普通の法務の現場録

企業法務人の管理人が、「普通の法務の現場目線」という切り口で、現場の暗黙知を言語化しようと試みているブログです。

【書籍】優越的地位濫用規制と下請法の解説と分析【第4版】

 優越的地位濫用規制と下請法の解説と分析【第4版】(長澤哲也、商事法務)を読みました。

 

1.本書の対象と思われる読者

 本書は、優越的地位濫用規制と下請法規制に関し、公取委の解釈論等を中心に、これら規制の体系化を試みた書籍であると思います。

 本書のはしがきにおいて明示的に語られているわけではないですが、私が本書を通読した限りにおいては、本書が最も役に立つと思われる者としては、優越的地位濫用規制や下請法規制に直面した際に「悩み」を持つ実務家になってくると思います。

 もちろん初学者の方が読んでも得られるところは多いと思うのですが、後述するような本書が採用する体系も含めて、ある程度、優越的地位濫用規制や下請法規制について学んだ後、実務の場面で「悩み」に遭遇したことが多ければ多いほど、本書の特徴の意味合いがより腹落ちして理解できるようになってくる、言うなれば、その真価を発揮する書籍のように感じます。

 

2.本書の特徴

 それでは本書の特徴がどのような点にあるのかという点ですが、私は以下の3点に本書の大きな特徴があると感じました。

 

① 本書の採用する体系

 まず、本書の採用する体系です。

 独禁法上の優越的地位濫用規制自体は抽象的な文言で規定されているもので言わずもがなですが、下請法上の11項目の禁止行為も単に法令上の文言を基に整理されているにすぎないことが多いように思います。すなわち、法令の側から見た整理になっていることが多いように思います。

 これに対し、本書では、発注段階における濫用行為付随的条件の設定における濫用行為取引の履行過程におけるという大項目の下で優越的濫用規制と下請法上の規制を整理していっています。この3段階の整理というのは、実務の現場の人々が普段の仕事をする際の発想に馴染みやすい整理だと感じます。おそらく、日頃から法的な学習をしており、法令の側から知識を整理することに慣れている人であれば、他の書籍のような整理でも頭に入ると思うのですが、そうではない人であれば、目の前の仕事に沿った整理をする方がこれら規制を理解する上でいろいろと馴染みやすいと思います。

 このように、ビジネスというか、そもそもの現場の目の前の仕事の考え方に沿った整理になっている点は大きな特徴だと思います。

 

② 独禁法上の優越的濫用規制と下請法上の規制の連続的な整理

 2点目は、同種の考えをベースにした独禁法上の規制と下請法上の規制を連続的に整理している点です。

 独禁法の書籍を読んでいると、下請法の規制は優越的濫用規制の一部に過ぎないといった記述をめにすることもありますが、実際の適用の場面において両者の間でどのような違いがあるのかまでは突っ込んだ記述はあまりない印象です。逆に、下請法の書籍を読んでいても、下請法の説明はあるものの、独禁法上の優越的濫用規制の説明がそこでなされることもあまりない印象です。

 本書では、項目ごとに、これら両規制を連続的に整理しております。その意義としては、目の前の仕事という観点では同じような事象に対する規制であったとしても、どちらの規制を考えるかによって考え方も変わってきうるという点が明確化されている点は大きな特徴と思います。

 

③ 民法を意識した記述

 3点目は、民法の規定を意識した記述がなされている点です。

 独禁法上の優越的濫用規制や下請法上の規制に関する書籍を読んでも、それら単体の解説がなされていることが多く、私法の一般法である民法との関係を記載した書籍はほとんど見ません。逆に、民法の書籍ですと、これらの規制に該当する場合の私法上の効力という切り口で、公序良俗違反の項目の中で触れられることは多いと思います。

 本書では、もちろん、このような独禁法・下請法の規制が民法にどのような影響を与えるか、すなわち公序良俗違反性についての記述もあるのですが、それ以上に、民法の規定が独禁法上の優越的濫用規制にどのような影響を与えるかという視点が書かれているのは中々見かけない記載だと思いました。要するに、民法上の任意規定の内容が優越的濫用規制の合理性判断の基準として機能し得るという観点です。

 このような民法を意識した記述というのは、新たな視座を与えてくれる本書の大きな特徴のように思います。

 

3.本書を用いる方法

 実務で用いる方法としては、やはり、冒頭でも述べましたが、具体的な実務の「悩み」に遭遇した場面で紐解くというのが第一の役割のように思います。上記のような特徴も含めて、詳細な解説がなされておりますので、「悩み」に答える場面が多いように思います。

 加えて、自学自習の場面でも役立つように思います。具体的には、ある程度独禁法・下請法の学習が進んだ場面で、法令から見た整理となっている知識をビジネス視点の知識へと組み替える方法、また、民法を絡めた理解を養う方法といった形で、「新たな軸」での知識整理をするという使い方もできるように思います。

 

 個人的にはこの分野の書籍としてはマストバイです。

 

以上