普通の法務の現場録

企業法務人の管理人が、「普通の法務の現場目線」という切り口で、現場の暗黙知を言語化しようと試みているブログです。

【法務】BUSINESS LAW JOURNAL 2019年9月号 感想

BUSINESS LAW JOURNAL 2019年9月号の備忘録です。

Business Law Journal 2019年 09 月号 [雑誌]

Business Law Journal 2019年 09 月号 [雑誌]

 

1.「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」の概要(塚本英巨・前掲54頁)

・本記事は、読んで字のごとく、2019年6月28日に経産省により策定された「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」*1の概要を解説する記事になっています。

・同実務指針は、コーポレートガバナンス・コードの趣旨を敷衍した上で、企業グループ全体、特に大規模な企業グループを想定した上で、企業価値の向上を図るという視点から同コードを補完する位置づけになっているようです。主な項目としては、

① グループ設計の在り方

② 事業ポートフォリオマネジメントの在り方

③ 内部統制システムの在り方

④ 子会社経営陣の指名・報酬の在り方

⑤ 上場子会社に関するガバナンスの在り方

といったものがあげられます。このような項目からすれば、今後、いわゆる大規模な企業グループと位置づけられる企業においてガバナンスの仕組みを策定する上では、本実務指針をまずベースとすることになるのでしょう。

・それでは、企業の担当者レベルにおける法務パーソン」としては、本実務指針に対してどのように向き合っていけば良いのでしょうか。実務担当者の自分としては、その点に最も関心がありますので、少し考えてみたいと思います。

・以上に掲げた5つの項目のうち、自分自身の職務に関係する項目としては、③内部統制システムの在り方になります。③の観点としては、

 基本的に、いわゆる3線ディフェンスの考え方、すなわち、第1線(事業部門)、第2線(管理部門)および第3線(内部監査部門)のそれぞれのチェック機能によるリスクマネジメントの考え方に沿って整理されている

と指摘があるように、いわゆる3線ディフェンスの考え方が強調されています。

 ・第2線に属することが多い法務の実務担当者としては、第1線(事業部門)及び第3線(内部監査部門)と業務に関してどのように関わっていくかは一つの大きな課題になるかと思います。

・まず、第1線との関わりですが、第1線に属すると考えられる人の中にも、営業担当者、管理担当者が存在すると思います。営業担当者から直接の相談を受けることもあろうかと思いますが、その場合も、自分は、管理担当者との間で密な情報共有を行いますし、営業担当者→管理担当者→法務担当者といった情報伝達経路を確保するように努めます。理由としては、第1線における当該リスク管理責任者の職責を明確化し、かつ情報集積ポイントを指定しておかないと、リスク環境が変化した場合や仕組みをアップデートする際に第1線の中でアプローチすべき人材が不明瞭になり、情報収集及び展開の効率性が阻害されると考えるからです。

・次に、第3線との関わりですが、日々の職務の中でいかに第3線の存在を意識できるか、すなわち、第3線の職務が、リスク管理規定が存在すること→当該規定の内容に沿った教育活動を実施すること→当該規定に沿った運用がなされていること、といった一連のプロセスが稼働しているか否かを監査するものであることを意識した職務遂行ができているかが大事かと思います。もし、このような第3線の職務内容を意識しないまま第2線の職務を遂行してしまうと、第3線の監査内容は、規定に沿った運用がなされているかではなく、何も問題は起きていないかという着眼点になってしまう恐れがあるかと思います。後者の着眼点の場合ですと、(ア)規定に沿った運用がなされているから問題が起きていない、(イ)たまたま何も問題が起きていないの2つを区別することができず、リスク管理PDCAサイクルが有効に機能しないことになってしまうと思います(CAの欠缺)。

・さらに、ビジネスモデルや業界の異なる多数の事業部門及び子会社を有している企業グループになると、この第1線及び第3線との関わり方はさらに複雑なものになるかと思います。この場合、少し考えただけでも、(ア)第2線として第1線に提示する全社共通のリスク管理の仕組みとしてどこまで踏み込むべきか(全部門に共通するミニマムリスクを管理可能な仕組み「のみ」の提示にとどめるべきか、それ以上の個々の要素まで踏み込むべきか)、(イ)実際にリスク管理の仕組み構築を行う際に全社同時進行にすべきか、ある部門の整備を先行させて横展開を実施すべきか、等推進にあたっては考えることが多く、自身の職務遂行にあたっても未だ悩むことばかりです。

・最近はリスク管理に関してよく勉強します。今は、以下の本を読んだりしてます。

リスクマネジメントのプロセスと実務 増補版
 

 2.令和時代の新しい法務の姿ー契約の設計図づくりでスムーズな事業推進をー(笹原健太/助川卓矢・前掲2頁)

・広告部分の対談でしたが、興味深かったです。

・どうしても法曹教育に代表される法学においては、過去に発生した事実の分析スキルは十分に教授されるが、将来に向けて物事を推進するスキルというのは意識しないと中々身に付きにくいものかと思います。

・その結果どうなるかというと、自分が考えるに、法務部門の業務遂行が受動的なものになり、主体的に働きかけた上での付加価値を提供できていないという課題に直面しているかと思います。

・このような課題に対する解としてはいくつかありうるのだと思いますが、その一つの解として、プロジェクトマネジメントのスキルというものをあげることができるかと思います。このような法務部門におけるプロジェクトマネジメントの重要性というのは、一部の法務パーソンの間で指摘されているところで*2、さらなる議論の深化が待たれますし、自分自身でもいろいろと試行錯誤していきたいです。

・こういったスキル面からの解決とは別のものとして、ITシステムを用いた解というものも考えることができるように思います。本記事においては、まさに対談者のプロダクトを例にとり、

プロジェクト単位であらゆる契約を管理できる「プロジェクトクラウド」があれば、事業立ち上げの段階で事業と法務、その他関係する部署がまず最初に集まり、プロジェクト全体の設計図を作ることが可能になります。

とありましたが、今後は、ITシステムをどう利用するかを考えていくことも必要だと再認識しました。

・結局のところ、法務業務の受動性をいかに主体性を持ったものに変えていくか、というのは極めて重要な課題であり、その解として、スキル面やIT面といった様々なものを用いていくことが必要というレベルでしか考えはまとまらないのですが、日々試行錯誤していきたいと思います。

 

本号についていたLawyers Guideも読みましたが、ある一つの分野という切り口から多くの法律事務所の考え方を知れるというのは、多分に営業トークの側面があるとしても、法律問題の切り口を考えるにあたっては中々面白いものだと思いました。

 

今月号も勉強になりました・・・!!