普通の法務の現場録

企業法務人の管理人が、「普通の法務の現場目線」という切り口で、現場の暗黙知を言語化しようと試みているブログです。

【法務】ビジネス法務 2021年4月号 感想

 ビジネス法務2021年4月号を読みました。

 

 本号の特集は、「金銭支払条項」起案・審査の着眼点というものでした。

 

 「金銭支払条項」というものは、契約審査を行うにあたって、どういった位置づけを与えられるでしょうか。

 まずは、ビジネスの実態を把握するという視点。この視点からすると、契約審査を行う前提として、「ヒトモノカネ」の視点からビジネスの実態を把握せよと言われることが多々ありますが、このうち、「金銭支払条項」は、「カネ」の流れという視点と密接に関わってきます。

 次に、法的な権利義務で見た視点。この視点からすると、契約審査の対象となるビジネスの把握した上でそれを法的に分析する際、「権利と義務」という視点から見た場合の「権利」、すなわち、「債権」をどう見るかという視点と密接に関わってきます。

 このように、「金銭支払条項」というのは、何気なく見てしまいがちですが、ビジネスの実態を把握するという観点でも、また、法的な権利義務を分析するという観点でも、当該をビジネスを構成する基本的かつ重要な要素として捉えられると思います。

 

 本特集では、「金銭支払条項」=「代金支払い請求権」の「リスク」を契約書上でどのようにカバーしていくかという視点で契約条項というものが整理されております*1

① 代金

② 未払い時のサンクション

③ 支払管理

④ 解除・途中解約時の条項

こういった視点で金銭支払条項を考えるというのは、一つの参考になると思います。

 

 ただし、本特集を見ていて気になったのは、「金銭支払条項」を考える際の軸やどのような条項例があるかといった点は説明がなされているものの、その前提となる「リスク」の大きさはどのように判断し、同「リスク」との関係で「金銭支払条項」はどのような位置づけを与えられるのかという点が一切触れられていなかった点が気になりました。具体的に言うと、「代金支払い請求権(債権)のリスク」の程度と当該取引における「金銭支払条項」の重要性というものは相関関係にあるはずであり、その点の分析なくして、同取引において「金銭支払条項」をどの程度重視すべきか、はたまたどの程度詳細に記載すべきかの判断軸は得られないように思います。

 それではどのような視点から同リスクの程度を判断していくかというと、これはいわゆる「与信管理」と言われる分野の知見が重要になってくると思います。具体的には、代金支払い請求権のリスクを管理するという視点から、当該取引先の経営状況等に関して定量面・定性面から分析・評価し、同リスクの管理を行っていくことになろうかと思います。企業内であれば、財務系の部署がこういった職責を担っていることが多いと思われます。

 法務部門において「金銭支払条項」を審査する際にも、同与信管理部門の審査結果を考慮してリスクを判断し、どういった条項をドラフトするかということを意識するのは非常に重要なことかと思います。実際の実務においては、「金銭支払条項」に対する濃淡管理の観点からも、忘れてはいけない視点のように思います。

 

以上

*1:「金銭支払条項」起案・審査のチェックポイント(大賀祥大・丸野登紀子、前掲16頁以下)