普通の法務の現場録

企業法務人の管理人が、「普通の法務の現場目線」という切り口で、現場の暗黙知を言語化しようと試みているブログです。

【法務】法務担当の私にマインドチェンジがあったなと感じた2つの瞬間

 法務の仕事を7,8年やってくると、自分自身が仕事に向き合う際のマインドに変化が起きたな…と感じた瞬間が何度かありました。その中でも、大きく変わったなと感じた瞬間について言語化しておきたいと思います。

 

1.ルールが変わったことに気付いた瞬間

 私自身の属性は、いわゆる有資格者で、現在の職場にはいろいろあった末に流れ着いた形になります。そういった背景もあってか、法務の職種で働き始めた当初は、「法的な専門性の深さ」が評価されるための軸に違いないと思って仕事をしていたように思います。正直なところ、当時のいろいろな就職環境下で翻弄されたことから、うまくいっているように見える同期に対する恨み節のようなものが歪んだ執着をもたらしていたことは間違いないと思います。

 ただ、しばらく仕事をしていると、折角企業内にいるのであるから、法的な専門性の深さという軸で拘ることは逆にもったいないのではないか、それよりも企業内でしかできない向き合い方をした方が良いのではないかと考えるようになり、法的な専門性の深さよりは、「現場目線での事業への理解」を重視するようになった記憶です。正直、この時点では、消極的な意図で仕事への向き合い方が変わったという程度だったとは思います。

 さらにそんな調子で仕事を続けていると、他の人がどういう軸で仕事をしているのかというのが何となく見えるようになってきて、どういう人が評価されているのかというか、どういう人が評価されないのかが見えるようにはなってきた記憶です。この時点になって、ようやく、自分の働いている場所は「法的な専門性の深さ」ではなく、「ビジネスパーソンとして成果が出せるか」という軸で評価される場所だと気づいたんですね。最初からルールの違いを把握している人はいるのでしょうが、自分の場合は中で試行錯誤してようやく気付いたという感じでした。

 こんな感じでルールが変わったことに気付いたのが、自分にとっての大きなマインドチェンジがあった瞬間だったことは間違いありません。

 

2.事業の先にいる人に気付いた瞬間

 「ビジネスパーソンとして成果が出せるか」というルールの存在にようやく自覚的にはなったのですが、じゃあ、これは一体どういうことなのかが全くわからないというのが、次の課題ではありました。よく、ヒトモノカネの流れを知ってとか、法務パーソンは優れたビジネスパーソンであるべしといった言葉も聴きますが、自分の行動レベルにまで腹落ちしていなかったからか、何か引っかかりがある日々が続いた記憶です。

 そうした中で、タイミングに恵まれて、所属企業において新規事業の提案を行う研修に参加することになりました。そこでは、市場調査や実際のユーザーのニーズを探るインタビュー等を経験することになりました。

 この「事業の先にいるユーザーのニーズ」に触れたことで、ようやく、自分の中でハッとする瞬間が訪れたのを覚えています。それまでは、紙の上でヒトモノカネを整理する、企業の戦略を理解する、それらに沿ってリスクマネジメントを行っていくという一歩離れた社内コンサルのような感覚だったのが、事業の先にいるユーザーのニーズを掴みとろうとした経験をすることで、一気にグッと事業がリアリティあるものとして掴みとれるように感覚を味わいました。

 こうやって事業を作っていくのか…というこの感覚は、自分の中で大きなマインドチェンジをもたらすものでした。それまでは、事業に関係のありそうな事象に出会っても、どうしても「リスク」という切り口でしか想像が及ばなかったのですが、「市場がどう変わってどこにニーズが出現するか」という切り口での想像を試みるようになってきたのは大きな変化だと思います。

 

 上記のような2つの経験を通して、ようやく、法務の専門職能に籠っていてはダメで、ビジネスを創っていく方向でのスキルを上げていきたいと思えるようになったのが現在です。このマインドになるのに時間はかかったのですが、一つ一つ積み上げていきたい次第です。

 

以上

【法務】法務担当の私がチームリーダー的なのをやって不完全燃焼だった点の振り返り

 数年前、数名のチームのチームリーダーをやることになりました*1。その際、いろいろと試行錯誤したものの、不完全燃焼というか、想定通りの結果を達成することはできませんでした。今になって考えたときに、どういう点がダメだったのかについて分析できる気がするので、言語化してみたいと思います。

 

1.不完全燃焼原因

 前提としては、あるリスクを担当するチームにおいて、数人のチームのリーダーとなった際の振り返りになります。

 担当としてそれまでもいろいろと課題を感じながら仕事をしてきたので、折角のチームリーダーということであれば、自分なりにいろいろと考えて、チームをうまく運営しようと試みたことは覚えています。

 まず、自分の中で考えたのは、チームの「軸」をきっちり定めるということでした。それまで担当として業務を行ってきましたが、チームとしてどうあるべきかという点はすっぽりと抜け落ちておりましたし、業務の属人化というどこの組織でもある課題かと思いますので、これを自分なりに解決しようと考えたことによります。

 その際は、3つの軸を設定したことを覚えています。具体的には、チーム自体の役割軸、他拠点との役割分担軸、個々のメンバーの役割軸を設定しました。

 ここまでは良かったと思うのですが、当時の私が実力不足だったなと感じるのは、この時点で満足してしまい、設定した軸とその意図の共有、そして、設定した軸と具体的なチームの活動との繋がりをうまく設計できなかったという点です。

 まず、前者の設定した軸とその意図の共有という点では、個々のメンバーの役割軸については容易に伝わったと思いますが、チーム自体の役割軸と他拠点との役割分担軸はその意図を伝えきることができませんでした。結果、全体最適を図る際の肝となる2つの軸が抜け落ち、個別最適のみが追求される形になってしまったように思います。リスクベースの観点から行くと、効率性が削げ落ち、濃淡管理ができないということかと思います。

 また、設定した3つの軸について、管理可能なレベルの「変数」をしっかりと設定することを怠ったのもまずかったなと思います。結果、自分のやりたいことはあるものの、具体的に何をして、何を見れば良いのか、といったアクションのレベルが全く見えていなかった状況だったように思います。

 

2.改善点

 似たような職務を担うことになった場合の改善点としては、以下のようなところかなとは考えます。

 まずは、自分がチームを通してやりたいことについて、管理の切り口から深堀して、管理可能な「変数」を特定することは忘れないようにしたいところです。かつ、この「変数」をきっちりとチーム内に「伝える」というのは意識しなければとは感じます。どうしても法務パーソンの場合、言葉で資料を作成するというのは得意な人も多いですが、伝えるという切り口で考えると言葉だけでなく、図や表といったより直感的にわかりやすいツールをうまくつかっていかないととは感じます。この点は意識して、日々、観察して「変数」を見つけるスキル、図や表を用いて「伝える」スキルを身に着けていきたいところです。

 また、リーダーシップという観点で他人に影響を与えるスキルも身に着けていかねばならないと感じます。法的な知識という分野に閉じこもっていると、中々、リーダーシップを発揮して他人を巻き込んでいくことは不得手になってきますが、状況に応じた複数のリーダーシップスタイルをきっちりと身に着けていきたいと考えるところです。自分の考えを他人に伝えてチームで実施するというのは、非常に難しいことだとわかりましたので、自分なりのリーダーシップを獲得していきたいところです。

 

 法的な専門職種という枠に籠らず、ビジネスパーソンとしての普遍的なスキルをしっかりと身に着けていきたいと改めて感じる振り返りでした。

*1:現在は、組織変更や異動等の様々な事情でやっていない。

【法務】法務歴7、8年目くらいの私に最近刺さった本5選+α

 最近、新入社員に薦める*1、3から5年目くらいの法務担当に薦める*2といった形でオススメ書籍をまとめてみたのですが、法務歴7、8年目くらいの今の私に最近刺さった本についてもまとめて見たいと思います。組織に目を向けるという切り口での本になります。

 

1.Q&A若手弁護士からの相談199問 特別編‐企業法務・キャリアデザイン(京野哲也編著、ronnor・dtk著、日本加除出版)

 組織でのコミュニケーションの観点で刺さりました。

 本書については別の記事で感想を書いたのですが*3、実務的な切り口でのコミュニケーションを言語化した本になってます。契約ノウハウや法務の心構えについて歴戦の実務家の方が言語化した書籍は他にあるのですが、そういった専門性あるスキルとは別に、実際に組織でうまくやっていくためのコミュニケーションを法務の観点で書いた本は中々ないと思います。また、ある一定の年次になってくると、やってくる案件をこなす以上の役割が求められるわけで、そういった際には必然的に「他人を巻き込む」ということが必要になってくると思っております。ちょうど自分の場合はそういった役割が期待される年次になってきたことから、今の自分の悩みに直結した本ということでバシッと刺さりました。

 

2.官僚が学んだ究極の組織内サバイバル術(久保田崇、朝日新書

 ダーティーな面も含めて組織での立ち回りという観点で刺さりました。

 1.の書籍が正当派な切り口での組織内でのコミュニケーションを書いているとすれば、本書は保身や根回しも含めた少しダーティーな面も含めた切り口での組織内でのコミュニケーションを書いている印象です。こういった組織内での立ち回りというのは、以前であれば飲みニケーションや出社時の観察といったことから身に着けたのでしょうが、そういったものがなくなりつつある現在においては、そんなの「当たり前」と思われるようなことも意識して学んでいく必要があるのだと感じます。案件遂行だけを考えていれば良い年次から卒業しつつある自分には刺さりました。

 

3.業務改革の教科書‐成功率9割のプロが教える全ノウハウ(白川克・榊巻亮、日本経済新聞出版)

 業務改善の手法を学ぶという観点で刺さりました。

 それなりの期間を同じ組織で過ごしていると、多かれ少なかれ組織の仕組みに対する不満というモノは出てくるように思います。ジュニアの年次であればまだしもそれなりの年次になったならば、自分自身で業務改善を企画し、抵抗勢力を説得し、新しい仕組みを作っていく必要があると感じます。そういった際に、業務改善の手法やツールを何も知らずにやった場合には、中々、他人を説得するというのは厳しいところがあります。企業が大きかったり、歴史が長ければなおさらだと思います。周囲を巻き込み説得性ある業務改善提案をしていく年次になった自分には刺さりました。

 

4.ビジネスプロセスの教科書第2版(山本政樹、東洋経済新報社

 組織のプロセスを学ぶという観点で刺さりました。

 3.で見た業務改善を提案するにしても、自社のビジネスプロセスを言語化・図示化した上で分析した資料を作成しないと、他人を説得するのは容易ではないとひしひしと感じております。その観点で行くと、ビジネスモデルについて分析する方法を述べる本はいくつもありますが、ビジネスプロセスについて分析する方法を述べる本は中々ありません。本書の特徴は、ビジネスプロセスの「教科書」という名前の通り、そういった分析手法について具体的かつわかりやすく書いており、興味深く読めました。組織の現状を分析する必要に迫られた自分には刺さりました。

 

5.担当になったら知っておきたい「プロジェクトマネジメント」実践講座(伊藤大輔日本実業出版社

 自分で企画した業務を遂行するスキルを身に着ける観点で刺さりました。

 3.で見たように企画し、4.で見たように分析したとしても、実際に「実行」し「完遂」できなければ、結局は意味がないことになってしまいます。じゃあどうしようかということですが、自分の場合は、プロジェクトマネジメントの基礎を書籍で学んでみたのが非常に役に立ちました。当たり前ではありますが、目的、スコープ、コスト、期間、それらを管理するための手法について、取り入れられる部分だけでも取り入れてみるだけでも、自分で企画した業務を「管理している感」というのは全然違う印象です。他にも学べる書籍はあるのですが、私の場合は本書をたまたま手に取って納得感を持って読むことができました。業務を実行し完遂するためどうしたら…と考えた自分には刺さりました。

 

番外編.法務関連コミュニティ

 書籍とは異なりますが、法務関連のコミュニティに顔を出すというのは、最近の私には刺さるところではあります。私の場合、SNSを通して情報に触れることもありますし、SNSとは全く関係のないコミュニティで情報に触れることも多いです*4。ただ、いずれにしても、自社内で完結していれば見えないもの、感じ取れないものは多数ありますし、また、周囲を巻き込む必要がある年次になってくれば、他社の方を含めたコミュニティで得た情報も考慮の上で企画していくというのは、発想力の観点でも、説得力の観点でも、重要になってくると思います。そして、ある程度の年次になって来れば、自分からいろいろしゃべるというのもできてくるので、関りが楽しくなってきます。なので、殻に閉じこもらず、積極的に周囲と関わりを継続していこうとは感じる次第ですし、同じくらいの年次の人には非常におススメです。

【書籍】Q&A 若手弁護士からの相談199問 特別編―企業法務・キャリアデザイン

 Q&A 若手弁護士からの相談199問 特別編―企業法務・キャリアデザイン(京野哲也編著、ronnnor・dtk著、日本加除出版株式会社)を読みました。企業内で働く法務担当者という軸で読んだ場合の感想を書いてみます。

 

 

1.本書の特徴

 本書を読んだ私の感想としては、企業で働く中堅の法務担当者に刺さる本という印象を受けました。自立して業務遂行ができる前の若手やマネジメントの立場である部課長よりは、実務を主で担当している法務担当者向けの印象です。

 まず、本書は司法研修所教官経験のある弁護士の方1名、匿名の企業法務関係者2名により書かれた書籍で、その構成としては、第1章顧問弁護士編、第2章法務パーソン編、第3章キャリア編という構成になっており、読み手としては、企業の外で働く弁護士や企業の中で働く法務担当者のいずれも読みうる内容とはなっております。特に、本書のはじめにの項目にもあるところですが、コミュニケーションやキャリアといった従来であればOJTや飲みニケーションといった場で先輩から後輩へ伝えられてきた事項が言語化されているのは印象的です。

 また、QA形式をとっていますが、一つ一つのQAが独立しているわけではなく、章立てごとに連続した内容となっており、通読がしやすい構成になっております。むしろ、通読した方がその前後関係も含めて理解しやすい構成になっているように思います。

 類書との比較で行くと、現役の法務関係者が自身の持つノウハウを言語化した書籍というのは複数あり、それらは「著者である私の」視点で書かれていることが多いのですが、本書は「読み手である私の」視点で書かれている印象を受けます。その観点では、中々、商業誌で言語化しづらい観点をうまく言語化している印象は受けるところです。

 

2.本書に書いてあること*1

 本書に書いてあることとしては、上記でも述べましたが、コミュニケーションやキャリアといったものになります。

 印象に残ったQAとしては、Q87「上司に報告すべきタイミングはいつがよいですか?」*2という問いにて、上司は「普通の上司」であることを想定して動きましょうという指摘がなされているもの、Q98「後輩を指導する際の注意点は何ですか?」*3という問いにて、後輩は「信じられない程できない」と想定して動きましょうという指摘がなされているもの、の2つがあります。組織で働く以上、どうしても人間関係に悩む法務担当者も多い印象で、これが原因で転職をする方も相当数いる印象です。そういった際に、上記のようなマインドの持ち方をバシッと指摘してくれる書籍は非常にありがたいところです。

 また、人間関係というと、随所に「ナイスでない人」への対応方法が書かれているのですが、これも同趣旨で良い問いである印象を受けました。

 こういった自部署の中や外の人とのコミュニケーションについては、類書では中々触れられていないので、これを学ぶには良いと思います。特に、中堅法務担当者はこういったコミュニケーションが増えてくる年次なので、参考になることが多いと思います。

 

3.本書に書いてないこと

 逆に、本書においては、具体的な契約審査の方法については一切触れられていません。ですので、契約審査に関して独り立ちできていない法務担当者が読むには、まだ早い気がするところです。

 また、Q47「法務パーソンがビジネスを熟知すべきと言いますが、熟知すべき自社ビジネスの内容は具体的には何ですか?」*4という問いにて、事業理解のための項目をあげていますが、製造業ベースの項目にすぎず他業種への応用可能性がどこまであるのかといった点は考慮する必要はあります。この点も、自社ビジネスの見方が全くわからない法務担当者が読むには、まだ早い気がするところです。

 ただ、上記のような点も、本書のターゲットがどのようなものかを加味すると、それほど変ではなく、本書に求めるものが何か次第な気はします*5

 

4.本書の活かし方

 本書の活かし方とすれば、個人的には、やってきた案件を一人で回すことができるようになった法務担当者が、自分から能動的に組織内外の人と協力してもう一段階実務能力を上げるために読む、という使い方がかなりフィットする印象です。

 周囲を見ていると、この層は次のキャリアをどうするかについて悩む傾向にもありますし、また、地に足つかずに小難しいカタカナの概念的な言葉を振り回してしまう傾向も見て取れるところです。そうではなく、地に足付けた方法で次のステージに行くという方向性を模索するのであれば、本書で書いてあることは地味ながらも地に足付けた実力を身に着けるために寄与することが書かれている印象を受けました。

 結論としては、本書に書いてあるようなことをベースにコツコツやっていくのが良いのだと感じるところです。

 

以上

*1:なお、Q185「転職とそのリスクについてはどう考えればよいですか?」(本書229頁‐231頁)の問いにおいては、「経営アニメ法友会」があたかも経営法友会、組織内弁護士協会および国際企業法務協会と同格の団体かのごとく記載されています。

*2:本書119頁・120頁

*3:本書130頁

*4:本書63頁‐65頁

*5:ただし、本書のタイトルが「若手弁護士からの」となっていることや、問いの中にはかなりのジュニア層に向けた問いもあるように思え、もう少しどこかの層に振り切った構成でも良かったようには感じたところです。

【法務】今の私が3から5年目くらいの法務担当者に薦める本5選+α

 年度が変わる季節ということで、仕事についても心機一転頑張っていこう!と思っている方も多くいるように思います。そこで、*1の私が3から5年目くらいの法務担当者に薦めるであろう本を選んでみました*2一人で案件を何とか回せるようになり、他領域にも興味を持つを軸に考えてみました。

 

1.スキルアップのための企業法務のセオリー(第2版)(瀧川英雄、第一法規

 担当案件を一人で遂行する軸を作る切り口で、この本を推します。

 本書の特徴は、なんといっても企業法務の担当案件遂行にあたっての暗黙知言語化されているという点に尽きると思います。特に、その中でも本書の特筆すべき点は、第2部の企業法務遂行スキルの章と第3部の典型的な法務案件のセオリーという部分で、一般的な企業であれば上司や先輩から教わる暗黙知についてうまく言語化されて非常に良くまとまっているという点です。これまでいろいろな契約書を見てきた年次であれば、それを抽象化して他案件に応用するというのはどういうことなのか、というのを学ぶことができる本だと思います*3

 

2.事業担当者のための逆引きビジネス法務ハンドブック(第2版)(塩野誠・宮下和昌、東洋経済新報社

 担当案件遂行時の視点の切り替え方を学ぶということで、この本を推します。

 本書の切り口の面白いところは、ビジネスサイドから見た視点で法的視点はどのように位置づけられるのかというのが、しっかりと整理されている点だと思います。それまで契約書中心で「法務の世界」でのみ仕事をしてきたのであれば、どこかの段階でビジネスの文脈に自分の仕事を乗っける感覚を身に着けるのは必要かと思います。本書はその視点を身に着ける観点で良い本と思います*4

 ただ、本書の内容が網羅的か否かといった点や十分に深堀されていないといった点はあるので、何を学ぶ本であるかは意識する必要はあると思います。また、ある程度の前提知識がないまま読み始めると途中で挫折する厚さかなとは思うので、その点は注意かもしれません。

 

3.民法有斐閣ストゥディア)(有斐閣

 民法の基礎体力を身に着けるのであればこの本を推します*5

 民法の入門書はいくつかありますが、本書の特徴は他の入門書では中々説明されない基本のキの部分をしっかり言語化してくれているところだと思います。企業法務の業務を行う際には、専門的な法的知識は必要があれば外部の弁護士等から調達可能なので、どこまで勉強するかは検討の余地があるところです。ただ、個人的には、民法だけはある程度の軸を持っておくと、わけのわからない相談が来た時でも事案の整理の見通しはよくなるのかなと感じます。典型的な契約審査業務から一歩踏み出す年次であれば、民法の考え方を軸として持っておくのは良いと感じます*6

 ちなみに、個人的には、契約法⇒債権総論⇒民法総則⇒物権 or 担保物権のように、具体性のある領域から勉強した方が挫折しないとは感じます。社会人になってからの勉強は挫折しないが重要な気がしますので、勉強方法は工夫した方が良いと感じます。 

 

4.簿記の本(3級・2級)

 個人的には会計的視点も仕入れていって良い時期と思います。

 ある程度、それほど重くはない法務の担当案件を一人で回せそうな軸ができたら、法律・法務実務領域以外の他の分野の勉強をしてみても良いと思います。その切り口から行くとまずは会計の分野が良いのかなぁと個人的には思います。契約審査を行うにあたっても、法的な視点以外に、会計的な視点で見れるようになると、より立体感が増して見えるようになりますし、他部署とうまくやる端緒にもなると感じます。会計の本はいろいろありますが、何だかんだ簿記からコツコツが一番良い気がしております*7

 

5.ITパスポートの本

 今後はどの業種でもITの最低限の知識は持っておいた方が良いと思います。

 会計に続けて勉強するのであればIT分野かなと感じます。製造業であっても、社内システムからビジネス商材まで、IT分野が絡まないものはなくなっていますし、そうである以上、法務業務でもIT分野に触れることは必然的に多くなっている印象です。加えて、IT分野は意識して勉強しないと言葉自体が何を言っているのかわからないこともあり、契約書に出てきたよくわからない言葉を「まぁ問題ないだろう…たぶん…」流してしまう可能性すらありうる分野だと思います。なので、ITパスポート試験で基礎的な知識を仕入れておくのは、今後を見据えると良いと思います*8

 

番外編.商事法務のメルマガ

https://www.shojihomu.co.jp/page/merumaga

 番外編として、商事法務のメルマガもおススメです。

 ニュースレターやメルマガ系は法律事務所のものなど数多くのモノがありますが、どれかを商事法務のメルマガかなと思います。官公庁からの情報や民間の情報などが整理されており、ざっとタイトル見ておくだけでも今のホットトピックが分かるように思います*9

 

以上

*1:2023年4月3日

*2:いわゆる有資格者ではない前提。

*3:1年目の法務担当者にお勧めする方も多い印象ですが、個人的には、1年目が読むには結構難しいことを言っている印象はあります。

*4:ただ、本書の切り口のみが唯一の切り口かは再考の余地はあるかもしれません。著者の仕事における業務改善等の視点が出てるような気もしなくはないので、自社にあった切り口を考えるのは必要かもしれません。

*5:物権法はまだ出てません。2023年4月3日現在。

*6:周囲を見ていると、法務業務の遂行にあたっては、まず「教科書」や「基本書」をしっかりと読んでからと意見に出会うことは多いです。ただ、ほんとにそういった書籍から入るのが業務遂行の効率性や優先順位の観点から適切なのかは立ち止まって考えても良いと思います。

*7:どの本が良いのかは本屋で見た方が良いと思う。

*8:どの本が良いのかは本屋で見た方が良いと思う。

*9:火曜日と金曜日に来るが、金曜日の夕方に来るやつは、今週もようやく終わった…とのアラート機能にもなります。

【法務】ビジネス法務5月号の「法務を変える」費用対効果の意識と実践特集を読んで

 ビジネス法務2023年5月号の特集2は「法務を変える」費用対効果の意識と実践というものでした。参考になった部分の感想を書いてみます。

 

 

 攻めの法務や守りの法務、経営法務人材等といった様々な法務業務に関する言葉が昨今出現していますが、法務担当部署自体はいわゆるバックオフィスに位置づけられることから、「費用」面については意識した上での業務遂行が必要になってくるように思います。本特集はそのような「費用対効果」の観点で法務業務を論じたものになりますが、この観点では、契約書作成・レビューの効率化:「着地点」を見据えた対応(板橋健・神田智之・外山信之助、本書71頁‐73頁)という記事が個人的には気になりました。

 

 本記事は、三井物産における「着地点」を見据えた対応、具体的には、「中立的な」契約書雛形の作成による契約交渉コスト等の効率化について述べられていました。例えば、不可抗力、契約解除、損害賠償、秘密保持といった主要条項については売主・買主双方に適用されるようにするなどの法務部門が介在する契約審査であれば、かなり高い割合で修正提案がなされるであろう事項について、予め規定しておくといったもののようです。

 実務上、反社条項などが片務的にしか規定されていないこともままにあり、双方規定に直すための修正を行い、先方に提案するという工程だけであっても、中々面倒であり、こういった中立的な条項が業務効率化をもたらすというのは理解できるところではあります。また、論点をあらかじめ絞り込むことによる効率化というのもなるほどなぁと思うところではあります。

 ただ、デメリットとして、中立的であるがゆえに、例外的な案件の際にきっちりと中立的雛形とは別の条項を提案する必要がある場面をうまくコントロールできるかは検討する必要があるように思います。同社ではEラーニング等でビジネスサイドの担当者の自律的対応を促すとありますが、それがうまく機能するかは組織に所属するビジネスサイドのレベルや契約の頻度等次第な気もします。自社に合わせた運用が必要に感じます。

 

 本特集のテーマで行くと、個人的には、契約審査において何をどこまで修正するのかについては、いろいろと議論されていっても良いと感じます。よく言われるところで言うと、てにをはをどこまで修正するのか、重要とは言い難い箇所について「何か気持ち悪い」という理由で修正することにどこまで意味があるのかなど、「効率性」という切り口でもう少し論じられても良いと感じます。契約審査といえば「リスクマネジメント」という切り口では様々な書籍でも語られておりますが、「効率性」という切り口だとWordのテクニックとか条項のストックとかAIレビューの議論に活きがちで、どこまで何を直すのかも真剣に考えるべきテーマだと思います。

 

 個人的には、こういった「コスト」面の意識が進んでいくことは、ビジネスサイドへ意識が向いていく端緒になっていくと感じます。

 

 中々勉強になりました。

 

 以上

【法務】今の私が新入社員の法務担当者に薦める本5選+α

 季節柄、新入社員が法務担当部署に配属されることもあるように思います。そこで、*1の私が新入社員がやってきた場合に薦めるであろう本を選んでみました*2「挫折しない」が一つの軸になっています。

 

1.今日から法務パーソン(藤井豊久・守田達也編著 企業法務向上委員会著、商事法務)

 企業法務の入門本はいくつかあるのだけど、個人的にはこの本を推します。

 本書の特徴は、企業内の経験ある複数の実務家が企業法務の心構えや実際に業務を遂行する上での注意点を語ってくれている点にあります。配属された際にしっかりとした指導員の下で適切な指導を受けて仕事へのモチベーションを高めていければそれがベストと思いますが、そういった環境はそれほど多くないでしょうし、また、そもそも自分がなぜ法務部門なの…?と考える人もいると思います。そんなとき、新入社員の法務担当者の方が仕事に前向きに取り組む気持ちにさせてくれる本だと思います*3

 他にも類似のテーマの本はあるのですが、「読みやすさ」という観点を重視すべきと私は思うので、本書を推します。本を読むって想像以上にハードルが高い。

 

2.契約書の見方・作り方 第2版(渕邊善彦、日経BPマーケティング

 契約書の本を1冊読んでみようと思うなら、この本を推します。

 本書の特徴は何といっても薄くて挫折しにくいというところだと思います。法務担当として配属されると、まずは契約審査業務を扱うことになると思いますし、それが基礎基本になると思います。指導員の方からは、簡単な秘密保持契約書や売買契約書、業務委託契約書のレビューをしてみて!と言われることもあると思いますし、自社のひな形について勉強することを勧められるかもしれません。そんなときに、まずは契約書ってなんだ?ってところをサッと抑えておくと良いと思いますが、そんなニーズに答えてくれる本だと思います*4

 契約書の本だと定評ある書籍は何冊もありますし、また、分野ごとに紐解くべき書籍もあるのですが、まずは薄い本で挫折しないことが大事と思います。「挫折しない」がほんとに大事です。

 

3.ここからはじめる企業法務(豊島和弘、英治出版

 具体的な案件に則したOJTの意味合いを学びたいなら、この本を推します。

 本書の特徴は、製造業の法務案件の具体的な流れに沿って、ビジネスに則して法務業務を行うってどういうこと?というのが具体的かつ簡潔に言語化されている点だと思います。新入社員の法務担当の方なら指導員の案件相談に同席し、指導員の方のヒアリング状況を目にすることは多々あると思います。また、自分がヒアリングしたことに突っ込みが入ることもあると思います。そんなとき、その突っ込みの理由をしっかりと言語化した指導をしてくれれば良いですが、中々そう都合よく教えてもらえないかもしれません。本書はそのヒアリングの「背景」をストーリーに沿って書いてくれており、非常に良いです*5

 

4.コンサル一年目が学ぶこと(大石哲之、ディスカバー・トゥエンティワン)

 ビジネスパーソンの物の考え方ってどうやるの?の基礎を学ぶのに良い本だと思います。

 本書の特徴は、いわゆるロジカルシンキングとか結論から話すとか、ビジネスパーソンが身に着けておくべき基礎的なスキルをさらっと一通り学べる点にあります。新入社員の立場で一番面と食らう点としては、「会社は学校とは違う」というところだと思います。自分が新人の頃とかを思い出すと、学生気分が抜けないってのはあったように思います。というか、先輩や上司が何をやろうとしているのかもよくわからなかったです。そんな中でも、本書は、ビジネスパーソンとして先輩社員や上司と「対話」していくための基本のキを身に着けるのに役立つと思います*6

 

5.法学を学ぶのはなぜ?(森田果、有斐閣

 法律をちゃんと勉強してみよう!という気にさせてくれる本だと思います。

 法務担当として配属される新入社員にはいろんなバックグラウンドの人がいると思います。めちゃくちゃ法律の勉強をしてきた人、法学部だけど全然勉強しなかった人、そもそも法学部ですらない人もいると思います。人によっては法律の勉強とか無理…と思う人もいると思います。それは仕方ない。でも、配属された以上は、仕事に必要な勉強はしなければいけないし、できれば楽しんで勉強できると良いと思います。本書は、法律って難しいよね…っていうのは受け止めた上で、よくあるお勉強本とは一味違う本になっています。具体的には、法律があることで人や社会てどうやって変わってくの?みたいな少し変わったことというか、面白いことが書いてます*7

 個人的には、せっかく法務担当として配属されたのであれば、面白く興味を持って法律の世界に入っていってほしいと思います。人生に新しいページが増えることもあるかもしれません。

 

番外編.ビジネス実務法務検定試験

 いくつか本は紹介してきましたが、やはり「資格試験」という目標があると勉強しようという気持ちになると思います。個人的には、ビジネス実務法務検定の3級・2級を順番に受けることをお勧めしたいです。ビジネスに必要な法律知識という切り口からざっといろいろな法律を学ぶのに非常に良い検定だと思います。

 

以上

*1:2023年3月26日時点。

*2:別の切り口での本についても選定予定です。有資格者として初めて法務担当になったときに読んだらよいと思う本、3から5年目の法務担当が読んだらよいと思う本とか。

*3:ただし、全部が全部その通りとは思いません。こういう考え方もあるんだ!まずは試してみようかな!くらいで読むのが良いと思います。

*4:ただし、民法改正の過渡期の本なので、そこの構成が読みにくい。

*5:ただし、製造業以外の新入社員にどこまで響くかは不明。

*6:ただし、どれだけ本で学んでも実際の仕事は最初は辛いものがある。

*7:ただし、本書の見方は一面に光をあてたものに過ぎない。