普通の法務の現場録

企業法務人の管理人が、「普通の法務の現場目線」という切り口で、現場の暗黙知を言語化しようと試みているブログです。

【法務】ビジネス法務 2021年7月号 感想

 ビジネス法務2021年7月号を読みました。

 本号の特集の1つは、「経験者の技法を漏れなく伝授"法務プレゼン"虎の巻」というものでした。

 法務業務を行っていると、日々の業務で間違いなく経験するのが、法的なトピックに関するプレゼンです。その内容としては、契約書の読み方、個人情報保護、競争法等、様々なトピックがあるかと思います。本特集においては、このような法務プレゼンに焦点を当て、そのノウハウといったものが公開されていました。

 

 本特集においてはいくつかの記事があるのですが、それらを読んでいると、焦点を当てたトピックは異なるものの、類似したノウハウの記載がなされておりました。

 

 まず、法務プレゼンの内容面については次のようなことが述べられておりました。

当然のことながら新たな法規制や法改正について、一方的にこちら側で説明を進めても、通常、聞き手の頭のなかにはほとんど何も残らない。大事なのは、彼らの日常業務の流れに則して、その要所要所における留意点や、具体的に日常業務のどこに当該法規制や法改正の影響が生じるのかなど、聞き手に具体的な業務における場面を想像してもらいながら伝える必要がある。(「法務プレゼンの心構え‐誰を対象に、どう説明する?」(前田絵里、前掲139頁))

社内クライアントは、法律のプレゼンを受講する際において我々法務部門にどのようなことを求めているだろうか。それは、何を理解すれば自分たちの業務が法律に抵触することなくスムーズに進められるのかについて教えてほしいということであり、法律の内容そのものを教えてほしいということではない。(「主要規制別 テクニックと対応実例 景品表示法‐景品規制」(外村達哉、前掲146頁))

通常、法律文書は「規範→事実認定→当てはめ→結論」という演繹法によって表現されるが、事業部にとっては規範の理解そのものは重要とはいえない。具体的にビジネススキームのどこに問題があり、どう対応したらよいのかを理解することが重要である。(「主要規制別 テクニックと対応実例 景品表示法‐インターネットの表示」(中村緑吾、前掲149頁))

 以上は別のトピックを扱った記事からの引用ですが、それぞれ、同趣旨のことを言っていると思います。要するに、法務プレゼンにおいては、法律の勉強をしてもらうのではなく、目の前の事業のどこに対象となるリスクが潜んでおり、また、そのリスクを前提にどうビジネスを進めていくべきか、を理解してもらうことが大事ということだと思います。

 法務パーソンの思考として、上記でも指摘があるように、法的三段論法的な発想で事業部に対しても説明してしまうということがあると思います。確かに、純粋に法律の勉強をする場面や、法務部門の新入社員に対して教育する場面では、このような発想で説明することにも合理性はあると思います。しかし、事業部門に対する法務プレゼンの目的は、あくまで、目の前の事業における法的リスクをどうマネジメントして事業を推進していくかの手助けをすることであり、法的三段論法的な説明手法は、目的との関係で合ってないかと思います。

 後述のノウハウとも関連すると思いますが、法務プレゼンの目的をしっかりと考えた上で、どういう角度からの説明がベストかを試行錯誤する必要があると思います。

 

 次に、法務プレゼンの準備については次のようなことが述べられていました。

そのため、法務プレゼンを開催する前の事前の情報収集が非常に重要である。対象者の日頃の業務内容(社内承認フローや個々人の役割・担当範囲、顧客やサプライヤーなどの取引先情報、サプライチェーン、取扱製品の特長等を含む)のどこに、どのようなリスクが潜んでいるのか、どこで迷うことが多いのか、どのような問題が生じることが多いかなどを日頃の法務相談を通じて、または、事前のアンケート調査やヒアリングを通じて把握しておくことが重要である。(「法務プレゼンの心構え‐誰を対象に、どう説明する?」(前田絵里、前掲140頁))

次に、聞き手がどのような人であるかを考える。おそらく法律のことを常日頃から意識しているわけではないため、前提知識も期待すべきではないし、法務特有の言い回しも極力避けたほうがよい。日常的に山のようなタスクを抱えていて、できれば法令対応のためのコストは最小限に抑えたい。残念ながら、あまりモチベーションが高くない聞き手もいるが、大切なことは、目の前の聞き手にフォーカスすることだ。(「主要規制別 テクニックと対応実例 個人情報保護法」(三宅麻紗子、前掲145頁))

 法務プレゼンの仕事を行うことになった場合、どのようなことをするでしょうか。対象となる法令のインプットをし、資料を作り込むというのは誰しもがやっていることかと思います。ですが、ここでも述べられているように、まず、その大前提として、どのような人々が受講するのか、というのを確認することが最重要かと思います。

 受講対象者が経営陣の場合、一般従業員の場合、新入社員の場合では、自ずと前提知識や問題意識、モチベーションに差があることは当然のことと思います。そうだとすれば、プレゼンの内容も異なってくるのは当然のことと思います。また、抽象的な参加者の属性を把握したとしても、参加者が具体的にどのような仕事を行っているのかといった点が不明ですと、「刺さる」プレゼンにはならないと思います。いずれにせよ、法務プレゼンに当たっては、様々な角度から「準備」を徹底的に行うということが重要と思います。

 

 以上の事項は法務プレゼンにあたって考えるべき事項のうち、一部の事項だと思いますが、本特集はそのような視座を再認識させてくれる良い特集だと思います。