普通の法務の現場録

企業法務人の管理人が、「普通の法務の現場目線」という切り口で、現場の暗黙知を言語化しようと試みているブログです。

【書籍】弁護士になった「その先」のこと。

 弁護士になった「その先」のこと。(中村直人・山田和彦、商事法務)を読みました。 

弁護士になった「その先」のこと。

弁護士になった「その先」のこと。

 

 

● 本書の趣旨

 本書は、会社法等で著名な弁護士である中村直人弁護士が、自身の事務所の若手向け研修で話をした内容の反訳をベースにした書籍となっています。

 はしがきにも書いてありますが、これから弁護士業務のノウハウを身に着け、自分自身の名前でご飯を食べていこうとする若手弁護士に対して、中村弁護士が試行錯誤して身に着けてきたノウハウを惜しみなく開示し、これからの時代を担う若手弁護士に対して一つの弁護士としての生き方を示した書であると思います。特に、若手弁護士においては身近なところに「手本」がいないことで悩むことも少なくないと思います*1。そういった若手弁護士にとって、本書は、本来であれば先人の背中を見て学ぶべき事項を取得するための一つの方策になるのではないかと思いました。

  

 具体的に本書に記載されている内容としては、

  ► 弁護士業務の基礎

  ► 仕事の進め方

  ► 営業の仕方

  ► やってはいけないことなど

  ► 自分の方向性

  ► 事務所の運営に関する事項

といったもので、若手弁護士が目の前の職務に対して地に足ついて悩む事項から、少し遠いところでぼんやりと悩む事項まで記載されていると感じます*2

 

 このような具体的なノウハウというのも、もちろん非常に参考になるところですが、本書を読んでいて強く感じたのは、自身の顧客が求めているものは何かを徹底的に考え、そこに合う形で自身の業務をシンプルに設計していくというあり方でした*3。実際、本書の中には、至る所に、法務部門、法務部門の人たちという言葉が至るところに出てきており、ここまで顧客のことを考えているのか・・・と素直に驚くのと同時に*4、依頼する視点からすると、ここまでやる弁護士の方なら信頼していろいろと頼めると感じるだろうなぁと思いました。

 

 ノウハウや考え方の開示という点では、他に中々ない書籍だと感じました。

 

● 企業内の法務担当者から見た本書

 また、本書は企業内の法務担当者から見ても相当程度の有用性があると思います。

 企業内の法務担当者が、外部の弁護士と接する場面としては様々な場面が想定されますし、その範囲は近時広がってきているように思います*5。しかし、これだけ外部の弁護士と接する場面が増えたとしても、企業内の法務担当者が企業法務を取り扱う弁護士の職務内容をどれだけ正確に理解しているかという視点から見ると、私の場合は、自身を持って「はい」と答えることはできません*6

 そういった視点から見た場合、本書においては、

 ► 企業法務を主たる業務領域とする弁護士はどのような考えを持っているのか

 ► その仕事におけるプロセスはどのようなものになっているのか

 ► アウトプットはどのようなものになるのか

といった諸点に関し、一つの形を学べるように思います。 これらを学ぶことで、一体どういった場面で依頼したら良いのか、インプットする情報はどんなものが必要なのか、どんなアウトプットが出てくるのかといったことを考える際の一つのヒントにもなるように感じました。

 

 企業法務に関わる弁護士が書いた書籍は多数あるのですが、じゃあ、実際に、当該弁護士がどういった考え方で仕事をこなしているのかを具体的に語った書籍は中々ないため、そのようなことを知ることができる本書は企業の担当者としても中々興味深く読めたところです。

 

● さいごに

 繰り返しになりますが、本書は、企業法務を主たる業務領域とする弁護士の培ってきたノウハウや考え方が率直に書かれた本だと思います*7。だからこそ、当該ノウハウや考え方を直接の「手本」とする、企業法務に携わる弁護士の考え方を知る、また、もう少し抽象的にビジネススキルを学ぶといったそれぞれの視点を持って役に立てることができる書籍かと感じました。

 

以上

*1:そのような悩みから、事務所の移籍を考える例もあるように聞きます。

*2:判例時報を必ず読むという部分では、読んだら捨てることを徹底し、後で読もうとして読まなくなる事態を防いでいるという趣旨の記載(本書133頁)は、中々真似をすることは難しいものの、読んだ書籍の感想を必ず書く等自身に合った形での応用方法はあると感じた。

*3:本書の方法論が近時の変化点である「コロナ」の影響で直接適用できない場面も出てきうるかもしれませんが(例えば、本書51頁の大部屋方式の利点等)、本書で最も重要なのは、個々の施策を真似することではなく、顧客のことを真摯に考える姿勢だとすれば、何らかの変化点があったとしても、これに対応していくことができるのだと思います。

*4:例えば、「仕事の納期に遅れない」という理由に関しても、単に社会常識だからといった言葉や、信頼を得るためにといったぼんやりとした言葉ではなく、「何故ダメかっていうと、僕らと、相談に来ている法務の人たちの、その2人の間だけではなくてですね、遅れると法務の人たちが社内で責任問題になりかねないんですね。だいたい法務は自分たちのところで問題を起こすことはなくて、営業部隊とか製造舞台とかいろんな部隊で起きた問題をやってるので、いろんな部署と連携しているわけです。」(本書28頁)のように、きっちりと顧客の背景まで言語化して説明されていたりします。

*5:訴訟対応を依頼する場面、日々の業務の中で高度な法的解釈の必要性が生じた場面、不祥事対応等の第三者としての視点を入れる必要がある場面等。

*6:本ブログの書き手はいわゆる有資格者と言われる属性の者ですが、いわゆる企業法務を主とした事務所での職務経験もないため、同じ資格を有している弁護士が企業法務を主とした事務所でどのような職務を行っているのかついて正確な理解を有していないのが正直なところです。

*7:当初は説教臭い本かと思いましたが、いざ読んでみると、そんなことはありませんでした。