【書籍】Q&A 若手弁護士からの相談99問 特別編ーリーガルリサーチ
Q&A 若手弁護士からの相談99問 特別編ーリーガルリサーチ(京野哲也 編著、ronnor・dtk 著、日本加除出版株式会社)を読みました。
本書は、法務パーソンがいわゆる作業者として法務実務に携わるためのノウハウが言語化されたもので、中々、類書にはないアプローチで書かれた書籍だと思います。
1.本書の全体像
本書は、民事弁護教官などを歴任された京野弁護士と、匿名の企業法務パーソンと思われるronnor氏とdtk氏によって書かれた書籍です。タイトルでは若手弁護士と銘打っていますが、その対象読者として、若手弁護士の他に、若手法務パーソンも含まれたものになっています。
これまでリーガルリサーチに関して出版されている書籍は他にもあるように思いますが、それらと比較したときの本書の特徴は、実務で答えを出すためのリーガルリサーチとはどういうものかという点に焦点をあてているというものだと思います。本書でも出てくるのですが、リーガルリサーチは法務パーソンであれば見解の根拠を出すために必須であるものに関わらず、人によっては面倒くさいと感じることも多いものです。特に、学術的な観点からのリーガルリサーチをイメージしてしまうと、この傾向は顕著なものになると思います。
そういった中で、本書は、あくまで実務者が答えを出すという形でリーガルリサーチを位置づけ、どの程度の広さや深さ、そして具体的な順序まで言語化した書籍として類書にないものになっていると思います。
そして、本書の特徴としては、①問いを大切にしている、②実務的なリーガルリサーチの手法を具体化している、③リーガルリサーチ後についても触れている、の3点を挙げることができると思います。
2.特徴その①
本書の特徴その①は、問いを大切にしているという点です。
企業法務の本というと、あるべき法務論といった形がまず提示されて、それに沿う仕事はどのようなものかと具体化して業務ノウハウが語られていくことが多い印象です。これはこれでそうだと思う点もありますが、このレベルの視座を持っていない人からすると、意識高いなぁ…で終わってしまうことも多々あるように思います。
一方で、本書は、そういった入り方ではなく、「問い」は何かという点を1章使って説明している点が非常に実務的だと思います。コンサル系のロジカルシンキング本などでは当たり前ですが、法務系の本でこのような入り方をする書籍はなく、いわゆるビジネスパーソンとしての視座ともマッチする書籍だと思います。
実際、実務を行っていると、問いが不明瞭なまま業務遂行を行っている法務パーソンは多々見られますし、不明瞭ならまだしも、変容してしまっていることすら見受けられます。本書は、まず問いをしっかりとするという「ちゃんとやる」ことの大切さを言語化している点が非常に特徴的です。
3.特徴その②
本書の特徴その②は、実務的なリーガルリサーチの手法を具体化しているという点です。
繰り返しになりますが、本書は、あくまで、実務で成果を出すためのリーガルリサーチ手法が紹介されています。
この観点から行くと、若手法務パーソンには、法学部卒でない方もいて、そもそもハードルが高いと思われるリーガルリサーチのハードルを良い意味で下げる方向の紹介がなされていると思います。
一方で、法学部卒や弁護士資格を有している方からすれば、リーガルリサーチなんてしってるよと思われるかもしれませんが、学術的なものや業務時間に制約なく実施できるリーガルリサーチと、実務の制約条件の中で行わねばならないリーガルリサーチは明らかに異なります。
本書は、このように、様々なバックグラウンドを持つであろう若手法務パーソンのいずれの方に対しても、「実務での」リーガルリサーチとはどういうものかを指し示す書籍になっていると思います。
4.特徴その③
本書の特徴その③は、リーガルリサーチ後についても触れているという点です。
日々の業務を行っていると、調べたものをまとめるという作業は非常に苦痛なものになります。私もそうです。とはいえ、折角労力を割いたものですから、何らかの言語化を行っておくことが、自分自身のためになるというのも争いないところだと思います。
本書では、その方法として、リサーチメモとして具体化する手法から、ブログでの公開*1といった様々な手法を紹介しています。
中々、第一歩を踏み出すのは勇気と労力が必要なことですが、書籍の感想を書き連ねている私としては、こういった言語化をする人が一人でも増えることを願っているところです。
5.まとめ
本書は、上記のような特徴を有している書籍で、同編著者のQ&A 若手弁護士からの相談199問 特別編―企業法務・キャリアデザイン(京野哲也編著、ronnnor・dtk著、日本加除出版株式会社)*2と併せて読むことで、より相乗効果を増すものと考えられます*3。
具体的には、本99問本にて実務者としての作業ノウハウを身に着ける、199問にて組織内での立ち振る舞いやキャリアを考える際の軸を身に着ける、といった形で、法務パーソンが身に着けるべき暗黙知を身に着けることができるように思います。
いずれにせよ、本書は、リーガルリサーチに悩む若手法務パーソンの試金石になる書籍だと思います。
以上
