【法務】ビジネス法務2020年3月号 感想
ビジネス法務2020年3月号を読みましたので、備忘録です。
● 2019年に起きた企業不祥事とコンプライアンス強化へ向けた示唆(山口利昭、前掲44頁)
企業不祥事・コンプライアンスの専門家でもあり、「ビジネス法務の部屋」*1の管理人もされている山口利昭弁護士による、2019年に発生した企業不祥事事例を分析した記事になっています。
2019年に発生した企業不祥事事例も多数に上るわけですが*2、これらの企業不祥事事例における共通点として、本記事では、
それは、後日、大きな不祥事に発展しまうリスクが(あらかじめ)目に見えていたが、経営陣がリスクから目を背けて大きな不祥事に発展しないことを期待していた、という点である。(前掲46頁)
と指摘しています。
本記事でも指摘がありますが、コンプライアンスリスクに向き合う際に、これまで大きな問題にならなかったのだから今回もおそらくも問題はないだろうという意識になってしまうことがあるように思います。しかし、これまた本記事でも指摘がありますが、世の中の状況は「変化」するわけで、特にテクノロジーの進化やSNSの発達に伴い、これまで見えなかったものが「可視化」されるようになってきているというのは無視できないように思います。
このような状況下で経営陣の意識変化の必要性を本記事では述べているわけですが、法務担当者レベルでもできることはあるように思います。例えば、「研修」という場面においても、「変化」ということを前提にすれば、法令や社会意識の変化をキャッチアップし、事業部門に伝えるというのは一つの大事な役割かと思います。逆に、事業環境の変化というのは、事業部門が一次的な情報源となることが多いですから、双方向的な研修の場や日々の業務の際にキャッチアップしていくというのが大事になってくるかと思います。そのような中で、ボトムからのコンプライアンス意識の醸成ということにも寄与できるのではないでしょうか。
「変化」という切り口から見ても、法務部門と事業部門のそれぞれの役割は何かを考えることで、一法務担当者レベルでもできることはあるように思います。
● 証拠からみる 独禁法違反認定の鍵【第3回 元詰種子事件】(向宣明、前掲131頁)
本記事は、独禁法関連の事件に現れた文書が、証拠という側面から見てどのように評価されているかを検討する記事になっています。
題材としている事件は、元詰種子カルテル事件になっており*3、その中での「アンケート」の位置づけや基準価格と具体的な販売価格の関係性等を中心に論じていく記事になっています。
本事件を法的にきっちりと分析することは重要なことですが、その上で、法務実務に役立てるとすれば、どういった役立て方があるでしょうか。
前記事の際にも触れましたが、コンプライアンス関連の職務の1つとしては、「研修」というものがあげられます。日々の実務を行っていると、このような研修のネタをどうするかというのは一つの悩みどころになってくるかと思います。その際、全くの架空事例を想定することもありではありますが、やはり、説得力という観点からすれば、過去の実際の事例をベースに考える*4ということは重要になってくるかと思います。
例えば、本記事を読んだことを「研修」という形で活かすのであれば、「アンケート」というものを発展させることが考えられます。アンケートを用いたカルテルリスク、アンケートが配られる業界団体はどのようなものがあるか等から、啓発に努めることができるように思います。また、基準価格と具体的な販売価格という点についても、Q&A形式のような形で話を広げることができるように思います。
結局のところ、実際の事件を学ぶ際には、その客観的な意義を学ぶことはもちろん、どう自身のアウトプットに結び付けるかという点でも学ぶことは多々あるように思います。そうすれば、実際の事件の学び方も変わってくるのではないでしょうか。
以上、本号の備忘録にて。
*1:http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/
*2:例えば、広報・メディア対応の専門誌である「月刊広報会議」による調査として以下のページを参照。 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000247.000002888.html
*3:種子の元詰販売業者 32 社が、4種類の野菜の交配種の元詰種子について、基準価格及び販売価格の合意をしていたことが「不当な取引制限」に該当するとされた事件。公取委平成18年11月27日審判審決・審決集53巻467頁、東京高判平成20年4月4日審決集55巻791頁。
*4:他社の事例ということもあるだろうし、自社の事例ということもある。