【法務】BUSINESS LAW JOURNAL 2019年12月号 感想
BUSINESS LAW JOURNAL 2019年12月号の備忘録です。
Business Law Journal 2019年 12 月号 [雑誌]
- 出版社/メーカー: レクシスネクシス・ジャパン
- 発売日: 2019/10/21
- メディア: 雑誌
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1.改正民法の施行に対応するための取捨選択(上)(藤野忠・44頁)
● 本記事の内容
・本記事では、主として、極めて実務的な視点から「民法改正に伴う契約条項の見直しの有無」に関して論じています。
・民法改正と契約条項に関する書籍や記事は本記事以外にも多数存在していますが、その多くは、民法改正の内容を説明するもの、民法改正により契約条項をどのように変えればよいかという視点での論考となっています。これに対し、本記事では、「無理にやらなくて良いことは何か」という視点から、民法改正と契約条項への論及がなされています。
・結論として、本記事においては、
施行秒読み段階に入った現時点での「改正民法への対応」としては、契約条項の見直しの優先順位は決して高くない。(前掲44頁)
としています*1。
・理由としては、大きく捉えると、①改正項目の多くは実務の変更を意図したものではないこと、②中途半端な条項修正はかえって契約のリスクを増すおそれがあることの2点になってくると思います。
・本記事は企業内の法務担当者にとって必読と聞くこともありますが、このような「無理にやらなくて良いことは何か」といったリソースを踏まえた現実的な議論をしている点で「必読」と思われます*2。
● 本記事を踏まえて一法務担当者にとっての「民法改正」とは
・一法務担当者の自分にとっても、「民法改正」と聞くと、とりあえず自社の契約条項を見直さねば!と思ったのは正直なところです。
・ただ、改正民法の内容の多くが任意条項であることを踏まえると、一法務担当者にとっての「民法改正」の意味は別のところにあるのではと感じています。
・やはり、大きいのは、本記事でも指摘のあるように「契約書の使い手はビジネスの現場である」といった点だと思います。当たり前ですが、契約書の内容は文字だけ追っていてはダメで、実際のビジネスの内容及び現場で使えるものになっていないと意味がない。そんな中で、とりあえず改正民法に沿った表現に直したというだけでは、見直しのための見直しといったように作業だけが増えることになり、事業部門から見ても納得感なく負担だけが増える結果になってしまうのではないかと思います。
・そうであれば、むしろ、事業部門とディスカッションするための一つの機会とするといった形に民法改正を捉える方が良いのではないかと考えます。法務担当者としても、中々、何もないときに事業部門とディスカッションすることはエネルギーがいることですが、こういった機会を捉えて事業部門に食い込み、かつ自社の契約を用いた法的リスクマネジメントのスタンスを決する一つの機会と位置付けるのも良いのではないかと考える次第です。
2.コンダクト・リスク管理と企業カルチャー改革(東浩・前掲78頁)
● 本記事の内容
・本記事では、いわゆるコンダクトリスクとそのリスク管理の方法について論じられています。
・自分自身もコンダクトリスクという言葉はあまり聞きなれない言葉ではあったのですが、本記事によると、共通理解が形成されていないことを前提に、コンダクトリスクとは、
企業の役職員による
①社会規範に悖る行為
②商慣習や市場慣習に反する行為
③顧客の視点の欠如した行為
といったことになろう。(前掲78頁)
と述べられています。
・この定義からすると、いわゆる狭義のコンプライアンス=法令等の遵守よりは広い概念になってきそうです。
・その上で、本記事においては、昨今の企業不祥事事例(検査データ改ざん事例、不適切な個人データ取扱等)に関し、コンダクトリスクが問題となる事例と分析しています。
● 一法務担当者にとってコンダクトリスクとは
・仮にこのようなコンダクトリスクを踏まえて職務遂行をすることになるのであれば、一法務担当者としても単なる法令との整合性を見るだけでは足りず、より広い範囲での社会からのレピュテーションといったものにまで目を配る必要がある気がします。
・例えば、問題となりうる場面としては、目の前の相手方が顧客や社会からの期待といったものを問題にしているにもかかわらず、法令との整合性のみを掲げて問題ないと対応して良いのかといった場面になるでしょうか。
・目下のところは、コンダクトリスクといったものが問題になっていることを踏まえた上で、今目の前の案件で問題になっているものは何なのかをしっかり考えるといった対応を心がけようと思います。
今月号も盛りだくさんで勉強になりました。