ビジネス法務2021年3月号を読みました。
本号の記事において印象に残ったものは、「企業法務史のターニングポイント 第3回 メーカーにおける法務機能の再定義」(野田繁直、前掲122頁)でした。
1990年に東芝へ入社し法務部門に配属となった著者から見るメーカーにおける法務機能というものが述べられているのですが、著者が入社する前である1960年代におけるメーカーにおける法務機能の中心に始まり、著者が実際に体験してきたであろう1990年代における同機能というものが簡潔にまとめられております。
60年代に焦点を当てると、
主として1960年代以降、当社も含めた日本の家電を取り扱うメーカーの事業活動が徐々に国際化の方角に舵を切り始めた結果、海外の法律問題にも巻き込まれるようになった。(前掲122頁)
と記載されているように、メーカー法務における国際法務の萌芽が見られるところです。特に、この時期は、本記事によると、通商法関連、訴訟対応や競争法対応など、日本企業が他国においてそのシェアを伸ばし始めたことに対し、他国による法的な規制が多く作られた時期であったようです。
その後、90年代になると、
予防、戦略法務という観点に比重を置き1990年代を振り返ってみると、まず、行動基準やコンプライアンス・プログラム(以下「CP」という)時代の幕開けと、特徴づけることができる。(前掲123頁)
また、国際協定の草案策定の一部に関わり始めたことにも言及していきたい。(前掲123頁)
という形で法務部門が扱う分野が拡大していったことも示されています。
いずれにせよ、これらの変化というのは、法務部門が自己目的を規定した上で変貌を遂げていったというよりは、事業上の変化に伴い法務部門に求められる役割といったものが拡充されていったということだと思います。
それでは、現在においては、どういった変化が起きているのかという観点で本号を眺めてみると、面白かったのが、特集2として、「オープンイノベーションの現状と技術検証(PoC)契約締結の実務」というものが組まれていたことだと思います。
現在のビジネス環境においては自前での開発のみを行うことでは市場の変化やニーズを捉えることはできず、他社との提携の中で開発業務を行っていく必要があるというのは、多くの企業で取り入れられている考え方かと思います。
では、このような戦略を実施する上で、企業活動の何が変わるのか、そのような変化に伴いリスクの考え方はどのように変えなければいけないのか、といったことを見据えて、日々の業務で試行錯誤していくことが現在の法務部門においては求められるようになってくるようにも思われます。
そう考えてくると、60年代や90年代においては「量的な拡充」というのが法務部門において見られる現象だったかもしれませんが、これからは「質的な変化」というものが求められることになってくるのかもしれません*1。
以上のような本号の2つの記事を見ながら、今後、法務部門に求められる役割というのはどう変化していくのかを感がえてみるのも面白いと感じました。
以上
*1:これもビジネス上の変化との関係で相対的に決まってくるとは思います。