普通の法務の現場録

企業法務人の管理人が、「普通の法務の現場目線」という切り口で、現場の暗黙知を言語化しようと試みているブログです。

【法務】一法務担当者の私が「法務パーソンはビジネスパーソンとしてあるべし」という言葉がよくわからないので考えた

 こんにちは、ちくわと申します。本記事は、2024年の裏legalAC*1 の記事として書きました。

 普段はいわゆるJTCと呼ばれる企業にて、ゆるふわ普通法務担当者として日々の仕事に励んでおります。

 そういった中で、よく聞く言葉として、「法務パーソンはビジネスパーソンとしてあるべし」というようなものがありますし、おそらく面接では「自分は事業をよく知ることが大事だと思っています!」「法務パーソンの前にビジネスパーソンであることが必要です!」と言う人が大多数だと思うのですが、どう考えてもまわりの法務パーソンにビジネスパーソン感がないように感じており、この違和感はいったい何なのだろうかというのが本記事を書くに至った動機になります。

 この観点からのポエムになります。

 

1.どういった背景でこの言葉を使うことが多いのか

 そもそも、どういった背景でこのような言葉が生まれてきたのだろうかと考えてみました。

 まず最初に、会社に雇用されてるんだから当たり前にビジネスパーソンであって、こんな言葉が生まれてきたこと自体どういうことなんだ…と思うに至ったところ、まぁ、おそらく、よく言われる「法務パーソンは偉そう感」を否定するために生まれてきたんだろうとは思いました。私は、自分のことを特殊な職種だと思ってませんし、偉そうにしませんよ、会社に馴染むつもりです!っていうのを言い換えるために使われているというのが、それなりの割合なんだろうと思います。それが自覚的であれ、無自覚であれ、傍から見ているとそんな印象を受けます。

 なので、私としては、この言葉が積極的な意味で使われていることは少ないのが実情だと思っております。

 

2.法務あるべき論との関係

 おそらく、この言葉って、いわゆる法務あるべき論と呼ばれる言説との関係を考えていくことで、その意味合いがより鮮明になってくるんだと思います。

 ご承知の通り、数年前、経産省の国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会の報告書に端を発して以来、法務界隈においては、様々な形で法務あるべき論というのが語られています。最近はリーガルテックベンダーが主催するカンファレンスが主になってこの辺りを取り上げている印象です*2

 しかしながら、実際に企業内で働く担当者として、この種の議論「のみに」を深ぼっていくことで、自身のスキルアップが図られていくのかというと、ちょっと疑問なところがあります。この観点から入っていくと、要するに、ビジョン先行型で入っていくことになりますが、これ、スティージョブズ並みの大天才でないとかなり厳しいのではないかと思います。法務部門はこうすべきですと言って、どれだけの社内の人に刺さるのか。そうだね、で、法務さんは何してくれるの?で終わってしまう可能性すらある。これを続けていると、法務解体にすら繋がっていきかねない。

 私個人としては、この言葉と法務あるべき論はあまり相性がよくないのではないかと感じています*3

 

3.日々の仕事においてビジネスパーソン「的に」できること

 では、一担当者というレベルに落とし込んだ時に、ビジネスパーソン「的に」できることってなんなのだろうかと、この1年試行錯誤してきました。

 そうしたところ、①経営・事業の課題は何なのかを把握する+②法務としてその課題をどのように解決(またはその支援)を行っていけるかを考える+③解決策としては自部門だけでなく他部門やアウトソース先のリソースも加味した施策を考える+④それを実際に自分でPJとして回してみる、という極めて当たり前のところに行きつきました。特殊なことのない普通の部門です。

 こんなことをぼんやりと考えながら、少しレイヤーも上げた視点で考えてみると、経営・事業戦略と法務戦略はどの程度紐づいているのだろうかと考えることが増えました。最近、公取の執行が活発化しているから~「のみ」からスタートするのは経営・事業課題起点じゃないですし、法務部門の契約審査数の効率化が~「のみ」を考えるのは法務部門の課題ではあるけども経営・事業課題起点ではないですし、法務部門のグローバル化が~「のみ」を考えるのも経営・事業課題を解決するための手段としての組織論が目的化してないか?といった自問自答をする場面が増えました。

 果たして、経営・事業戦略と法務戦略が接合している会社は世の中にどのくらいあるのでしょうか。

 

4.結局、法務パーソンはビジネスパーソンとしてあるべしってどういうこと?

 ぐだぐだと書いてきましたが、一担当レベルでいうと、この会社でやりたいことについて、自社の事業やフィロソフィーといったものと紐づいたものを言えるかってことだと思います。うちの会社は○○というものを提供してるから、その支援のために○○をやりたいと言えるのか、それとも、単に、M&Aを頑張りたい、と言うだけなのか、というようなことだと思います。

 結論として、普通の担当者であることが自分の目指すべき場所というところに戻ってきた次第です。やはり、普通法務担当でした。

 

 明日の担当はきぬんぬさんです。よろしくお願いします!

*1:裏 法務系 Advent Calendar 2024 Advent Calendar 2024 - Adventar

*2:ただし、リーガルテックベンダーは営利企業であり、ビジネスモデルにおいて、単なるSaaS的なソリューションからコンサル的ソリューションへ脱皮しようとするならばこの辺りに触れるのは必然であり、こういったカンファレンスでなぜこの種の言説が頻繁に取り扱われるのかは自分の頭で考える必要があると思う。

*3:より正確には、接合することも可能だけども、両者の意味を相当深く理解しないと厳しい。