普通の法務の現場録

企業法務人の管理人が、「普通の法務の現場目線」という切り口で、現場の暗黙知を言語化しようと試みているブログです。

【法務】ビジネス法務 2019年8月号 感想

今回も備忘録を残しておこうかなと思います。冒頭には「平成から令和へのメッセージ」ということで豪華な方々のメッセージが載っておりました。

ビジネス法務 2019年 08 月号 [雑誌]

ビジネス法務 2019年 08 月号 [雑誌]

 

 ①トラブルの発生・拡大を防ぐ契約解除時の法務部員の心得(中川裕一・前掲52頁)

・今回は、「契約解除の実務」が特集されておりましたが、その中でも気になったのはこの記事でした。理由としては、他の記事がわりと「理論的な側面から視点を整理する」という切り口で執筆されていたのに対し、本記事は「実務的な側面から経験を伝える」という切り口で執筆されていたのが、自分自身の問題意識と合致したからです。

・個人的に興味深かったのは、

筆者の知る限りでは欧米の企業では、ほぼ例外なく、法務部門の担当者や責任者が契約の終了に関与し、ロイヤー達が契約の終了をリードしているようだ。(前掲53頁)

という点です。

これは、すなわち、解除という場面でそれ相応のリーガルリスクが存在するということを企業自体が認識しており、かつ肝となると考えているということでしょうし、はたまた法務の側に視点を向けると、解除のプロジェクトマネージャーとしての資質が必要とされているともいえるかもしれません。

・自分が「解除」の場面でこのような役割及び付加価値を認識し、職責を全うできているかというと、正直、「否」なので、反省点であり、また課題だと思いました。

・本記事を読む中で1点気になったのは、著者の経歴を見るに*1外資系のB to Cメーカーの法務ノウハウを持っている方と推測しますが、これら企業のビジネス環境において「解除」というのはどういった場面で出てくることが多かったのでしょうか。 例えば、販売戦略の転換の観点から販売店を切り替えるタイミングなのか、需要の減少に伴い縮小均衡戦略の下で工場の下請企業を解約するタイミングなのか等様々なものが想定できるかとは思いますが、守秘義務との関係はあるにせよ、よりビジネス戦略との関わりの中で突っ込んだ解除の問題点は聞いてみたいところではあります。

・こういった方のノウハウや考えが見えるというのは本特集ならではかなぁと思います。

先輩・後輩で描く 企業法務のグランドデザイン 第2回 契約書業務からの脱却(須崎將人/中山剛志/宮下和昌・前掲78頁)

・第1回も面白かったのですが、第2回も非常に興味深いものとして読ませていただきました。

・本連載は、法務部門の契約書業務からの脱却=リスク管理部門としての再構築ということを一貫したテーマにしておりますが、今回はその中でも「交渉」というものを強く取り上げておりました。

・法務部門が交渉の現場に行くべきか否かという点は様々な意見がありますが、その点は置いておくとしても、本記事においては、「案件のプロジェクトマネージャー」というワードが何度も出てきました。

・私個人もこの「プロジェクトマネージャー」という言葉は重要なキーワードとなると思いますが、果たしてそのためにどういった能力が必要で、現状の課題は何なのかという点になると、うーんとなってしまいます・・・。

・さて、それは別として、

中山:交渉シナリオ作成のフレームワークのようなものはありますか。

宮下:①当方の要求、②先方の要求、③そのギャップ、④ギャップが発生している原因、⑤ギャップを埋めるためのオプションの順に情報を整理していきます 。(前掲81頁)

中山:私が重視するのは、自社のニーズを正確に把握し、交渉の目的を明確にすることです。 (同上)

 というのは交渉を考えるにあたって重要な点かと思います。

・私自身は、①代替案の確定、②利害を踏まえた提案内容、③説得のためのストーリーはよく考え、かつ事業部門への支援方法として意識することが多いです。交渉の本も何冊か読んでおりますが、以下の本は結構参考にしました。

ハーバード流交渉術 必ず「望む結果」を引き出せる! (三笠書房 電子書籍)

ハーバード流交渉術 必ず「望む結果」を引き出せる! (三笠書房 電子書籍)

 
戦略的交渉入門 (日経文庫)

戦略的交渉入門 (日経文庫)

 
企業内法務の交渉術

企業内法務の交渉術

 
武器としての交渉思考 (星海社新書)

武器としての交渉思考 (星海社新書)

 

・交渉の分野ですと、要件事実的な原則例外思考が大事ですから、まさに司法修習の思考スキームが役に立つ場面かと思います。あとは、行動経済学、心理学、哲学、アニメ、小説等から人間心理を分析するってのは地味に役立っているのかなぁと思います*2

・あとは、

ガバナンス、コンプライアンスといったリスク管理業務では、受け身の姿勢ではなく、法務がリード・発信することが重要になる。(前掲78頁)

てところでしょうか。これは言うは易し行うは難しで、組織ごとにどういう付加価値を提供できるか、その資源は何かを考えるとこなので、非常に難しいが、やりがいある仕事だと思います。法務部門が握る経営資源とは何なのでしょうか

連載:若手弁護士への箴言 競争的解決と協調的解決(髙井伸夫・前掲87頁)

・髙井先生ほどの経験と実績を備えた方がどのように考えているのかを知ることは非常に興味深かったです。なお、「箴」という漢字が読めず、変換に苦労いたしました笑

・本記事のテーマとしては、

そばはそば粉だけでなく、"つなぎ"の存在があってはじめて美味しく食べられるものであるのと同様に、組織の場合も、専門的能力を備え高い成果を上げる自律した"そば粉社員"だけでは成り立たず、専門性は見劣りがしても組織の一員としてのつなぎのような役割を果たす"つなぎ社員"の存在によってうまく機能する(前掲87頁)

 という「そば粉理論」にあるのでしょう。

・当たり前のことを言っていると言ってしまえばそれまでなのですが、では、自分自身の職務を振り返ったときに、自分のことだけではなく、周囲の他者のことも考えて仕事ができているかといわれると、うっ、と思ってしまうところがあります。

・例えば、組織内で有資格者でいることの意味は何なのか、それによってどういう付加価値をもたらすことができるのか、付加価値の対象は事業部門だけでよいのか、部門内に対して何らかの付加価値を提供できないか、等考えることはたくさんありますし、個々の課題を実行しようとすると中々時間が足りなくなるものです・・・。

「三方良し」とはよくいうものです。

 

今回気になったのはこういった点でした。

では、また!

*1:アディダスジャパンユニリーバジャパンホールディングス、ダノンジャパン等の経歴をお持ちとのこと。

*2:読書メーターも地味にやっているのですが、読んだ本の感想をコツコツアウトプットする作業も何かこう役に立ってるなぁと思う次第です。https://bookmeter.com/users/619211