普通の法務の現場録

企業法務人の管理人が、「普通の法務の現場目線」という切り口で、現場の暗黙知を言語化しようと試みているブログです。

【法務】ビジネス法務2020年9月号 感想

 ビジネス法務2020年9月号を読みました。

ビジネス法務 2020年9月号[雑誌]

ビジネス法務 2020年9月号[雑誌]

  • 発売日: 2020/07/21
  • メディア: 雑誌
 

 

 本号の特集の一つは、「法務部の人事評価制度 大解剖」(前掲74頁以下)というものでした。

 

 本特集を読んでいて気になった点としては、「人事評価制度」を媒介にして、経営と法務、管理者と担当者を繋ぐことの重要性でした。

 

 まず、前者の経営と法務という視点ですが、現在、至るところで聴かれる議論として「法務のあるべき形」というものがあります。その中で、法務のあるべき形という切り口から経営との関係性が語られるわけですが、経営との関係を考える際には、本当にそのような理念的な側面からの議論だけで十分なのか。

 このような問題意識に対して、

法務人材の評価に関しては、法務の専門性に鑑み、独自の評価システムを持つべきだという議論があります。日本の企業だと伝統的には1つの全社的なシステムのなかだけで人事評価を行う方法をとっていて、専門職のために独自の評価システムをあまり設けていないと思うのですが、これは一長一短だと思います。もし法務部門の人材を経営人財として登用するという方向を目指すならば、特殊な評価システムは設けず、むしろ全社的なシステムのなかでしっかりと評価される人材を育てていくという考え方もあると思うのです。それは、どのような人材に育てたいかという方針次第であり、企業によってことなってもよいと思います。(前掲75頁「法務と経営を接近させるための法務人材・法務組織戦略」、金子忠浩・高野雄市・野村慧、高野発言)

という発言は考えるべきことかと思います。

 当該発言が指摘するように、人事評価が法務部門内で蛸壺化してしまえば、担当者のスキルアップの方向性やそのモチベーション自体も、法務部門内で完結するものになってしまい、事業部門との間での視座やスキルの共有するインセンティブが発生しないように思います。現状の人事評価制度がどのようなものになっているか、そのような人事評価制度を「経営との媒介」と位置づけて戦略的に用いることができているのかという点は、改めて考え直さねばならないように思います*1

 

 次に、後者の点に関しては、担当者の視点から、弊ブログでも過去に考えてみたことがあります。

chikuwa-houmu.hatenablog.com

  基本的な発想としてはこのころから変わってはいませんが、本特集で現れていた視点を付け加えるとすれば、管理者と担当者の対話をきっちりと行うという点だと思います。

 このような問題意識からは、

個人の目標設定で大切なのは、それぞれが会社、法務部全体の計画や方向性を理解し、さらに所属するグループの目標から個人の目標へとブレイクダウンして考えることであろう。会社や部の目標は抽象的に見えることも多いが、具体的なタスクが与えられるまで待つという受け身の姿勢ではなく、上位の目標をいかに達成するかを考えることもグループや各人のミッションの1つであるととらえ、より主体的に目標設定を行うことが重要であると思う。(前掲86頁「上司・部下のコミュニケーションで目線合わせ」、長谷川亜希子)

という視点が重要であると思う*2

 

 いずれにせよ、顧客(市場)→会社→部門→担当者という流れを意識し、かつ、自分の行動レベルまでブレイクダウンしていくことが肝要だと考えました。

 

以上

*1:「人事評価制度」とリンクする視点としては、「採用の際の基準」というものもあるように思います。本論考においても、法務界隈の転職エージェント業務を行っている野村氏が、「私は弁護士や法務人材のエージェント業務を行う中で、いろいろなポジションの御依頼をいただくわけですが、そもそも法務を経営する意思を持っている人たちは多数派ではないと感じていて、そうすると、出てくるオーダーというのは契約法務ができる人とか、TOEICが何点とかになってくるわけです。これを右から左に渡すだけの人が我々の業界では正直多く、識別性の低い求人票ばかりが並ぶわけです。それはヒアリングしている側も発注している側も問題があると思っています。」(前掲80頁、野村発言)といった発言をしている点は考えるべき点だと思いました。時系列でみると、採用時点=入口、人事評価=職務遂行中の両点において、一貫した方針がなければ、実質を備えない形式的な対応しかすることができず、ひいては、企業側及び担当者側で意識の不一致が生じてしまいかねないと思います。

*2:また、「私はコンピテンシーの構築にあたり、理論的には4つのアプローチの視点があると考えています。1つ目は通常の法分野からのアプローチ、2つ目は組織目標から導く機能面からのアプローチです。3つ目はリーガルの意思決定や思考の仕方が究極的にどこに依存するのか、あるいは社内外のステークホルダーのどこにフォーカスをするかを考えてそこから算出していくアプローチ、そして最後の1つは時間軸からのアプローチです。」(前掲81頁、野村発言)という視点も非常に参考になる視点だと感じました。