普通の法務の現場録

企業法務人の管理人が、「普通の法務の現場目線」という切り口で、現場の暗黙知を言語化しようと試みているブログです。

【その他】2020年に読んだ本5選(法務関連以外)

 2020年も読書生活を続けてまいりましたが、その中でも、個人的に印象に残った本をまとめておこうかと思います。

 

1.ブルーピリオド(山口つばさ)

 

 何でも器用にこなして生きてきた主人公の矢口八虎が、それまで何の縁もなかった「絵」というものに偶然出会い、「絵」の世界へと進んでいく中での様々な出会いを通し、悩み、葛藤し、それでもその度に乗り越えて成長していくストーリー。

 「絵」の世界というと、どうしても「才能」の有無というものに大きく左右される世界だと思われるし、実際に漫画の中でもいろいろな「人」が登場するんですが、都度、「自分の強み」は何かといった冷静な分析の中で道を切り開いていく主人公八虎の生き方を見ていると、いろいろと勇気づけられます。何よりも、ストーリーが進むにつれて、どんどん、絵に対して真剣に向き合っていく八虎の様子がかっこいいんですね。

 熱くなれる漫画です。

 

 

2.情報なき国家の悲劇 大本営参謀の情報戦記(堀栄三) 

情報なき国家の悲劇 大本営参謀の情報戦記 (文春文庫)
 

 

 大本営の情報参謀であった堀栄三氏による書籍です。

 太平洋戦争期における日本軍が「情報」に対してどのように向き合ってきたのか、という点に関し、日本軍の中枢にいた著者の回顧録という形で詳細に描かれています。日本軍の一参謀が行っていた「情報」の収集・分析手法の一端を垣間見ることができます。

 本書を読むとわかりますが、大本営参謀にも作戦参謀と情報参謀という立場があり、現代の組織にもママに見られるように、両者の間では対立関係があったようで、情報参謀が収集・分析した貴重な「情報」が活かされないといった事態が生じていたようです。中には、握りつぶすといった状態も・・・。

 「情報」を取り扱う仕事をしている人には、参考になることが多く書かれている本かと思います。

 

 

3.沖縄スパイ戦史三上智恵

証言 沖縄スパイ戦史 (集英社新書)

証言 沖縄スパイ戦史 (集英社新書)

 

 

 2.の書籍が太平洋戦争における「組織」の実態を描いたものであれば、本書は、そのような組織活動の結果、「現場」にいた住民がどのような状況にあったのかに関し、当時を経験された沖縄の方々への取材を通して明らかにしていく書籍です。

 戦時における住民に対する見方としては、どうしても「被害者」として位置づけることが多いかと思います。しかし、軍による住民虐殺、住民同士による殺害といった「加害者」としての住民という事実もあったようで、本書ではそのような事実を当時を経験された方々へのインタビューを通して明らかにしていきます。

 「加害者」と「被害者」が、戦後、同じ地域で暮らすことは当事者にとって何を意味するのか、そういった戦争の「現実」を考えるきっかけとなる書籍かと思います。「組織」の問題と、「現場」の現実の双方から、後世の我々は教訓を得ていかなければならないと感じました。

 

 

4.戦後史入門(成田龍一

戦後史入門 (河出文庫)

戦後史入門 (河出文庫)

  • 作者:成田 龍一
  • 発売日: 2015/07/04
  • メディア: 文庫
 

 

 こういうご時世だからこそ、一度立ち止まって「歴史」について学んでみようと思い、読んでみた書籍。

 日本にとっての「戦争」が終わってから既に75年経過するわけですが、本書では、そこから始まった「戦後」の簡単な概略を述べていく内容となっています。しかし、本書の趣旨は、そういった戦後史の「知識」を得るためではなく、「歴史」を学ぶとはどういうことか、といったことを考えさせる点にあります。

 著者の言葉を借りますが、「歴史」と「記憶」の違い、「歴史」には複数の見方があるといった様々な観点から、「戦後」というものを解説していく書籍になっています。学校の歴史の授業をもう一度受けたくなります。

 世の中がどうなっていくのかわからない現在だからこそ、むしろ、逆に、「歴史」というものを学ぶことの大切さを感じました。

 

 

5.ペスト(カミュ

ペスト(新潮文庫)

ペスト(新潮文庫)

 

 

 ペストが蔓延し閉鎖された都市での人々の生活が描かれている作品。

 もちろん本書を手に取った動機は、コロナの流行する現代社会との重なりを感じたからです。

 本書の内容面では、ペストというのはある意味での「不条理」の象徴として描かれており、そのようなペストが蔓延することで、人々の生活がより「抽象化」していき、個人としての「生き方」が見失われていっているように思います。その中でも、主人公の医師であるリウーは、一個人の立場に軸足を置き、「誠実さ」を忘れることなく、自分のできる職務をこなしていく様子が描かれます。

 不安に満ちた世の中において、自分自身はどのような生き方を志向すべきだろうかと考えさせられます。

 

 

 自分の中で印象に残った本をまとめてみると、「歴史」という部分に興味関心があった年だったように思います。先行きが見えない社会であるからこそ、一旦立ち止まって、過去の教訓を学んでみようと思っていたような、いなかったような気がします。後からのこじつけな気もします。

 2021年も自分自身がどのような本に興味関心を持って読んでいくことになるのかは楽しみです。

 

以上