普通の法務の現場録

企業法務人の管理人が、「普通の法務の現場目線」という切り口で、現場の暗黙知を言語化しようと試みているブログです。

【法務】BUSINESS LAW JOURNAL 2019年11月号 感想

BUSINESS LAW JOURNAL 2019年11月号の備忘録です。

Business Law Journal 2019年 11 月号 [雑誌]

Business Law Journal 2019年 11 月号 [雑誌]

 

 1.INSIGHT 実践的な経営者目線とは(松尾直彦・前掲11頁)

・本記事においては、企業の法務部門が「経営法務」機能を発揮するために何が必要かという切り口から、筆者の意見が記載されております。

・実際、筆者は、本記事にて、

ジェネラル・カウンセル(GC)やチーフ・リーガルオフィサー(CLO)の設置などにより、法務部門長が経営層の一翼を担うことも重要であろうが、何よりも法務関係者が「経営者目線」で思考・行動することが求められよう。(前掲・11頁)

と述べているところです。

 その上で、筆者が強調する「経営者目線」というものは、以下の7つにまとめられるようです。

  ① 自社の「経営理念」を意識すること。

  ② 「経営戦略」及び「ビジネスモデル」を意識すること。

  ③ 経営成績や株価といった「数字」を意識すること。

  ④ 「顧客」*1の「最善の利益」を意識すること。

  ⑤ 経営判断の実体的判断内容及びそのプロセスの適切性を意識すること

  ⑥ 広い視野を持ち国内・国際情勢を意識すること。

  ⑦ 「人」の「心理」を意識すること。

・筆者の指摘する上記の7つの要素というのは、至極当然のことであり、法務部門が意識する必要のあるものだとは考えられます。では、これを前提に、一法務担当者として、何ができるのかを考えてみたいと思います。

・この7つの要素のうち、一法務担当者として気になる要素は、②「経営戦略」及び「ビジネスモデル」を意識することというものです。例えば、契約審査においても、ビジネスモデルを意識する必要がある、ヒトモノカネの流れを意識する必要があるとは、多くの書籍やセミナーにおいても耳にし、私もそれを聞いては「ふむふむ」「なるほど」と、都度、思っているのですが、では、一法務担当者は、本当に、ヒアリングで仕入れた「ビジネスモデル」に関する情報を自身のアウトプットに繋げることができているのでしょうか。自分自身の職務を振り返ると、正直、怪しいものがあります。

・そこで、改めて、契約審査の際に「ビジネスモデル」を考えることの意味を整理してみます。

 まず、大事になってくるのは、①当該取引に利害関係者を整理することだと思います。いわゆる商流関係の整理、社内外でのヒトモノカネの動きの整理になるかと思います。その上で、このことからどういうアウトプットができるかというと、当該利害関係者との間で生じうる法的リスクを分析することになるかと。そして、そのリスクを契約又は運用面で対処していく。

 次に、深めるとすれば、②当該ビジネスモデルに内在する固有のリスクを整理することだと思います。おそらく、このレベルが難しくかつ腕の見せ所になるかと。例えば、商社や金融ビジネスのようなリスクを付加価値に変えるモデル、メーカーのようなモノを付加価値に変えるモデルでは、アプローチは変わってくると思います。さらに、メーカーモデルだとしても、製造工程のリソースが少ない事業であれば納期遅延リスクが重要なリスクになるでしょうし、汎用品を大量売買する事業であれば一品一様型の事業より機械的なシステム依存のリスク対応策が馴染みやすい等もありうるかと思います。

・と、少し考えてみましたが、一法務担当者の立場でも「ビジネスモデル」を理解することの意義は常に問い続ける必要があるのではないでしょうか。

2.今求められる社内規定の見直しポイント 違法な協調行動・贈収賄の防止(川島佑介・前掲28頁)

・本号の特集は、「社内規定」の見直しというものでした。「社内規定」は法務業務とは切っても切れないものですね。

・その中で、本記事は、違法な協調行動と贈収賄に関する規定に焦点を当てております。

・本記事で述べている規定のポイントは、

 違法な協調行動・贈収賄に関するコンプライアンスの実効性を確保するためには、具体的な事案や場面を想起しながら、いかに平易かつ理解しやすいマニュアルを作成するかが重要なポイントとなる。(前掲28頁)

というものに尽きるかと思います。

 その上で、違法な協調行動というものに絞ると、

 ① 違法な協調行動に巻き込まれそうになった場合の対応

 ② 競争事業者との接触に関する事前申請・事後報告に関する制度

 ③ 社内文書作成時の留意点

 ④ 法改正に伴う見直し

辺りが、重要なポイントとなってくるようです。

・さて、このようなまとめの上で、一法務担当者として何ができるでしょうか。

 一法務担当者として、考えるべき重要な視点としては、違法な協調行動であれば、どういう心理状態の場合に違法な協調行動が発生しやすいのか、を考えることが一つ重要かと思います。

 例えば、市場のライフサイクルにおける成熟期や衰退期の局面であれば、どういった事業戦略がとられることが多いか。コスト削減のために、他社とのリソース共同化、OEM戦略の実施、事業提携の実施等の場面は生じないか。そういった戦略をとる場合ととらない場合で、どういう心理状況が起きるか。等々、心理面を切り口にいろいろと考えることができる気がします。

 また、この切り口から、リスク管理の濃淡化、研修内容を考えていくと、いろいろ考えることが出てくるかもしれません。

 いずれにせよ、ビジネスの局面の把握とその意義を問い続けることは大事な気がします。

・単に、文字通り「規定」を策定するだけではなく、もう一つ付加価値を付けられれば良いと思いつつ、日々試行錯誤ですね・・・。

 

以上、本号も勉強になりました!

*1:ここでいう「顧客」とは、「事業部門」というよりは、会社にとっての「顧客」を意味する(前掲・11頁)。