普通の法務の現場録

企業法務人の管理人が、「普通の法務の現場目線」という切り口で、現場の暗黙知を言語化しようと試みているブログです。

【書籍】研究・製造・販売部門の法務リスク

 研究・製造・販売部門の法務リスク(松下電工株式会社法務部編、中央経済社を読みました。メーカー法務に取り組むにあたって、目の前の事業のどこにどのようなリスクが潜んでいるかを知るためには非常に良い本かと思います。

 

●本書の内容

 製造業であれば研究・製造・販売のそれぞれのプロセスにおいて潜む法的リスクを検討することが必須になってきます。

 本書は、そのような各プロセスにおける法的リスクに対する「気づき」を得ることを意図して書かれた書籍だと思われます*1。特に、本書が松下電工株式会社(現パナソニック株式会社)の法務部によって書かれたのは、実務上の最前線での問題意識によって書かれたものだと考えられることから、非常に大きな意義があると思います。

 それでは、どのような内容が書かれているかというと、例えば、製造に関する企画に際してという項目においては、これに関わるリスクとして、

①他社の秘密情報に配慮した製造政策の企画を

②業界団体での取決めや製造の共同推進においては「独占禁止法」に注意

③企画書等の作成には著作権等に注意

④企画自体が権利になることもある(ビジネスモデル特許

⑤製造に関する法的規制を把握する

⑥その取引だけではなく、関連する取引にも注意して企画推進を

⑦製造体制の展開、整備では、適切な契約締結・手法の選択を

といったものがあげられています(前掲71頁)。

 日々の業務をこなす上では、大まかに切り取ったときに「製造に関する企画」に該当する相談に出会うこともままにあるとは考えられますが、その際、上記のようなリスクに直面しうるということを把握していれば、質問されたことに答えるだけではなく、その先も見据えたアドバイスができるかもしれません。特に、⑥は、製造部門だけでなく、販売部門や開発部門の動向との調整も関わってくる場面ですので、特に大きな企業であれば、実務的な視点で見た場合の大事な問題意識になってくるかと思います。

 あとは、現在の製造業のビジネスモデルですと、アフターサービスに関しても取り込んだビジネスモデルを形成していることがままにあるとは思いますが、サービスに関する項目は一つだけであり、もう少し突っ込んで考えていく必要はあるかと思います。

 

●他の書籍との比較

 製造業の法務に関わる書籍としては、

 があります*2

 本書との比較という観点から言うと、本書は、上記でも見たように、目の前の事業に向き合うにあたってリスクの抽出作業を行う場面で役に立つことが多いかと思います*3。これに対し、メーカー取引の法律実務Q&Aは、事業部門から何らかの質問を投げかけられた際に課題を解決する場面で役に立つことが多いと思います。

 また、法的根拠の記載という点でいうと、本書は、目の前のビジネスシーンにおける法的リスクに関する「気づき」を得ることを想定しているので、あえて法的根拠に関して深い論述はなされていないのですが、メーカー取引の法律実務Q&Aは、課題の解決のためにしっかりとした法的根拠や事実認定の考え方が記載されていることが特徴になってくるかと思います。

 このように、両者ともに、特徴を有する点は異なると思いますので、製造業の法的リスクを考える場合には、どちらの切り口からもアウトプットを出せるようになると、より仕事の幅が広がるように感じました。そうすることで、質問されたことに答えるだけではなく、より広い意味での付加価値が出せるようになると感じました。

 

 なお、本書は、2005年に出版された書籍で、現在は絶版になっているようなのは非常に残念なところです。

 

 以上、読書録にて。

*1:本書の直接の対象としては、事業部門の方を想定しているようではあるが、法務部門の方が読んでもそれ相応の気づきを得ることはできると思う。

*2:本書の感想については以下を参照。

https://chikuwa-houmu.hatenablog.com/entry/2020/02/10/220620

*3:例えば、ブレストや事業部門との壁打ち役になる場面を想定。