【書籍】ルールメイキング:ナイトタイムエコノミーで実践した社会を変える方法論
先日、図書館をぶらぶらしていたところ、特集コーナーにて、「ルールメイキング:ナイトタイムエコノミーで実践した社会を変える方法論」(齊藤貴弘・学芸出版社・2019年)*1という書籍が目に留まり読んでみたところ、非常に興味深かったので、備忘録を置いておきます。
ルールメイキング: ナイトタイムエコノミーで実践した社会を変える方法論
- 作者: 齋藤貴弘
- 出版社/メーカー: 学芸出版社
- 発売日: 2019/04/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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● ルールメイキングって何なのか
・本書に限らず、昨今においては、「ルールメイキング」という言葉をよく聞くことがあるけれども、「ルールメイキング」って何だということになれば、
このようにテクノロジーの進化、あるいはライフスタイルやビジネスモデルの変化に対して既存の法律が適合しなくなり、法規制への対応の必要性がさまざまな領域で議論されるようになって久しい。法律を妄信的に守るのではなく、創造的に法解釈を行い、場合によってはルール自体を変えていかなければならない、というたぐいの議論である。(前掲6頁)
というのが端的でわかりやすいものになっているかと思います。
・既存のルールを変える試みといえば、「ロビイング」という言葉も聞くことがあるけれども、本書では、
未来の産業を創出しようとするイノベーターたちにこそ、もっともルールメイキングが必要な立場にあるが、そのためのリソースがないというジレンマに陥ってしまう。それゆえ、このようなジレンマを回避し、イノベーションをスケールするための新しいルールメイキングの方法論が必要とされる。(前掲8頁)
と述べ、旧来想定されていた「ロビイング」活動とは異なる「ルールメイキング」の方法が必要となってきているとも指摘しています。
・これらのことを関して、著者は、「ロビイング2.0」を検討すべき時代がやってきていると述べています。
● 本書で記載されている手法
・ 本書においては、このような「ルールメイキング」という視点から、著者が、風営法の改正及びその後のナイトタイムエコノミーを具体的にスケール化していくために、様々な利害関係者を巻き込みながら、一歩一歩前進していく様子が極めて具体的かつ詳細に描かれています。
・例えば、風営法改正に向けて多様な利害関係人の合意形成を図る場面においては、
不動産デベロッパーから見た夜の価値と、ライブ・エンターテインメント業界から見た夜の価値は異なるし、風営法の問題点の捉え方も異なる。さまざまな業界の複眼的視点を集めるのが重要である。そして、この複眼視点は各業界の実務に根ざしたものである必要がある。(前掲77頁)
と記載されているように、「多種多様な業界の」「実務に根差した」視点を集約するといった非常に重要ではあるものの、実際に実践しようとした場合には非常に多くの課題が見つかるであろう場面においても、諦めることなく、一歩一歩着実に積み重ねていく様子が描かれています。本書に書かかれている利害関係者の数や属性、また、活動の期間を見るだけでも、おそらく、実際に行われたルールメイキングの過程では、多数の関係者を巻き込んだ地道な一歩一歩の積み重ねがあったことが推測されるところです。
・その他にも、具体的に参考となる手法はたくさんあるのですが、「ルールメイキング」の大きな流れをまとめると、以下の形になろうかと思います。
① プレイヤーを組織する
② ルールを変える
③ ルールを使う
④ ネットワークをつくる
⑤ 社会へ実装する
● 本書の思考を活かしていくためには
・著者は、本書において、「ルールメイキング」の視点から、法律家に求められる役割に関しても述べています。
画一的な法規制からより柔軟なリスク・マネジメントへ。この局面では法律家に求められる役割も大きく変化する。法規制型においては、基本的には関連法規をリサーチして事業内容が法規制に適合しているかをアドバイスすれば足りる。法解釈に際して規制当局との折衝等が必要な場合はあるが、法律適合性の判断はある種の単純作業である。しかし、リスク・マネジメント型はより事業内容に踏み込んだうえで、立体的で多角的な制度設計が求められる。法律家の仕事は、よりアーキテクチャーやデザインの領域に近くなる。(前掲240頁)
・自分自身の企業内法務での役割に落とし込んで考えた場合に、このようなルールメイキングの思考が役立つ場面としては、①対外的な制度設計の場面、②対内的な制度設計の場面の2つがありうるような気がします。
・①に関しては、対外的な制度設計業務をいずれの部門が担うべきかという問題はあるものの、凡そ本書で記載されているようなスケール感での制度設計に関わっていくことになるのではなかろうかと思います。特に、テクノロジーやライフスタイルの変化に合わせて法制度の設計が追い付いていない業務領域でビジネスを行おうとしている企業においては、このようなスケール感のある「ルールメイキング」思考は、ビジネスを推進していく上での一つのカードとして検討していく必要があるように思います。
・②に関しては、本書で描かれるようなスケールのものではないにせよ、現在の「不確実性」が増した世の中の状況を考慮した上での、法務部門内又は全社的な制度設計の場面で、「ルールメイキング」思考は役立つ可能性があるように感じます。社会状況の変化やリーガルテック等のテクノロジーの進歩により、社内における制度やルールといったものは、健全な範囲で変化していくことになろうと思いますが、この過程でも、単なる「押し付け」ではなく、上記で見たような「多種多様な利害関係人」を巻き込んだ上での変革が必要になってくると思います。その過程では、このような「ルールメイキング」思考が、役に立つ場面も出てくることもあろうかと思います。
本書で紹介するような「ルールメイキング」思考が、一体、どういう場面で必要になってくるのかをしっかりと認識し、きっちりと「変化」に対応していくことが重要になってくると再認識した次第です。
*1:著者のインタビュー記事:https://business.bengo4.com/articles/585