【書籍】契約書作成の実務と書式 第2版
契約審査に用いる「良い」本としてあげられることが多い「契約書作成の実務と書式 第2版」(阿部・井窪・片山法律事務所/編)を読み終えましたので、一法務担当者である自分自身がどういった点に「良さ」を感じるかをまとめてみたいと思います*1
契約書作成の実務と書式 -- 企業実務家視点の雛形とその解説 第2版
- 作者: 阿部・井窪・片山法律事務所
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2019/09/24
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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● 本書の内容
・本書の最も大きな特徴としては、11の契約類型に関するひな形及びその解説が掲載されていることがあげられます。企業法務で扱うことの多いであろう売買契約、業務委託契約から合弁契約まで、代表的なものは網羅されているという印象です。また、民法改正に伴い、定型約款、協議を行う旨の合意による事項の完成猶予の章が追加されており、民法改正対応ニーズへの配慮もなされております。さらには、各契約において共通する条項については、各契約に共通する条項という章を設けての解説もなされているところです。
・このような契約類型の条項ごとに、法令上及び判例上の根拠と解説がなされていることも大きな特徴の一つとしてあげることができると思います。
・意外にあげられることが少ないですが、この点も特徴的ではないかと考えられる点としては、
第2版の執筆にあたっても、初版と同様、クライアント企業の法務部・総務部も皆様にお声がけし、契約書作成の実務に関する研究会(契約実務研究会)を開催した。研究会では実務を担当される皆様から多くの悩みや鋭いご指摘をいただいた。これらを踏まえて作成された本版も、クライアント企業の皆様と当事務所の弁護士との合作であると言える。(前掲ⅳ頁)
という点です*2。やはり、契約実務を考える際には、実際の現場で何が起きているかという点を考えることが大事だと思いますが*3、そのような点への配慮がなされていることは大きな特徴だと思います。
・以上のような点に、「良さ」というのは見えると思います。
● 本書を用いる場面
・その上で、一法務担当者の自分として本書をどのような場面で用いているかを整理してみたいと思います。
① 各契約条項の位置づけを知りたい場面
・自分自身の本書の使用場面としては、各契約条項の位置づけを知りたい場合に参照することが多いです。実際に契約審査をしていると、文字だけを捉えるのではなく、ふと、本条項は一体何のために存在しているのか?、あの条項との関係性はどうなっているんだ?と立ち止まることがあると思いますが、そのような場面で本書は役に立つことが多いです。
・例えば、売買契約における「検査」と「瑕疵担保責任(契約不適合責任)」の関係性に関し、
このような事後に発見された瑕疵等の扱いも「検査・検収」の条項に加える場合もあるが、別途「瑕疵担保責任」との条項を設けることもある。雛形は9条に別途「瑕疵担保責任」の条項を設けた例である。(前掲47頁)
と、両者の関係性を含めた雛形の設計思想まで触れられているのはわかりやすいです*4。
② 各契約条項の法的根拠を知りたい場面
・各契約条項の法的根拠を確認した場面でも本書を使用することがあります。契約審査をする際に意識する一つのこととして、民法上のベースラインとの差異はどこにあるのかというものがあると思いますが、そういったベースラインを知るために本書を参照します。単に条項があげられているだけではなく、関連する判例及び裁判例にまで言及されていますので、発展的に調べたい場合にも、そのスタートラインとして役立っております。
③ 各契約条項のサンプルを確認したい場面
・実際に契約条項を修正する場合のサンプル条項としても本書を使用することがあります。契約審査のアウトプットの一つとしては、検討結果を契約条項として文字化するというものがありますが、本書では多種多様な契約類型が網羅されているので、サンプル条項として役立っております。また、条項によっては、●●な場合はということで、条項のバリエーションも掲載されており、他のパターンを知ることにも役立ちます。
④ 実務的な留意点がないかを確認したい場面
・実務的な留意点はないかとチェックする場面でも役立っております。例えば、
これらのうち、買主工場渡しとする条件がもっとも広く行われているようであり、この場合、細かくみれば、例えばトラックからの荷卸作業は売主・買主いずれの負担かという解釈問題が生じ得る。(前掲39頁)
といった実務上問題となりそうな場面を確認することにも使用しています。
● 留意点
・では、本書の使用における留意点はないのかというと、自分は以下の点に留意して使用しています。
・やはり、大きな留意点としては、本書のみで契約審査は完結しないという点だと思います。
・契約審査の依頼が来た際のフローを考えてみるに、ビジネスモデル等の社内外の利害関係者を含めた案件概要の把握⇒契約書内容の検討⇒契約書内容を踏まえた本案件のリスクマネジメント方法の提案・先方への話の持っていき方の検討⇒(修正案送付)⇒カウンター案に関する検討⇒・・・といったフローになるとは思いますが、本書がカバーする範囲は一部にとどまるということです。目の前の案件がどのような案件かといったことやそこで見られるリスクをどう扱うかといったことは、個別に考えていく必要があります。
・また、上記のように本書では多種多様な契約を取り扱っていることから、より深めた調べものをする必要がある場合には、他の書籍等にもあたる必要があります。サンプル条項を調べるにしても一つの雛形しか記載されていないわけですから、自前の条項集や他の契約書等を参照する*5等の必要もあります。
・いろいろな留意点はあるにせよ、契約審査において、目の前の契約書と本書の整合性チェックのみを行うことは避けた方が良いと思われます。
以上、本書の「良い」点について自分なりに考えてみましたが、やはり、仕事の際には、仕事上の課題がどこにあり、その解決のために本等をどのように使うかを意識するのは大事だと再認識しました。
自分としては、契約審査に関する書籍として1冊上げるとすれば?と聞かれたら、現状では、この本をあげると思います!