的と対象を何にするのか、も難しい問題だと思います。法務部門が直面する壁としては、①事業部との壁、②部門内の壁、③拠点間の壁といった3つの壁を想定できますが、これらを打ち壊す「共有化」とはどうすれば良いのでしょうか。また、対象とする情報も、①個々の案件といった各論の情報②法務部門がどうあるべきかといった総論的な情報、の2つが想定できますが、前者は共有化ツールで解決可能だとしても、後者は言うなればコミュニケーションの問題に帰するとは思いますので、この課題を解決するITツール及びその使い方の事例としてはどのようなものがあるのでしょうか。法務部門でのこの辺りのうまくいったケースがあるようであれば是非とも知りたいですね。

 

②「DeNA 著作権侵害事件とベンチャーの経営変革ー不祥事の解剖学【特別編】 ベンチャーの経営変革」(BUSINESS LAW JOURNAL No.137 樋口晴彦 2019年 Lexis Nexis 92頁)

・タイトルの通り、DeNA著作権侵害事件に関しての分析が行われていく本連載ですが、今回も興味深く読めました。

・事件自体の分析に関してはなるほどと思うのですが、それ以上に面白かったのは、

ベンチャーの急成長期の前半は、起業家が強いイニシアティブを発揮することが不可欠であるため、補佐役を起用して「起業家に不足している能力」を補完することが有用である。(前掲・93頁) 

先行研究を整理すると、補佐役の本質的要素は、「経営者の弱点の補完」と「経営者との特別な信頼関係」の2点と認められる(前掲・93頁)

 という指摘です。

・この「補佐役」というのはよく考えてみると非常に難しい概念だと思います。実際仕事をやっていると、華やかな活躍をするビジネスパーソンや他人の話を聞くと(大体は隣の芝生は青いだけですが笑)、補佐役に徹するというのは中々難しい心理になるかもしれません。しかし、そんな中でも、法務という職責を担う以上、この「補佐役」=「支援者」という概念に対する理解は深めなければいけないと思います。相手が思っているだろうと相手がこう思っていてほしいは違う、内容を決するアプローチ以外にプロセスを設計するアプローチや判断過程統制類似のアプローチを用いた成果の出し方など、日々多くのことを考え、かつ引き出しを増やす必要があるなぁと思っておる次第です。

・個人的には、この「支援者」という概念と「弁護士資格」というのは非常に相性の良いものだと思っておりまして、有資格者の一つの強みにできる職責なのではないかと思っています。

 ・ちなみに、私がこの「支援」という立場から自身の職責を考えるにあたってバイブルとしている本は、以下の書籍です。エドガー・H・シャイン氏の著書は他にも刊行されていますが(キャリア・アンカーとかプロセス・コンサルテーションの方が有名でしょうか?)、いずれもこの「支援」という明確な軸を基に論が展開されていくので非常におススメです。

謙虚なコンサルティング――クライアントにとって「本当の支援」とは何か

謙虚なコンサルティング――クライアントにとって「本当の支援」とは何か

 

③「辛口法律書レビュー(2019年5月)」(BUSINESS LAW JOURNAL No.137 企業法務系ブロガー 2019年 Lexis Nexis 122頁)

・毎号楽しみに読ませていただいておりますが、このお方はほんとにすごいですね笑一体、法律書を月にどれくらい読まれているのでしょうか。見習いたいものです。

・ 今回レビューされていたのは、

Q&A若手弁護士からの相談 374 問

Q&A若手弁護士からの相談 374 問

 

という本です。

・タイトルや内容からすれば、いわゆる一般民事を対象とした書籍なのですが、本記事においては、本書籍の企業法務での有用性が書かれており、なるほどと思わされました。 

・特に、興味深かったのは、

弁護士倫理上、弁護士は何ができないかを正しく理解しておくことも必要だろう。(前掲・122頁) 

 という点です。

ここで指摘されているように、有資格者ではない法務パーソンにとって「弁護士倫理」というのはあまり馴染みのないものだと思います。ただ、弁護士はこの「弁護士倫理」を守る必要があり、この中でしか行動はできないというのはすごく大事な視点だと思います。

・個人的には、弁護士有資格者の強みとして、①事実認定能力、②要件事実的思考、③弁護士倫理、の修習で身に着けるべき3要素があると思いますが、本指摘はまさにこの③を活かすための視点かと思います。有資格者が目指しうる一つの形である弁護士の能力を最大限引き出すことができる弁護士を目指す上でも、この視点は非常に大事かと思います。

・あとは、本記事でも指摘されていますが、企業法務に特化した類書の発行を!!!出版者様お願いします!!!笑

 

以上、本号にて感じたことのまとめでございました。